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聖女の代理人  作者: 春香秋灯
王都のエリカ
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最果てのエリカ様が亡くなってから

 最果てのエリカ様が亡くなったという悲報は、随分と時が経ってから聞いたような気がする。

 世界が真っ暗になってから、時間の流れがよくわからない。誰かの手を借りないと、もう生きてもいけないくらい、私は役立たずだ。


 最果てのエリカ様は、他人のために亡くなった。私とは大違いだ。逃げずに、聖域を綺麗にしたのだろう。帝国の聖域は、王国の倍あるという。

 大昔の初代エリカ様は、王国の聖域を一人で綺麗にした。それって、帝国の聖域を綺麗にするのに比べれば、全然、大したことがないのかもしれない。いや、汚れ具合は相当だった、と聞いている。そうだとすると、実は、どっちも大変だったのかも。


 それは、当のエリカ様しかわからない。


 私の面倒をみてくれる人は、ちょくちょく代わった。話し好きな人もいれば、寡黙な人もいた。男もいれば、女もいた。成長していない私は、子どもに見えたかもしれない。


 否、私は聖域から解放されたお陰で、ちょっとずつ成長している。


 なんと、服のサイズが上がった。よし、きっと胸も大きくなるはず。もう、胸がない、って言われることがないって、いう人いないか。

 外に出るのも、人の手をかりるしかない。しかも、右足が動かないので、すぐに転んだりして、怪我をする。

 結果、面倒事が多いので、私は家の中にばかりいた。窓をあけて、紅茶を飲みながら、外の風を感じる。ものすごく、暇だ。

 これまで、ともかく忙しかったから、このものすごく暇な毎日には飽き飽きしていた。どうしたって、目が見えた頃のように動きたい。






 私の面倒を見る人が続いている。男の人だ。手がゴツゴツして、あまり丁寧じゃない。でも、力があるので、ひょいっと私を片腕で持ち上げてくれる。

 体が大きいのだろう、あちこちの物を壊してくれる音がする。

 寡黙のようで、話したことがない。

 話さないから、人が代わったなんて気づくのに、一日かかってしまった。いつもは、自己紹介をしてくれるので、人が代わったんだ、てわかるのに。

「あの、私の名前は、エリカといいます。代わったのに気づきませんでした。よろしくお願いします」

 相手からの自己紹介はなく、手を握手されるだけだった。どう呼べばいいのだろう?

「すみません、トイレに行きたいです」

 無言でお手伝いしてくれる。男の人だけど、恥ずかしくないのかしら。私は慣れてるけど。

「あの、体を拭いてもらってもいいですか?」

 これも無言でお手伝いしてくれる。慣れてる?

「料理はすみません、誰かに手伝ってもらったほうがよいと思います」

 男の人だから、料理だけはやめたほうがいい。

 この男の人は、住み込みのようで、いつも傍にいてくれる。だから、私だけが一方的に話している。

「本当に、酷い男なんですよ。私に面倒事ぜぇんぶ押し付けて、夜は遊び歩いてるんですから。女の人の香水の匂いがきつい時なんか、水かけてやりました。あの匂い、頭痛くなるからイヤなのに。酒臭い時は、噴水に押してやりました。もう、本当に酷い男なのに、神官長やめて、どこに行ったのやら」

 喉を慣らして笑っているように聞こえる。

「見た目はいいんですよ。男も女も皆その見た目で許しちゃうんです。でも、私は絶対に許してあげない。借金作った時なんか、何度、私がエリカ様の予算を運用して増やして帳消しにしてやったことか。私の商才があってこそ、出来たことです」

 優しく私の手を撫でてくれる。ゴツゴツして、今も鍛えている感じがする。

「女の人だけでなく、男の人まで泣かせて、刃傷沙汰まで起こして、私、巻き込まれて右足が動かなくなったんですから。本当に最低な男」

 動かない足を撫でてくれるけど、実は感覚がないので、わからない。

「書類仕事もぜぇんぶ、私がやってあげたんです。私がいなくなったから、書類仕事出来なくって、神官長やめさせられたんでしょうね。ざまぁみろ。あの最低男のせいで、私、目まで見えなくなったんですから」

 瞼の上を何かが触れたような気がする。やわらかいから、あのゴツゴツした手じゃない。

「いいですか、私より長生きしなきゃいけないんですよ。あの最低男は、私に一杯借りがあるんです。だから、私より先に死んじゃいけないの」

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