最果てのエリカ様
とうとう来てしまった、最果てのエリカ様の面会。
でも、残念。私、久しぶりに体調悪くて、ベッドから起きられない。なので、最果てのエリカ様にごめんなさいしたのだけど、気にしないって、入ってきた。
初めて、違う聖地のエリカ様に会った。うん。綺麗な子だ。これは確かに私は外れだ。
最果てのエリカ様だけでなく、帝国の人まで入ってきた。でも、すぐに帝国の人たちは出ていった。見てられないって感じだ。
「眼鏡がないと、よく見えないので」
「横になっていていいですよ。初めまして、王都のエリカ様。元気ですか?」
「今日は体調が悪いですね」
「そうですね。お話は聞いていると思いますが、エリカ様の役割はなくなります。ここにかけられた魔法も解かれます」
「そうですか。でも、大丈夫ですか? 他の聖地はともかく、王都の聖域は、魔法をかけてまで、エリカ様をしばりつけなければいけないほどの穢れがたまっているでしょう」
王都のエリカ様は寿命が短い。それは、王都の聖域はあまりにも汚れてしまうからだ。
だから、王都のエリカ様が、その穢れを受けていた。初代のエリカ様のように。
そうなると、エリカ様が逃げてしまうかもしれない。そこで、王都のエリカ様は逃げられないように、魔法で縛り付けられていた。それは、代々、受け継がれていて、エリカ様に選ばれると、王都の聖域から離れる、なんて考えられなくなる。
他の聖域では、教育で離れないようにしていた。
王都の聖域は、魔法によって、強制的に意識下に植え付け、離れないようにしていた。
そのからくりを代々のエリカ様は知っていて、伝えてはいるが、気にしない。どうせ、エリカ様に選ばれたのだから、と諦めていた。
別に、悪いことではない。いいことをしているのだから。
穢れは、様々な形で出てくる。
私は成長が遅れた、というか、途中で止まった。
右足が動かなくなったのも、穢れのせいだ。穢れに押されて、神官長のかわりに怪我をさせられた。
視力もそう。どんどんと悪くなって、もうそろそろ、見えなくなってくるだろう。
どんどんと、色々なものを削られていくけど、成長は残ってほしかった。胸がないのは、本当に残念だ。老いがはやいほうが、はるかにマシなような気がする。
なんとなく、妖精憑きの最果てのエリカ様は、私の状況を悟ってくれていた。
「帝国の魔法使いが、この魔法を解いてくれます。もう、自由ですよ」
「そうか、自由か。何しよう」
逃げよう逃げようと神官長はいうけど、自由のほうが百倍いい言葉だ。感動で、涙が出る。涙が出るのって、ものすごい久しぶりだ。いつだろう。
「私はね、リンゴいっぱい食べようと思います」
リンゴ好きだって、言ってた。そうか、お腹いっぱいのリンゴを食べるのが、この最果てのエリカ様の贅沢なんだ。
私は考える。私の贅沢ってなんだろう。
「………もう少し、長く生きたい」
魔法はとかれても、私が奪われたものは戻ってこない。
「私も、もう少し、長く生きたいなー」
「お互い、大変ですね」
「本当に」
私は、帝国の現状を知っていた。そして、それは、最果てのエリカ様も気づいている。
「逃げていいんですよ」
「うーん、そうですね。でも、助けて、っていうんです」
「無視しちゃえばいいのに」
「私にしか、聞こえなくて、見えないんです。私が無視したら、可哀想ですよ」
「………わかります。私にも、いますよ、そんなの」
「それでは、さようなら」
「はい、さようなら」
最果てのエリカ様と会うのは、それが、最初で最後のことだった。