王族の下らない訪問
アインズ王子が最果てのエリカ様とお友達になったことは、王族間では、なかなか面白くない話になっていた。
だいたい、側室腹のアインズ王子は、運良く第一王子として生まれてしまっただけである。王太子となるのは、もちろん、正室腹の第二王子だろう、と押す貴族が多い。
そんな中で、有力貴族であるどこそこの公爵夫妻の養子が、アインズ王子の側近となった。しかも、最近は最果てのエリカ様の覚え目出度く、どこそこの公爵夫妻はお父様お母様、養子はお兄様と呼ばれている、とお茶会でキャッキャウフフと語ってくれちゃったりする。
別にね、覇権争いは王宮だけでいいんじゃない、と思うわけよ。私は、忙しいから。
そこがそういうわけにはいかない。王宮で、そんな話を聞いたら、第二王子のお母様は我慢ならない。
「叔父上、ご無沙汰しております」
やってきました、第二王子のサキト王子。叔父に会いに来ました、と早速、神官長にご挨拶である。
タイミング悪く、私は神官長に片腕抱っこされていて、強制的にご挨拶しなきゃいけない場面だった。
「初めまして、エリカ様」
「サキト王子、ようこそいらっしゃいました。神官長、可愛い甥御さんがいらっしゃったのですから、今日のお勤めは、私一人で大丈夫ですよ」
言外に下ろせ、と訴える。腕もつねってやる。
「いやいや、聖域のお勤めは、大変なことだ。サキト、かなり待つことになるから、帰りなさい」
イヤなんだろうな。笑顔で拒否られた。可哀想、サキト王子。私よりも年下なのに、頑張って来てみれば、拒否られてる。
「いえ、エリカ様のお勤めは国事よりも大事なことです。今日は失礼します」
「そうか。忙しいだろうから、もう来なくていいぞ」
「また来ます」
かなり頑張って、神官長が拒否ってるけど、サキト王子は笑顔でそれを無視した。
そして、三日に一回の第二王子様訪問が始まった。
王都なので、日参するかと思いきや、王族、そんなに暇じゃない。ぎちぎちの教育時間をこなして、わざわざ教会に来るのだから、偉い子だ。
でもね、対する庶民代表であるエリカ様は、御免こうむりたい。キャッキャウフフしているようだけど、聖域のお勤め終わった後は、地獄の書類作業だからね、私。暇なのは、神官長だから。
でも、年下の男の子が可哀想なので、書類作業中、部屋にいれてあげたりしたりする。
「これは、王族の仕事ですが、わかるのですか?」
「知識だけはあるので。サキト王子は、お勉強、どうですか?」
「………あまり得意ではなくて。でも、母上は僕に期待しているので」
「そうですか。そういうのは、大変ですね。でも、勉強は、将来、どうなってもいいように、やっておいたほうがいいですよ。ほら、どこぞの腐れ神官長なんか、やってないばかりに、私が苦労しているし」
仲良くなるのには、そんなに時間がかからなかった。かなり追い詰められていたこともある。
書類仕事での質疑応答は普通にこなして、普段の神官長の話をする。
最も驚かれたのが、
「エリカ様、成人していたのですか!?」
「初対面の人、みんな、驚くのよね。私、こんなに大人な仕事してるのに」
「あ、いや、若作りって、女性なら、皆、羨ましがりますよ」
「私ね、成人してるのに、胸、ぺったんこなの」
「そういうこと、男の人の前でいっちゃダメですよ! そういうこというから、成人してるように感じないんですよ!!」
ごもっともである。あの腐れ神官長に精神が汚染され、すっかり、私も腐ってきたようである。
「失礼しました。気を付けます」
「僕も、聞かなかったことにします」
耳まで真っ赤にしているサキト王子、可愛い。実の弟は可愛くないから、弟交換してほしい。
「そういえば、最近、帝国のほうが賑やかですね。大丈夫ですか?」
「わかりますか?」
「国交が再開されて、随分たちますが、帝国のほうが物々しい話を耳にします、おもに、父からですが」
豪商のお父さんから、色々と話を聞いている。世間話ついでなのだが、帝国のほうで、何か起こっているらしい。
「もうそろそろ、王国も、帝国も、考え方を変えないといけないのでしょうね」
「何かご存知ですか?」
「サキト王子が成人したら、きっと知ることになりますよ。それまでは、私からは何も言えません」
サキト王子の訪問は長く続いたが、学園に入るころには、ぱったりとなくなった。それでも、手紙で下らない世間話や婚約者のことなど、そういうものを貰うことが多かった。
そして、最果てのエリカ様が、帝国のお姫様だとわかった頃には、手紙もぱったりなくなった。




