成長しないエリカ様
目出度く成人したのだけど、残念ながら、見た目は少女のごときとなってしまった。おかしい、両親も兄弟姉妹も、みんな、立派な大人である。お母さんも姉妹も、出るところは出て、引っ込むところは引っ込む。何がダメなのだろうか。
成人してからも、それはあまり悩んではいなかった。
悩むきっかけなんて、あの腐れ神官長である。
いつものお勤めで、聖域に連れて行ってもらうのだけど、相変わらず片腕でひょいっと持ち上げられてしまう。
「私も成人した、いい年頃ですので、歩いていきますよ。ていうか、歩かないと、まずい」
太ってはいないが、体力がないのだ。
思い切って神官長に提案してみた。
片腕でひょいっと持ち上げている神官長は目をこれでもかと見開き、丸くした。そして、私の上から下まで見て、
「え、成人って、いつ?」
「先月ですが」
「成人したの? 本当に??」
「成人してますよ。お父さんとお母さんから、成人のお祝いをいただきました」
神官長は、じーと私の胸を見る。とても邪まで、イヤな感じなので、私は両手で神官長の目を塞ぐ。
それでも、神官長は空いた手で、失礼にも淑女の胸を触った。
「何するんですか、この腐れ坊主!?」
「ないじゃん、これっぽっちも、膨らみがないじゃん!!」
「別にいいじゃないですか! 私が子育てすることなんて、永遠にないんですから!!」
「お前は何故、そういう世間知らずなことをいうんだ。いいか、女の胸は、子育てだけに使われてるわけじゃないんだぞ!」
「杖、どこですか。この脳天をかち割らないと」
「やめて! 誰も持ってこないで!!」
残念なことに、神官長の味方が多い教会では、私の杖を持ってきてくれる人はいなかった。
胸がない、というのは、一部分についての話であるが、そこだけでは済まないのが私である。身長も、足りないのだ。
あの腐れ神官長は、あまりにも成長していない私が成人していることを私が口にするまで、本当に気づいていなかった。
慌てて、何やら手続きをして、成人のお祝いらしきものが国王から進呈された。あれ、やらなきゃいけないんだ。知らなった。
この頃には、神官長は「死にたい」とは言わなくなった。教会に人が増え、活気に溢れてきたので、それどころではないのだろう。
だけど、女は買う、賭博する、借金する、はやめてくれない。
刃傷沙汰はなかったが、ちょっと時間があると、ただれた生活をしているのは、目にあまった。聖域のお手伝いをしてもらう毎日なので、その時間帯には、しっかりと教会に居てくれるが、それが済むと、自由時間だ、とばかりに街に行ってしまう。
自由な人だ。呆れてしまうが、それが良いことなのか、私にはわからない。
成長は遅いのに、成長が早いというか、環境のせいで、悪くなってしまったものがある。
視力である。成人する頃には、眼鏡が必要なほど、書類仕事に困っていた。
神官もシスターも増えたのだが、何分、ダメ神官長の仕事は全て、私に丸投げされていた。お陰で、毎日、書類の海で泳ぎたい放題である。
書類を引き取りにきた神官が、申し訳なさそうに頭を下げる。
「毎度、すみません。我々では、手が出せないものばかりで」
「国王より上のエリカ様の決済ですから、どこも文句言いませんよ。あ、それ、ダメなので、やり直させてください」
眼鏡が重くて、ずり落ちる。それを防ごうとすると、姿勢も悪くなるので、肩がバキバキに凝ってきた。ここに、不当な扱いを受けてるエリカ様がいますよ、と叫びたい。
不採用の印を押された書類の束を見て、神官は、
「こういうのって、全部採用じゃないんですね」
「全部採用にしたら、予算足りないですよ。あの腐れ神官長、王族だから、王族の仕事までまわされて、何やってるんだか」
「そういえば、成人、おめでとうございます。年下だとはわかってはいたのですが、成人したのが最近だとは、知りませんでした」
「孤児院では、盛大にお祝いするそうですけど、エリカ様はそういうのはないですからねって、採用」
今更ながら、神官やシスターからお祝いのお言葉を貰っている。どうせ、見た目は年相応ではありませんよ。
今日の分が終わって、やっと、私は小屋に戻れた。
鏡を見て、しみじみと思う。若いなー、と。
「あと、十年かなー」