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聖女の代理人  作者: 春香秋灯
最果てのエリカ
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権力を振りかざすエリカ様

 権力って、すごい。私が帝国のお姫様だとわかった途端、世界は変わってしまう。

 あのいばりんぼうサラも、権力の前には無力である。孤児院へと逃げても、私が何か言う前に、騎士や侍女が暴れるサラを連れ戻してくる。

 サラがさぼっていると、侍女がつきっきりで監視して、きちんと作業させる。しかも、サラは何も知らないので、教えてくれる。優しい。

 それをのんびり、私は椅子に座って自家製ハーブティを飲みながら、ただ見ているだけでいいなんて、最高。

「このままだと、いばりんぼうエリカになっちゃうわ。何かしないと」

「いけません。エリカ様はこれまで、汗水流して、こんなにやせ細っています。もう少し、お体を休めましょう」

「私、妖精さんにいつも癒してもらっているから、病気も怪我もしたことがないのよ。ほら、いばりんぼうサラなんて、すっかりやつれちゃってるわ」

「平民ならば、これが当然です」

 侍女たちは、サラには厳しい。

 権力というものは恐ろしいものである。本当に。

 最初は、サラだって、

「私は元伯爵令嬢よ! あんたたち平民とは違うのだから!!」

 なんて、侍女たちに偉そうな口をきいていた。それを聞いた侍女たちは、サラを嘲笑う。

「あなた、帝国のお姫様の侍女に平民が来ると思っているの? 私は、伯爵令嬢よ」

「私も伯爵令嬢」

「私は侯爵令嬢よ」

 元伯爵令嬢の肩書きがうすっぺらくなっていく。

 私に一番近くにいる侍女は侯爵家の三女だとか。何代か前に王族のお姫様が降嫁した歴史ある貴族だとか。

「すごいのね。そんなすごい貴族令嬢なのに、何故、侍女になったの?」

「まあ、歴史はすごいのですが、何分、貧乏ですので。爵位だけですよ」

 サラには権力を振りかざしているが、実は、侍女の中では一番貧乏貴族だとか。だから、サラの汚れ仕事の面倒は、この侯爵令嬢が一手に引き受けている。

 相手は爵位が上、しかも、帝国の貴族様なので、サラは口答えはするが、言われた通りに作業する。

「まあ、また間違えて。これは、草ではありませんよ。こんなことも知らないなんて」

「貴族学院にも通っていないんだもの、知らないわよ!!」

「………そうですか」

 貴族学院では、こんな草の種類なんて習いません。それを言いたいが、彼女は頑張って飲み込んだ。いばりんぼうサラは、本当に何も知らない。




 私の仕事は聖域のお勤めのみとなった。なので、サラが眠ってから聖域に行くことにしている。

 外には、侍女や騎士たちの簡易テントで夜を明かしていた。親睦を深める、というより、中がどうなっているのか気になって、私は「入っていいですか?」と外から許可を求める。

 慌てて侍女たちがテントの入口を開けた。中は本当に必要最低限で、貴族令嬢には申し訳ない。

「お休み中でしたか?」

「いえいえ、明日のことを話し合っていました」

 侯爵令嬢は私を一番暖かそうな所に座らせてくれる。

「毎日、サラがすみません。でも、皆さんのお陰で、サラも少しずつ、覚えていっていますよ」

「エリカ様、本当に、彼女にこの地をまかせるのですか?」

 サラが、というよりも、聖域のことを心配する侍女たち。

 誰が見ても、サラはダメだろう。そんなの、最初からわかっている。

「帝国では、儀式を行っているそうですね。ここでも、その儀式を広めていきたいと思っています」

 実は、儀式のことをは、妖精から聞いていたので、私は知っている。しかし、それを口にすることはない。

 侍女たちは、私が知っていることなど知らない。だから、慌てた。

「いけません! 王国の問題は、王国内で解決するべきです!!」

「そうです。儀式のことは、どの国でもきちんと教会が管理しています。それを出来なかった王国の教会が悪いのです」

「でも、私はここを離れないといけないでしょう。そうなったら、最果ての聖域の守り人はいなくなってしまいます」

「自業自得です」

「帝国のお姫様を誘拐するような王国を助ける必要はありません」

「あなたたち、私のことをただの世間知らずなエリカ様、なんてバカにしてない?」

 最後の誘拐については、聞き捨てならなかった。

 帝国では、誘拐犯は捕まっている。それがどこの誰なのか、表向きには公表されていない。ただ、私が王国にいたので、王国の貴族かなにかが誘拐した、と噂された。

「そうに違いありません。だって、エリカ様は王国にいるではありませんか」

「私は、妖精の姿が見えて、声も聞こえる。なんと、お話だって出来るの。妖精は嘘をつかないわ。まあ、悪いことさせようと、誘惑はするけど。でも、絶対に嘘をつかない。私は、妖精に、きちんと順序を守って、私がどうして王国にいるのか、聞いたわ」

「………」

 侍女たちは、真実を知っているようだ。黙り込んだ。嘘をこれ以上、積み重ねて、見えない何かに罰を与えられるのではないか、と恐れた。

 顔を真っ青にして恐怖する侍女たちが可哀想なので、話題をかえることにした。

「皆さん、ありがとうございます。本当なら、サラを鞭で叩いたり、平手でぶったりしたかったでしょう。あんなに浅ましい姿を見せられると、騎士だって、足蹴にしたくなると思います。でも、私のお願いを守ってくれましたね」

「それは、はい、エリカ様のご命令ですから」

「お願いです。絶対ではありません。でも、暴力だけはふるわないでくれて、ありがとうございます」



 サラをエリカ様に指名した夜、侍女たちと騎士たちを集めて、私はお願いした。

「どうか、サラに暴力をふるわないでほしいの」

 口では、鞭でうつ、とか言っておいて、そんなお願いをしていた。

「ですが、あの女は、エリカ様に無礼すぎます。これを許すことは、帝国を侮辱することに繋がります」

「孤児院では、暴力は許されていないの。皆、仲良く、話し合いをして、助け合いをするように教えられているわ。まあ、隠れて暴力をふるう子もいるし、サラはそういうことをシスターの前でも平気でやっているわ」

「だったら」

「サラは権力を振りかざしているわ。だったら、皆さんの権力で黙らせればいいじゃないですか。権力が実は上の人に対しては紙切れに等しい、そのことをわからせれば十分です」

「下の者には暴力をふるっていてもですか?」

「あなた方が見本になってください。あなた方は、私が危険にさらされない限り、暴力をふるわないでしょう。だったら、それでいいではないですか。権力で、上手に問題解決をしてほしいのです。これは、私からのお願いです」

 正直、無茶苦茶なお願いだった。お願いなので、聞き入れなくてもよいことだった。

 それでも、侍女たちも騎士たちも、私のお願いをきいてくれた。

 だから、私は権力で、サラの問題解決をすることにした。





 時間が随分かかったけど、やっと帝国の男がやってきた。ついでに、王国の国王とアインズ王子も一緒に。

「帝国の」

「あ、そういうのはいいですから。服は汚れますので、膝をつくのもやめてください。

 すみません、椅子を用意してください」

 面倒なご挨拶をやめさせ、私は三人のお客様を椅子に座らせた。

「ご無沙汰しています、アインズ王子。先日お願いしました、リスキスお母様にお手紙を渡していただけましたか?」

「はい、こちらに返事を」

「ありがとうございます。今、ここで、見ていいですか?」

「どうぞ」

 早速、受け取った手紙を速読する。リスキスお母様は、私の意図をよく理解してくれた。さすがリスキスお母様、素敵な貴族夫人。

 手紙を読み終わる頃に、ちょうどよい温度のお手製ハーブティが運ばれる。運ぶのは、サラである。

 アインズ王子は、すっかり大人しく、憔悴した様子のサラに、なんと声をかけようか、と口を開くが、結局、黙り込んだ。この場でサラに声をかけるのは、場違いだった。

「エリカ様直伝の自家製ハーブティです。まあ、庶民の貧乏茶ですが、そこそこ美味しいですよ」

 私が最初に飲むが、誰も飲まない。帝国の侍女がいれても、飲まないだろう。

「それで、先触れもなく、どういったご用件ですか? 私は今は暇ですが、少し前までは、毎日が忙しかったんですよ」

「我々は、帝国の姫様とは知らず」

「そういうのもいりません。そこの帝国の男、リンゴはまだですか? 約束したではありませんか」

 国王の謝罪をばっさり切り捨て、話題を帝国の男へと持っていく。

「リンゴでしたら、帝国にいっぱいありますよ。帝国では、いつでも受け入れ態勢は出来ています。あとは、エリカ様が頷いてくれるのを待つばかりです」

「それは、まるで私が我儘女みたいですね、気分最悪なこと言われてしまいました。でも、この聖域の守り人はまだまだ未熟です」

「それは、王国の問題です」

「そうですか。悪いことは全て、王国に押し付けるのですね。ところで、私を誘拐した帝国の貴族はどうなりましたか? どうせ、見つかった時には没落していたのでしょうね」

「なんだとっ!?」

 これまで申し訳ない、と頭を下げるしかなかった国王は、初めて顔をあげた。

 帝国でも王国でも、王侯貴族って、汚い。侮蔑をこめて、私は帝国の男を見る。全く、悪びれる様子はない。

「ご存じでしたか」

「妖精は、嘘をつきませんから。それで、噂を流して王国にない罪をなすりつけて、私を帝国に連れて行こうとしたのでしょうね。本当に嘘つき。リンゴは持って来ないし。嘘はよくないのですよ、知ってますか」

「どうしても、姫様を帝国に連れ帰りたかったのです。お許しください」

「嘘を二つもついたのですから、二つ願いを叶えてくれたら、帝国に行ってあげます。行くだけですからね。気に入らなかったら、王国に帰っちゃいますからね」

「はいはい。どんなことですか?」

 帝国の男は、どうせ大したことではないだろう、と軽く考えているようだ。くっそぉ、リンゴ持ってこない嘘つきには、酷い目にあわせてやる。

「一つ、帝国は、聖域で行っている儀式を王国に教える!」

 なんとなく気づいていた侍女たちと騎士たちは、諦めたように顔をそむける。

 しかし、帝国の男は、なんとなくわかっていたようで、にっこりと「いいですよ」と承諾する。

「二つ、サラを貴族に戻す!」

「え? それは、ちょっと、内部干渉になってしまうので、ムリかなー」

「王国に罪なすりつけようとして、何言ってるのよ。帝国が今、どうなっているか、私が何も知らないと思っているの? 妖精は、嘘をつかないのよ」

 もう、妖精が見えて話せることを隠す必要がないので、私の独壇場である。

 帝国は何を隠しているのか、王国側は何も知らない。

 今更、帝国のお姫様を連れて帰るなんて、おかしな話である。帝国は、どうしても、私の力、妖精が見えて話せる力が、どうしても必要なのだ。

「頑張って、内部干渉してください。この二つが出来たら、帝国の問題、きちんと解決してあげます」

 たぶん、これが、私が振りかざす最初で最後の権力になった。

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