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オカルト科学"界"の僕と多次元魔法"海"の私  作者: 坂水 雨木
第二章(地球)、私と少年と秋の怪異。(中編)
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第十八話、近況とハロウィンと予兆。

 日課のランニングが終わり、謎めいた近所のお姉さんとお話をし、休日らしく家に帰ってごろごろした後お勉強して。それなりに時間が経ってお昼ご飯を食べ、部屋に戻って小動物と戯れて一息。


(――今さらだけどさ)

『うん』

(いつになったら天狐さん帰るんだろうね)

『……うん』


 いつものように窓の外を眺めていた目を室内に戻す。

 部屋にいるのは椅子に座っている甚伍、ベッドで羽をたたんで丸くなっているミドリ、ベッドで尻尾を丸めて横になっている天狐ちゃんの三人だった(一人と一羽と一匹)。


 今日は十月の三十日。日曜日。

 さっきまでランニングに出ていた甚伍(じんご)から聞いたところによると、最近寒くなってきたとか。走れば暖かくなるのでまだ上着はいらないけれど、そのうち薄手でも長袖羽織った方がいいかもと言われた。相変わらず私に触感はないので、気温もわからなければ体感温度もわからない。適当に同意し、風邪だけは引かないようにと伝えておいた。


 そんな、少し肌寒くなってきたらしい休日。

 十月も終わりが見え、最近は日々平穏に過ごしていた。幽霊がいたり妖怪がいたりするのはいつものことなので別。夕枯れが未だ続いているのも別として。


 平穏な日々ではあるけれど、色々と変わったことがあった。


 一つは近所のお姉さんとお話する機会が増えたこと。甚伍の家の隣の隣に引っ越してきたとかで、運動で外に出た時よく遭遇する。謎めいた人ではあるけど、今のところ実害はないので問題なし。


 二つ目は甚伍の受験が近くなってきて、結構周りがピリピリしてきていること。当の本人はのほほんとしているので私もあまり実感はない。これに関しては本当に応援しかできないので、定期的に応援させてもらっている。ふれっふれっ!って。


 三つ目は今も私の目の前にいる毛玉――じゃなかった、小狐。通称天狐ちゃん。白い体毛に緋色の宝石みたいな綺麗な色をした目をしている。可愛い。可愛いけど、ずっとこの家に居座られてちょっと困ってもいる。主に甚伍が。


『直接聞いてみたらどう?天狐ちゃんからしても別に隠すようなことじゃないでしょ?』

(確かに)

「天狐さん」

「みゃぅ……なんかな、石海君」

「天狐さんっていつ霊界に帰るんですか?」

「んー……そうやねぇ。わてとしては居心地ええしずっとここにおってもええんやけど……」

「それじゃ他の妖狐が困るんですよね?」

「そうなんよ。今はともかく、霊玉取り返したら帰らないかんねぇ。寂しなるわ。石海君も寂しいやんな?」

「え?いやうーん……まあちょっとは?」

「むぅ、いけずやわぁ」


 顔伏せちゃった。可愛い。

 ちょっぴり意地悪だったかな。甚伍も反省してるみたい。けど、事実は事実だものね。甚伍が寂しいかどうかはともかく、天狐ちゃんの不在は霊界にとってあんまりよくないと思うの。


 天狐ちゃんがこの家に居着いてから二週間経ったけど、その間色々聞いたのよ。

 霊海が一つの世海って言うより一種の異空間みたいなものとか、天狐ちゃんがそこのトップだとか、一回目の夕枯れ討伐失敗でどう思ったかとか。


 一応、二回目の夕枯れ退治を行うために来月の満月の日に儀式を再度執り行うとかも聞いた。

 大まかな流れと誰がどんな役割を担うかは聞いたから、あとは当日まで待つだけ。私と甚伍に大層な役割はないので気楽でいられる。天狐ちゃんもそれまで療養、というか休んで力を取り戻しておくために甚伍の家にいたりする。


 この小狐ちゃん、元々住んでた霊海なら馴染んた霊力に満ちているそうだし、本当なら帰ってもいいはずなのにね。


 ミドリと一緒で甚伍の霊力がすごく身体に良いらしい。二週間でほとんど完全回復したって言ってた。回復後も飽きずにこっちに残っているのは……まあたぶん特に意味はない。気分みたいなもの。どうせ来月にはまたこっち来るんだし、じゃあそのままこっちにいてもいいよねって感じなんだと思う。


「ま、霊玉取り返したら帰るからもうちょい待ってな。迷惑はかけへんし借りにしといたるわぁ」

「うん、了解しました。ちゃんと夕枯れ終わらせてくださいね」

「ふふふ、任せぇな」


 お話の結果、とにもかくにも霊玉を取り返して夕枯れを終わらせないと、というところに落ち着いた。正論も正論だったので甚伍と二人しょうがないなと苦笑する。


 ちらと壁掛け時計を見れば、今は十四時を過ぎたところだった。

 運動もしたし、ご飯も食べたし食べさせたし。あとやることと言えば受験生らしくお勉強くらいかしら。


『甚伍、お勉強する?』

(うん……。再開するかー)


 少し気だるげ。でもちゃんと机に向き直ってペンを手に取るところはやっぱり真面目だと思う。頑張れ少年、ふれっふれっーお勉強頑張れー。


(……応援ありがとうございます。頑張ります)

『ふふっ』


 ほんのり頬が赤くなってる。かーわいい。


「――あぁ、そういうたら石海君」

「はいはい、なんですか?」

「明日ハロウィーンやけど、どないすんの?」

「ハロウィン?」

「そうそう。ハロウィーン」


 間が良いのか悪いのか、お勉強始める前だったからまだ集中力云々を気にしなくて済んだ。けど。


『ねえ、はろうぃんって何?』


 久しぶりに完全に私の知らない単語だった。雰囲気的に日本語っぽくないけれど、外国の言葉なのかな。


(あー……えっと、先に天狐さんと話すからちょっと待ってね)

『ん、りょーかい』


 私はお行儀の良い守護霊だから静かに待ってあげる。

 ちゃんと取り憑き相手が言語翻訳してくれるし、聞くの専門というのにも慣れた。たぶん私、恵まれている方だもの。他の守護霊とか見たことも聞いたこともないけど。


「天狐さん、ハロウィンどうするって逆に僕が聞きたいんですけど。別に何もする予定ありませんでしたよ?」

「そうなん?もったいないわぁ。せっかく霊力あるんやからハロウィーンフラワーガーデンにでも行ったらええのに」

「……何ですか、そのハロウィーンフラワーガーデンっていうのは」

「東京のおっきな庭園で開かれるパーティーのことやね。只人もおるけど、霊力持ちやと特別なものが見えたり食べられたりすんねん」

「あんまり楽しくなさそうですね」

「そう?結構楽しいで?霊力で編まれたお菓子なんて専門の妖怪が作ってはるものやから、なかなか食べられるものとちがうし、石海君みたいに霊力扱える人間も来るから交流にも最適や思うんやけど」

「……むぅ、一理あるか」


 気になる。今の会話だけで色々気になることが出てきちゃった。

 お菓子はどうせ食べられないからいいんだけど、パーティーとやらが気になる。行ってみたい。見てみたい。


「キュエ」


 わくわく考えている間に、いつの間にか目を覚ましたミドリが甚伍の膝の上に乗っかっていた。くりくりの瞳で見上げてる。可愛い。(うち)の鳥がとっても可愛い。


「……はぁ、ミドリ行きたいの?」

「キュェェ」

「霊力のお菓子が気になる?」

「キュエ」

「はいはい。天狐さんに聞いてみるからベッドで待ってな」

「キュェ」


 甚伍がさわさわと鳥の背を撫でて離すと、すぐにベッドへ跳び戻った。

 当たり前の話だけど、私も甚伍もミドリと意思疎通なんてできていないわ。

 ただなんとなくこうかなーって感じで話してるだけ。ミドリが賢いのか、意外に会話は通じてしまっている。もちろん私との会話ではない。


「天狐さん」

「ふふふ、なんかな」

「暫定で明日そのハロウィンガーデンに行くとして」

「うんうん」

「時間はどうなんですか?僕普通に学校だし、帰ってくるの十五時なんですけど」

「ふふふー、大丈夫。わてが瞬間移動で送ったるわ」

「いやいや、霊力使っちゃうじゃん」

「一往復くらいやったら使(つこ)うたうちに入らへんって」


 瞬間移動って……なに?妖怪ってそんなこともできたの?私の常識が――世海作り出したりできるんだからそんなの余裕か。ん、意外に普通だった。


『気になったんだけど、天狐ちゃんの霊力って今どうなってるの?完全回復したとか言ってたじゃない?余った分とかどうなのよ、その辺』

(確かにそうだね。ちょっと聞いてみる)

「ごめん天狐さん、守護霊さんが気になったみたいなんですけど、天狐さんの霊力ってどうなってるんですか?」

「あら、珍しいなあ。うーん、そやなー。わてって尾九本あるやんな?」

「はい」

「完全回復はそもそも全力で動ける状態のことを言うんや」

「なるほど?」

「それで、尾には余剰分の霊力を溜め込んでおけるんよ」

「あー、はいはい」

「石海君の霊力はずいぶん効率が良いから、今はもう三本目に溜めてるところやね」

「なるほど……うん。わかりました。ありがとうございます」

「ええよええよー」

(だってさ)

『ん、ありがとう。納得したわ』


 疑問一つ解決。


「石海君、わてからも聞きたいんやけどいい?」

「はい。どうぞ」

「そかそか。君の守護霊はん、わてが瞬間移動したら付いて来れるん?」

「え」

『?なになに?』

(守護霊さん守護霊さん)

『はいはーい、なに?』

(天狐さんが聞きたがってるんだけどさ、守護霊さんって僕と天狐さんが瞬間移動したら付いてこれるの?ついでに僕も知りたい)

『あー……』


 どうなのかしら。この質問には答えられないかも。なぜなら私も知らないから。

 瞬間移動なんて存在するのかって驚きもあるけど、甚伍と私の結び付きに関しても考えてみればよくわからない。


 宇美花様から縁を強くしてもらったにしても、どこまで離れられるのか……逆に離れられなくなってる可能性もある。結局宇美花様の試練っていうのも実感ないし、ほとんど甚伍と距離取らないからわからなかったけど、そういうこともあるかもしれない。


 けどまあ、予想は立てられる、かな。


『えーっと、たぶんだけどね。たぶん、瞬間移動しても付いていけると思うわよ?私、守護霊だけどあなたに憑いてる霊であることには変わりないはずだから』

(言われてみればそうだね。じゃあその線で天狐さんに話してみる)


 と、甚伍の傍で天狐ちゃんとの話を聞いていく。

 会話の合間にハロウィンについて聞いてみたら、色々複雑で難しかった。


 お祭りの一種って聞いて喜んで、新年を迎える前日って聞いてむむってなって、慰霊祭って聞いてむーんってして、収穫祭って聞いてふーむってなって。

 仮装とかお菓子とか、悪霊とか幽霊とか。

 あんまりまとまりがなくてよくわからなかった。


 外国だとご先祖様祀って豊作願っての(おごそ)かな?夏に見たお祭りみたいなぱぁぁー!って明るい感じじゃないみたいだけど、日本だと全然すっごくわちゃわちゃするんだって。甚伍は行ったことないらしいから正確にはわかんないけど。


『……ん、あれ?ねえ甚伍』

(はい、なに?)


 お話も一区切りついて、ハロウィンハロウィンハロウィンかぁと頭の中がハロウィンフラワーガーデンでいっぱいになっていたところで気づいたことがあった。


『ハロウィン明日なんでしょ?』

(うん。明日だね)

『明日、塾は?』

(休みだね)

『あら、そうだっけ?なんでお休み?』

(塾が電気工事するとかで、自習はあるけど僕は面倒だから休みにしちゃった)


 ……うん。


『……ねえ、私が今何を思ってるかわかる?』

(……わかるよ。僕も自分で言ってて気づいたから)

『まるで予定を決められてるみたいね』

(やめて、言わないで。より予定調和みたいになるから嫌だ)

『でも行くんでしょう?』

(……うん。もう決めたし)

『ふふ、なら一緒に頑張りましょうね。何もなければよし。何かあったらいつも通りにね。今回はあるとしたら妖怪とか霊より怪異寄りでしょうし』


 しょうがないなと諦めの息をつく甚伍を横に、ふふりと小さく微笑む。

 天狐ちゃんはミドリの傍で丸くなって寝転び、ミドリも変わらずちんまりと丸くなっている。二人とも可愛い。


 何かよくわからない事件があるにしてもね。私、やっぱりハロウィン楽しみなのよ。さ、気分よく行きましょう。ハロウィンよハロウィン。久しぶりに夕枯れのこと完全に忘れられそうだわ。――……ん、あれ。もしかして私、まともにこの世海のこと覚えられるようになって初めて宇美花市以外のところ行ったりする?

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