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オカルト科学"界"の僕と多次元魔法"海"の私  作者: 坂水 雨木
序章(蒼海星)、異世界霊体海上同棲生活。
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第五話、海と魔法とゴーレム(異種族)。

 さぁぁっ、と音がする。

 穏やかな海の、波の音だ。


『海だーーー!』


 爽やかな潮騒の音が心地よく耳を楽しませる。沖合に潮の満ち引きがあるかどうか知らないけど、こういうのは気持ちの問題だと思う。


 海上を風のように進む船の上で、僕は一人叫ぶ。


『うーみーだー!!』


 二度目の叫びは雪空に溶けて消えていった。

 夏らしさなんて微塵も感じさせない海の、船の上。白雪がちらつくのを見てしまうと気持ちも幾分か落ち着いてくる。落ち着いてしまった。寒さを感じないから震えず済んで、風を感じられないから船上の雰囲気を感じられなくて。一長一短で何とも言えない。


 ふわりと浮かんで上空から見下ろす。

 視線の先にいるのはリィムさんと他数人のドーム職員らしき人と、あとスマートゴーレムの人たちが三人ほど。乗っているのは僕が便宜上船と呼んでいるだけで、実際はサーフボードに近い。サーフィンで乗るアレを大きく幅広にして、前後左右に何か魔法石を加工したっぽいのが見え隠れしている。


 ハンドルもなければ風除けもないのに皆普通に立っているのは、僕の理解の及ばないところにあった。たぶん魔法だろう。魔法石使ってるみたいだし。


 上空に距離を取ったせいか、リィムさんたちの会話が一切聞こえなくなった。風を切る音がうるさい。


 自動で動く乗り物に乗った場合、僕は幽霊なので本来なら置いていかれる。リィムさんの家でエレベーターに乗った時、上手い具合に移動しないといけなかったのが最たる例だ。

 でも裏技はある。何せ幽霊なもので。


 簡単に言えばリィムさんにアンカーのようなものをセットするのだ。目に見えない、感覚的なやつ。こう、ぺしっと。彼女にタッチしないといけないのが少し照れくさいけど、それくらいなら全然余裕である。


 アンカーをセットすれば後はリィムさんの動きに従って強制的に移動させられるので、僕は移動しなくても引きずられる。普段これをしないのは、気持ち的に何か制限されているような感じがあるから。リードでも付けられているというか、そんな感じ。

 アンカーがあってもなくても離れ過ぎたらぐいっと引っ張られるわけなんだけど、開放感が違うので普段は使っていない。それでもさすがに船移動はどうしようもないのでアンカーをセットした。


 この偽サーフボード、異常に速いんだよ。それはもうヒュンヒュン進む。風を切るどころか風に乗るかのように進んでいく。実際海の上をスイーっと滑るように進んでいるので、何か原理があるのだろう。気になるけど僕に理解できるわけもないので気にしない。


「――ある程度沖に出たら海底に行き鉱石を探しましょう」

「わかりました。ガン」

「海上を見てはきましたが、海中も私共の世界と変わらぬのでしょうか?ガン」

「……今日の天気は雪ですか。ゲン」

「む、トトレレ。お前は雪が嫌いだったのか。ギン」

「好きな岩の方が少ないでしょうよ。ゲン」

「いや私は好きだぞ。ガン」

「え……正気ですか?ゲン」

「私からすればお前の方が正気でないように見えるな。ギン。ララミレ。お前はどうだ?」

「俺は好きでも嫌いでもないぞ。ガン。それより海が気になる。ガン」

「それは私もだ。ガン」

「それならワタシもです。ガン」


 何も聞こえないのも楽しくないので、下に戻ったら話し声が帰ってきた。安心する。安心はするが、このゴーレムの人たち、ずっとガンガン音を立てているのは何なんだろう。音というか、機械音というか。声っぽくもある重い音色。意外に聞いていても不快感はない重低音で、ただ騒がしくはある。


「――皆さん、改めて今回の鉱石探査に関するルールをご説明いたします」

「おぉ、すみません。お願いします。ガン」

「皆さんが素の状態で海中にて行動できるのは存じておりますが、こちらの世界の海が海鉱石人(かいこうせきじん)族の方々の海と異なるのは事実です。ですので、私たちが用いている魔法術を使わせていただきます」

「それは当然ですね。ガン」

「一度浅瀬は潜りましたが、海底との差は大きいですからな。ガン」

「はい。また、私共も同行いたしますので、私たちのいずれかと離れないようお願いいたします」

「こちらこそよろしくお願いします。ガン」


 真剣な顔で話をするリィムさんはいつ見てもかっこいい。大人な女性って感じがする。実年齢は……どうなんだろう。そういえば聞いたことがなかった。ノーメイクの雰囲気は僕より少し上のような気もするけど……。


 船に降り立ち、リィムさんと並ぶ。真面目な顔を横に見て、身長を確かめたら普通に僕より高かった。僕が百六十……百五十九……百五十八センチメートルだから、少なくとも百六十はある。だからって年齢がわかるものでもないけども。見た目からじゃ全然わかんないし、いつか聞けたら聞こう。


 謎言語による会話をBGMにし、船は進んでいく。

 五分も経たずに速度を落とし止まった場所は、見渡す限り全面の海だった。島影一つ見えない、水平線に囲まれた海上。雪は勢いを増さず衰えず、変わらない調子で降り続いていた。


『そろそろ海中か』


 リィムさんが手首に巻いたブレスレットを揺らし、ゴーレムたちへ向けて手を振る。きらりきらりと淡い光が散って不思議パワーが発揮された。次いでリィムさん以外の人もブレスレットを身に付けた手を振っていく。それぞれ光が散って魔法が使われた。


 最近はご無沙汰だった海中移動の魔法。海の中でも自由に動き回れ、呼吸もでき、水圧も物ともしなくなる摩訶不思議な魔法だ。どこまでの水圧に耐えられるかはわからないので、ちょっとした怖さはある。あと魔法への興味。


 ゴーレムの人たちには服の概念がないようで、岩そのものに色が付いているといった格好をしている。リィムさんたち職員はウエットスーツのような伸縮性のあるピタッとした服を着ている。ただし身体のラインは見えない。意外と緩めで普段の仕事着に近い、目に優しい格好だった。


「それでは行きましょう」


 とん、と軽い音を立ててリィムさんが海に入る。次いでゴーレムが激しい水飛沫を飛ばして着水した。一瞬で沈んでいくのが船の上からよく見えた。


「我々も行きましょうか」

「はい。ガン」

「楽しみです。ガン」


 次々入っていく人たち。合わせて六人だ。船の上にも三人ほど人が残っており、何か空を見て作業をしていた。


 僕は僕でリィムさんを追い海に入る。アンカーで引っ張られる前に追いかけたのは気持ちの問題だ。自分から海に入る方がなんとなく気分が良い。


 海中は雪空ながら太陽光を取り込んで十分に明るかった。僕が海に入ったことで生じたさざなみはなく、音もしない。水に入ったからといって視界不良になることもなく、普通に今まで通り見える。現実じゃ味わえない感覚なのでなかなかの新鮮さがある。


 沈み沈み、徐々に暗い世界へ落ちていく。


 視線の先には三組の人とゴーレムたち。辺りを見回しながら沈んでいくゴーレムの姿はちょっと可愛らしかった。

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