朝の玄関
「おはよー!!」
校門の前には陰陽師が着ていたという狩衣のモチーフが入ったジャージを着こなした女教師が立っていた。
その手にはなぜか竹刀が握られている。
「ははははは!!! 今日もモーセみたいだな八矢!!」
「やめてくださいよ布都先生。これでも気にしてるんですから」
「それはすまなかった。今日もお前に会えて先生は嬉しいぞ!! はははははは!!!」
「うーんいつも通り暑苦しい」
呵呵大笑そのままに布都は竹刀を振りかぶった。その動作に無駄はなく、水が流れるような華麗さでもって八矢の額へと落ちていく。
「なんのつもりですか?」
「見事だ!! 先生の一太刀を白刃取りできるのなんてそうそういないぞう!!」
竹刀は額に激突する前に両手で挟み込まれた。それでも八矢の後ろに衝撃が突き抜けたあたり、相当な威力を持っていたことが分かる。
「なあ八矢、先生に弟子入りしないか? お前なら布都一刀流をさらなる高みに引き上げられると思うんだが」
「お断りします。その流派死ぬほど厳しいって有名じゃないですか」
「そんな事ないぞう? 9割殺しまでは追い込むけどな」
「それは厳しいとか言う次元の話じゃないんですよ」
布都の隣を通り抜け八矢は玄関へと向かう。熱烈な視線は半ば無意識の術式と化し、割と威力高めな光線となっていた。
「あっつ!? 布都先生!?」
「あ、すまんすまん。漏れた」
「漏れたじゃないですよ!? 火傷したらどうするんですか!?」
「お前が火傷? そんなの太陽が落ちてこない限りなさそうだけどなぁ」
「僕をなんだと思ってるんですか……?」
「可愛い生徒さ☆」
「じゃ、そう言う事で」
「ツレないな、そんなんじゃモテないぞー!!」
「余計なお世話でーす!!」
布都を振り切り、玄関に到達する。下駄箱を見るなり八矢は大きくため息をついた。
「今日もか」
「ぶふっ、今日も豪勢だな」
「笑ってくれるな……」
八矢の下駄箱はもはや下駄箱という概念から逸脱していた。そこに内履きはなく、移動用の式神である雲がぷかぷかと浮いていた。
その色は紫。貴人にしか許されない特別なものであった。
「昨日はなんだったっけ?」
「白い象、前は鹿だった」
「至れり尽くせりですなぁ……ふふっ、孫悟空かよ」
「要らないよこういうのは……理事長と話をしに行く必要があるなぁ」
「それも毎朝だろ? 諦めたら楽だぞ」
「いや、こういうのは地道なのが大事なんだよ。きっといつか理事長も分かってくれる」
「そーいうもんかね? まあ良いや、朝の会に遅れんなよー」
「はいはーい」
八矢と神無は別れ、教室と理事長室へと向かった。
【移動用式神 色雲】
ちゃーらー、へっちゃらー、とはなんの関係もないセグウェイ的存在。