登校
高校生が通学路を歩くという行為は何も不自然ではない。至極当然でありふれた光景だ。
その生徒の通る道だけモーセが割った海のように開いていなければの話だが。
「……僕何かしましたかね?」
「面白いこと言うな、入学式にお前のとこだけVIPシートだった時点でこれは見えていたと思うぜ?」
「あんまり目立ちたくないんですけどね」
「はははは!!! 今度は本当に面白い。お前が目立たないなんて無理な話だろ?」
割れた人並みを歩くのは2人の生徒。片方は肉食の四足獣を思わせる歩みをする男、もう片方はこの国では珍しい赤毛を祭日でもないのに結い上げた女である。
「やめてくださいよ神無、それじゃあ僕がヤバい奴みたいじゃないですか」
「そう言ってんだよ八矢」
「なにおう!? 僕ほどありふれた高校生はいませんけどぉ?」
「お前が必死に隠そうとしてる努力は認めよう。だが、駄目だ」
「何も隠してませんけど」
「お前がどんなに普通に振る舞っても、お前の周囲がそれを全部かき消すくらい異常なんだっての」
「どこが!?」
「後ろ見てみ」
「うしろ?」
八矢が後ろを振り返る。そこには大名行列もかくやという列ができていた。
それらは全て人ではなく。土地神や精霊と呼ばれる土着の存在であった。
「うわ!? 早く散れお前ら!!」
行列の先頭にいたウサギらしきものがいやいやと首を振る。涙目になったウサギは非常に愛らしいが、八矢からすればそんなものを気にしている場合ではない。
「僕はただの人間なんだから、お前らを引き連れたりしないの!! 人違いだー!!!」
ウサギがその言葉にショックを受ける。そして後ろの行列を振り返ると、その全員が首を振り八矢を指していた。
意味するところはこうである。
「いや、あなた以外ありえない」
「OK分かった。話をしよう、ただし今日の夜だ。だから今は帰れ、良いな?」
コクコクと頷くウサギ達。その後は八矢の言葉に従って姿を消していった。
「なぁ、今のウサちゃんってアレだよな? 因幡のアレだよな。オオクニヌシでもやってた事あんの?」
「シラナイ、ボク、アンナノ、シラナイ」
「ははは、今日も登校から伝説を作ったな? じゃあ行こうか我らの学舎へ」
歩む先にはこの国最大級の小中高大一貫の学校があった。
その名をセイメイ学園という。
【因幡の白兎】
オオクニヌシ関連の白いアレ
サメが嫌いなのでサメ映画を許さない。