エルフの少女
次は魔法の修行だ。
この世界の魔法は魔力を引き換えに大気中の"魔素"という気体と自身の魔力を反応させる事で起こる化学反応のようなものなんだとか。
魔法は火、水、風、土、木、雷、影、回復、神聖の八種類がある。
魔法結晶という魔道具で自分の得意な魔法を調べることが出来る。
しかし、魔法結晶によって得意じゃない事が分かった魔法でも使えない訳ではない。
ただ単に得意ではないだけ。
努力次第では適性の魔法くらい使えることもある。
だから自分の適性魔法が分かっても全ての魔法を高めていくのがよろしいとのこと。
ノーナは風魔法と雷魔法が得意なんだとか。
俺のイメージ通りだな。
ゲームとかでもフェンリルって雷属性だったりしたよね確か。
俺は何の適性があるのかな?
一応この家にも魔法結晶がある。
今ノーナが取りに行っているところだ。
「カルナ持ってきましたよ」
「それでどうすればいいんですか?」
「触れるだけですよ」
俺は言われた通りに結晶に手を置いた。
適性魔法がないとか言われたらどうしよう。
そんな奴いるのかないたら災難だな。
まて、今フラグが立ったかもしれない。
やめてくれ!!
「火と水ですね」
俺が一人で虚しい事を考えているとそう言われた。
「火と水か」
当たりとかあるのだろうか。
「珍しいですね。大体人間は一種類の魔法しか適性がありませんが。まあカルナは人間じゃありせんけど」
「あははは」
ビックリした。
元は人間ってバレたかと思ったー。
二種類は珍しいのか。
これはもしかして異世界特典とかなんだろうか。
「じゃあ今日は火魔法を練習しましょうか」
「はい」
「まず魔力を手に集中させてください」
俺は何度もやっているのでそれは簡単に出来た。
「そうしたら炎の球体をイメージしてください」
炎の球体ね。
「イメージ出来たら"火球と"詠唱して下さい」
「火球!」
魔法を詠唱すると瞬く間に掌から炎の弾が撃たれる。
掌を空に向けていたのでその火の弾は空へと飛んでいき、爆発した。
「ちょっと何をしたの?」
「え?」
「火球は普通あんなに飛ばないし、最低位魔法だから威力は低いのよ?しかもあの弾の大きさってどう見ても重力魔法で圧力を掛けて圧縮してたでしょ?」
は?
何を言ってるんだ?
こちとら魔法使うの初めてなんだよ。
「普通に撃っただけですけど…」
俺の心底困惑している表情で何とか信じてもらえた。
そこからはどうにかして威力を抑える為の修行が中心となった。
◇
魔法には階級があり、下から順に
初級、中級、上級、王級、神級とされている。
初級はほぼみんな使うことが出来、上級はそこそこ素質のある者が使うことができるレベルで、王級は宮廷魔術師や賢者、上位種の魔物、上位種の魔族などが使うことができるレベル。
そして神級だ。
神級はノーナが言うには人間ではかつてたった一人だけ神級の魔法を使うことが出来たそうだ。
大賢者。
そう呼ばれている。
魔物では五大神獣とそれらと張り合えるくらい強い魔物でないと使うことが出来ない。
魔族は魔王ただ一人だけ使うことが出来ると言われている。
ちなみに魔物と魔族の違いだが、人の姿をした魔物を魔族と呼び、そうでない者を魔物と呼ぶのだ。
だから俺は一応魔族なのか?
ちなみに何故かゴブリンは魔物だ。
ノーナは五大神獣の中でも魔法には優れているそうで五大神獣の中では魔法でノーナに勝てるやつはいないと自慢していた。
そんな人に魔法を教われるなんて俺は幸せ者だなー。
魔法の威力を抑えることが出来るようにななった頃、俺は同時に王級の魔法を使えるようになった。
魔法の修行を始めて10年くらい経った頃のことだ。
ある日俺はレベルを上げる為に森に向かった。
◇
探知のスキルを使い周りに魔物がいないか確認すると魔物ではない反応があるのに気付いた。
数は10と魔物の群れにしては多い。
距離は500mくらいか。
俺は見たことのない不可解な反応が気になり接触しようと近づく。
そこにいたのは多くの人間だ。
人間か、殺すか。
俺は気配を消さずに近づくと人間ではない気配に気付いた。
檻に入ったエルフの少女だ。
てことはこいつら盗賊か。
気配を消しついて行くと盗賊達は洞窟の中に入っていった。
助ける気はないが人間は殺すか。
俺は魔法は使わず自らと手で殺すべく飛び出す。
そして一番後ろにいる人間の頭を切り落とす。
落ちた頭の音に気づいた男が仲間を呼び周りを見る。
「誰だ!」
俺は隠れずに堂々と歩き寄る。
そして技能月歩を使い一気に近づき髪を掴み腹に膝蹴りを食らわせる。
血を吐いた男は心臓まで届いた衝撃で即死した。
「何者だ?」
俺は答えずに更に首を切る。
満面の笑みを浮かべ殺戮を終わらせた。
檻を見ると俺に怯えるエルフの少女がいた。
「大丈夫か?」
少女はコクンと頷く。
俺は檻を破壊して少女が出られるほどの穴を開けるとそこを去るべく歩く。
「待って下さい…」
衰弱している声であったが助ける気はさらさらないので無視をする。
すると倒れそうになりながら俺の腕を掴もうと
近寄って来るのを認知にそれを躱す。
「助ける気はない」
「助けて下さいお願いします」
少女は俺の足を掴み懇願する。
「……はぁ」
「分かったからはなせ」
俺は承諾すると一気に気が抜けたのか倒れ込んだ。
「マジかよ…」
俺は仕方なく背中で担ぐ。
彼女の大きな胸が背中に当たっているのに気づく。
俺何も考えるな。
今は帰ることだけ考えろ。
俺なら出来る、だろ?
ああ。
俺は出来るだけ揺らさずに家に帰るとノーナがエルフの少女に気付く。
「誰ですか?」
「いや、俺もあんまり分からないんですけど、盗賊に捕まっていたので助けました。」
「こんなところに盗賊が…その盗賊はどうしましたか?」
「殺しました」
「そうなのね」
ノーナは俺の話を聞き終わると同時にエルフの少女に近づく。
「あとは私に任せて下さい」
「有難うございます」
俺はエルフの少女をノーナに任せ、家を後にした。
向かうのはあの洞窟だ。
他にも被害者がいるかもだからな。
洞窟の中は意外と広く、多くのものが散らかっていた。
その中に死体があるのも確認した。
最近死んだと思われる死体もあれば、腐っている死体もある。
心底人間が嫌いになる。
元々同じ種族だったのが屈辱でしかない。
俺はそれらの死体を魔法で燃やし、空間魔法で作った空間、通称"魔力庫"に詰め込む。
他に何かないかと周りを見ると大量の"何か"が入った袋を見つける。
中を開けるとそこには大量のゴブリンの耳が入っていた。
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
覚えてろ人間。
いつか俺が必ず絶滅させてやる。
どれだけ時間が掛かってもいい。
人間どもがこの世から絶滅しない限り俺は死なない。
俺がお前らを1匹残らず喰い殺してやる。
いつもより大きな角を生やし、人間への殺意が大きくなる。
そして俺は洞窟から人間の匂いが無くなるまで暴れまくった。
壁を破壊し、地面を殴り、周りにある物を全て破壊した。
「はあ、はあ、はあ」
少し落ち着き、角が治るのを確認し外に出る。
夜か。
空には大きな星が2つ輝いていた。
地球では月と呼ばれていそうなほど大きな星だ。
帰ろう。
腹が減った。
◇
家に入る前にさっき燃やした死体を家の裏にある大きな木の下に埋める。
俺にはこれくらいしか出来ないが許してくれ。
俺は家に入る。
そしてドアを開けた先にはノーナとエルフの少女が立っていた。
「元気になったのか」
「はい。先程は助けて頂き本当に有難うございました」
少女は泣きながら感謝する。
「助けてくれって言われましたから。断る義理はありません」
まあちょっとめんどくさかったけど。
「私はシャラと申します」
「これからどうするんだ?」
「ここに住ませようと思っています」
うぇ?
家に返した方が良くないですか?
「家には帰りたくはないんですか?」
「私の住んでいた村はもう無いんです」
おっとそれは聞いちゃいけなかったかな。
「それはすみません」
「大丈夫です、気にしないでください。村は私が小さな頃に魔族に襲撃を受けて失われました。私は母に逃げろと言われ無我夢中で逃げ一ヶ月くらいで何とか人間領に入ることが出来、助けを求めた人間が運悪く盗賊で奴隷になってしまいあのような所に連れて行かれました」
お、重いな。
相当辛かったのだろう。
彼女の顔は悲しみの顔と、憎しみの顔で溺れていた。
もう少し遅かったら殺されていたか性奴隷にされていただろう。
「御気の毒に。俺の家ではありませんがゆっくりしていって下さい」
「そう言っていただけると有難い限りです」
俺はお辞儀をし一度部屋に戻る。
腹が減っていたがそれに勝る疲労感で眠りについた。
◇
その次の日。
俺が目を覚ますと同時にドアが開き、メイド服を着たシェラが現れた。
ガチメイド服初めて見たな。
「おはようシェラ」
「おはよう御座いますカルナ様」
俺は挨拶を済ませ朝ごはんを食べ、魔法の練習に取り掛かった。
今やっているのは風魔法の応用だ。
大体の魔法は使えることが出来るようになったがそれらを活かし更に役に立つ魔法はないか思案しているところだ。
考えては魔法を使用し、また考えては魔法を使用するを繰り返している。
俺が今やりたいのは飛翔だ。
風魔法をどうすれば飛翔に繋がるかを考えているのだ。
これがまた難しい。
普通に自分の足から地面に向けて風魔法を放っても一瞬浮くだけであとはお空で大暴れだ。
うーん。
此処はノーナに聞いてみるか。
「ノーナさんって空飛べますか?」
「一応飛べますよ」
流石だな、当然のように答えてくれる。
「どうやって飛んでますか?」
「『技能』の飛翔というものを使っています」
技能か。
「魔法で飛ぶことは出来ないんですか?」
「私は見たことないですね。過去に大賢者が魔法で飛ぶことが出来たっていう伝承がありますよ」
人間で出来て俺に出来ないはずがないな。
「分かりました。有難うございます」
「頑張って下さいね」
俺はまた魔法で飛ぶための練習を始めた。