出会い
行方不明の冒険者達を探し出したのは冒険者達がゴブリンの村を襲撃してから半年が経った日だった。
「何だこれは…」
王都から発足された王直属騎士団の騎士団長は目の前に広がっている光景に驚きを隠せずにはいられなかった。
騎士団長エルゴーンは部下に冒険者の死体を回収させ村を回る。
「これをゴブリンがやったのか…」
エルゴーンは灰となった家々を見渡すと一軒燃えていない家を発見した。
中に入り、何があるかなどを確認する。
すると地面が少し膨れ上がっている所を見つけた。
不思議に思いそこを掘り返した。
土の中から出てきたのは1匹のゴブリンの亡骸であった。
「何故土の中から?」
死んだ者を土の中に埋めるのは人間だけのはず、魔物がこんな事を何故するのか。
エルゴーンはそんな疑問を持つ。
「団長。少し不可解なものが」
「分かった今行く」
ゴブリンの死体を埋め冥福を祈った。
「これ何ですが…」
部下が手に持っていたのは角の先端のようなものであった。
「何かの角か」
「はい、ですがこの角はどう見てもこの辺りにいる魔物の物ではありません。何故こんな所にあったのかと」
確かに角の大きさはその魔物の強さの表れである。
先端だけでこの大きさはランクS級の魔物以上の強さに違いない。
「その角を持ち帰って何の魔物かを調べろ」
「御意」
死体を馬の荷台に詰め込み王都に戻っていった。
◇
遡ること半年。
頭が痛い。
気持ち悪い。
腹が減った。
俺は怒りを灯しながら歩き続けていた。
怒りを糧に俺に角はみるみる大きくなっていた。
込み上げてくる怒りを何かにぶつけたい。
そう思いながら歩き続け10日が経った。
俺は何処に向かって歩いているのだろうか。
怒りによる復讐をする為の力だけが湧き出て止まらない。
殺したい。
俺に人を殺させろ。
喰わせろ。
俺はとうに自分が人間であった事を忘れていた。
歩き続けていた俺の足が止まった。
崖か。
俺はよじ登るが強い風が吹き地面に叩きつけられる。
「此処から立ち去りなさい」
誰だ?
視界を何かに隠されているのかぼやけて上手く見えない。
「もう一度言います。此処から立ち去りなさい」
俺に指図するな。
俺は威嚇の為に叫んだ。
「ガァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!」
「黙れ」
彼女のこれが頭の中に響いた。
俺は此処で悟る。
勝てない。
死ぬ、と。
少し冷静になった俺は声のする方へ目を向けた。
狼だ。
大狼か。
普通の狼とは全く別物、大きさは俺の10倍はあろう身体、鋭い眼孔。
到底俺には勝てそうに無いが俺はコイツを殺す。
おいやめろ。
殺して喰ってやる。
勝てないからやめろ。
俺の中には二つの人格が出来上がっていた。
怒りと飢餓による殺意。
強者に怯え逃げ出したい恐怖心。
頭の中でぶつかり合っている。
俺は大狼に屶を投げた。
しかし大狼に当たる前に消滅した。
「貴方もしかしてゴブリンですか?」
「ア"ァ"」
俺は頷く。
刹那、俺に極度の眠気が襲った。
そして眠るように力尽きた。
♢
瞼の隙間から光が差し込む。
目が薄く開くと同時に意識が覚醒していった。
此処は何処だ?
柔らかい感触の床から起き上がる。
ベットと理解できるまでには少し時間がかかった。
誰かに拾われたのか?
俺何でこんな所にいるんだ?
「起きましたか」
「誰だ!?」
静かな空間に俺の声だけが広がる。
白い髪が窓から入り込んだ風に靡く。
睫毛は長く、目は大きく、顔は小さい、美人以外に言いようがないそんな女性が立っていた。
「私に名前はありません。この姿になれば分かりますかね」
彼女は白い毛の小さな狼に変化した。
「お前あの時の大狼か?」
「狼ではありません。神狼です」
フェンリル?
何だそれは?
「少し話しましょうか」
そこから彼女は自分の話、俺が何故此処にいるのか、何故俺は人の姿になっているのか話してくれた。
彼女はフェンリル。
神の狼らしい。
正確には魔神という魔物の神様に加護をもらい神獣化したらしいのだ。
魔物は百年に一度魔物の宴、"モンスターフェスティバル"という宴に召喚されるらしい。
そしてその中で魔神様が強い5匹の魔物を選び、加護を与えるらしいのだ。
加護とは与えた者の力を一部行使することのできる力のこともいうらしい。
簡単に言うとそんな感じだ。
そして彼女がその一人だ。
その5匹の魔物を五大神獣というらしい。
フェンリルの他にドラゴンなどがいるそうだ。
他の魔物は見たことがないそう。
彼女は此処に狼系の魔物の集落を作り、暮らしているのだ。
何故人の姿になっているのかは技能の人化というスキルによるものだそうだ。
どうやら俺はゴブリンからオニビトという種族に進化したようだ。
確かに肌は赤く小さな角が生えていた。
怒りに溺れ如何やら一時的に鬼となりそこから俺の怒りの量に耐えられなくなりなり、鬼の細胞が混じり鬼に侵食されかけたそうだ。
そして彼女に助けられた。
もう少し遅ければ二度と自我が戻らず、完全に怒りに溺れ、本物の化け物に変わる所だったらしいのだ。
感謝しなければならない。
けど俺の怒りの灯火は消えちゃいない。
人を殺すことだけが俺のできる母さんへの報いだ。
オニビトについては彼女も知らないそう。
こんな種族見たことも聞いたこともない、そう言っていた。
「俺はこれからどうすれば良いですか?」
「あなたはどうしたいですか?」
「俺は強くなりたい。貴方のような方に修行をつけてもらいたいです」
俺は今自分に必要な事を述べた。
「何故強くなりたいのですか?」
「大切な人を守れるように、もう後悔しないように、です」
俺は人間を皆殺しにするという真の目的を伏せた。
「そうですか、分かりました、いいでしょう。しかし私は厳しいですよ。」
少し目を細めた後ニコッと笑いそう言った。
「望む所ですよ」
どんな辛い修行も強くなる為、大切な人を守るため、そして真の目的を果たす為、死ぬ気で食らいついてやる。
その次の日から俺と彼女の修行が始まったのだった。
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