襲撃
ゴブリンの森近郊のとある酒場。
冒険者達が談笑する中一人のローブを着た男が話を切り出す。
「ゴブリンの森に新しい集落がまた見つかったらしいぞ。如何やら大人数の村らしい」
「何匹くらいなんだ?」
「少なくとも二百はいるらしいぞ」
男の言った一言に店にいた全員の冒険者が耳を傾け、興味津々で聞き入る。
「場所は知ってるのか?」
「勿論だ。こう見えておれはもうランクDだからな。探索の技能は結構得意なんだよ。」
「その村のことギルドは知ってるのか?」
「いいや知らない。その村の場所は恐らく俺しか知らない」
「頼む!俺早くランク昇格したいんだよ!教えてくれ!」
「教えてもいいが、俺も苦労して見つけたんだよなぁ」
「5割だ!5割やるから場所を教えてくれ!勿論俺達が全て引き受けるから!」
「まあいいだろう。油断はするなよ」
「所詮は最弱の魔物だ。油断しても負ける事はないな」
「ふん、そうか」
ローブの男は薄っぺらい笑いをし、酒場を出た。
♢
藁の絨毯の上で目を覚まし川で顔を洗う。
今日は猪や兎以外の獲物を獲るためにちょっと森の奥に向かう予定だ。
この世界に他にどんな生物がいるか気になるのと、流石に猪や兎は食べ飽きたのだ。
どちらかと言うと後者の方が大きいが。
母さんには夜には戻ると伝え、槍を持ち森の中へと進む。
歩き始めて1時間くらい経っただろうか、森を抜け小さな湖と出会う。
透き通った水の中には小魚が泳いでいた。
旨そう…
前世の俺は実は肉派だったが、久しぶりに魚を見ると涎が溢れそうだった。
俺は槍を持ち、湖の中に入った。
が、ゴブリンが魚に泳ぎで勝てるわけもなくあっさり諦める。
また今度凄い道具持ってお前ら一人残らず喰ってやるよ。
俺は湖に沿ってまた森の中へと足を運んだ。
そして1匹の子熊に出会った。
その熊の毛の色は真っ黒で爪がとんでもなく鋭利になっていた。
子供でこれって…大人になるとどんな爪になるんだよ。
そう嫌な想像をする俺の前に同じ大人の熊が茂みから出てきた。
おいおい、早速フラグ回収かよ。
その熊の爪は30センチ以上はある。
あんなので引っ掻かれたらたまったもんじゃない、挽き肉にされちまうわ。
俺はその場から動かずに熊が離れていくのを待つ。
ちょっと待てよ、確か熊ってめちゃくちゃ鼻が効くんじゃなかったっけ?
熊が此方に気付き、ゆっくりと近づいて来る。
俺は焦りながらも背を見せず、熊よりも速く後退りをする。
逃げると感じたのか熊は急に雄叫びをあげ、全速力で向かってくる。
おいおいマジか!
俺は背を見せないとか関係なしに全速力で走る。
熊は俺のすぐそこまで来ている。
俺は持っていた槍を熊の脳天目掛けて投げた。
運が良ければ当たれ。
そう思い後ろを見ると熊の頭から大量の血が流れ出て、死んでいた。
よし!!
【Lv.8になりました。魔力量がかなり上がりました。】
かなり上がったな。
結構強い奴だったのかも。
俺は熊に近づくが子熊が俺に向かって威嚇をしていた。
親子か。
少し申し訳なくなったので子供の熊を遠くに投げ、そしてその場で熊の頭に齧り付いた。
硬い、臭い、でも美味い。
そんな感想を抱き、母さんの分だけちぎり取り、帰路についた。
帰り道、行きに寄った湖にもう一度寄った。
ゴブリンになって身体をあまり洗っていなかったので湖の水で身体を綺麗にしてから帰ることにした。
花をすり潰したペーストのようなものを身体に塗りたくり水で流した。
思いのほかいい匂いがしたのでこれからもそれを使って洗おう。
ゆっくりし過ぎてしまったのかもう日が沈んでしまっていた。
此処から村はまだ一時間程ある。
ちょっと早歩きで帰ろう。
村に近づくにつれ少し異変に気づき始める。
村の方から煙が立ってない?
そして何かが雄叫びをあげるのが聞こえた。
これ何かあったな。
急いで戻ろう。
俺は焦りながら急いで村に帰った。
村に着いた俺は驚愕した。
目の前に広がっている光景に。
人間が村を燃やし、ゴブリンたちを蹂躙し尽くしていたのだ。
息が荒く震えが止まらなくなる。
俺は呆けながら一歩一歩家に帰る、母さんを探しに。
母さん。
母さん!
「カ"ア"ザァ"ン!!!!」
家の中には両足を無くした目を閉じている母さんが寝ていた。
俺は母さんの肩を揺すり声を掛ける。
が、母さんは起きてはくれない。
ねぇ母さん!
起きてよ!
起きてってば!!
身体は血が通っていないかのように冷たく、心臓の音は無かった。
嘘…
嫌だ…
両目から大量の涙が溢れ出る。
母さん…
誰だ母さんを殺したのは。
俺から大切なものを奪ったのは誰だ。
母さんを追い詰めて殺したのは誰だ!!!
嗚呼そうか、人間か。
待っててね母さん。
今から人間を一人残らず殺してくるからさ。
俺は母さんの横に刺さっていた刃こぼれをし錆びた大きな屶を引き摺りながら人間どもの元へ向かった。
「おっ。まだ居た。ラッキー!」
男は俺に剣を向けて踏み込み切り込む。
「上位個体か。これは昇格も早いぞ」
こいつは俺を殺すつもりでいるのか。
俺はそれを躱し背後に回り男の頭を掴み180度回転させた。
血が大量に飛び散り口に入る。
そのまま頭をちぎり取った。
生首を掴みながら別の人間を殺しに向かった。
俺達が集まって飯を食べていた所に人間達がゴブリン達の死体を積んでいた。
俺は力強く近づき一人の女に生首を投げつける。
「痛っ、ちょっと何すんの…キャァァァァ!!」
女の悲鳴に他の人間が俺の存在に気付く。
「テメェが俺のダチを殺したのか?あ"あ"?」
五月蝿い。
「雑魚の癖に人間様に手を出すとかいい度胸してるんだな」
黙れ。
「魔物の分際で人間に手を出したらどうなるか教えてやるよ」
人間どもは俺に全員向かってくる。
コイツら全員喰い殺してやるよ。
「ガァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!」
俺の叫びに人間は怯え、崩れ落ちている者もいた。
木々は揺れ、水も揺れ、大地すらも揺れた。
【『技能』咆哮Lv.1を取得しました。】【『技能』咆哮がLv.10になりました。】【『技能』咆哮が進化し、『技能』威圧Lv.1を取得しました。】【『技能』威圧がLv.9になりました。】【『特殊固有技能』鬼化を取得しました。】
「オレタチガナニヲシタ?オレタチガオマエラニナニカシタカ?オレタチガオマレラノキニサワルコトヲナニカシタノカ!?オレ二オシエロ!!」
人間どもは俺の疑問に誰も答えなかった。
じゃあ殺すか。
肌は赤く濁り、真っ赤な血管が浮かび上がり、大きな角が生えた俺はもはや小鬼ではなく、鬼であった。
俺の見た目に怯え漏らす者もいたが近づき首を斬る。
逃げ出す者もいたが脚首を斬り、頭を斬り落とした。
それは第三者が見たら地獄絵図、完全なる蹂躙であった。
斬り落とした首を一つずつ喰らい更に怒りが込み上がった。
殺してやる。
人間を殺してやる。
一人残らず殺してやる。
怒りに震える中、俺は母さんの元に向かい、頭を優しく撫でた。
そして俺を育ててくれた家に穴を掘り、埋めた。
母さん、お休み。
育ててくれてありがとう。
と告げ村を去った。
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〔ステータス〕
名前 なし
種族 オニビト
レベル 28
称号 ゴブリンロード
技能 水中呼吸Lv.1 槍術Lv.5
棒術Lv.2 危機察知能力Lv.1 威圧Lv.9
特殊固有技能 鬼化