プロローグ
地球の日本という国に生まれ、育った男。
加藤響。
特にこれといった特技や趣味は無いが無いからといって困るものでは無かった。
ある日、不運な事に自転車に乗っている時、大型のトラックと衝突してしまったのだ。勿論助かるわけもなく、命を落としてしまった。
享年22年。短かったな。やり残したことはあるが充実していた。これ以上を望むのなら俺は強欲かもしれない。
もし来世があったのなら短い人生でも悔いの残らないように自由に楽しく生きてやる。
こうして俺の人生は幕を閉じた……。
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水に沈んだかのように音がぼんやりしており、瞼に光が上手く入らないが意識だけ覚醒する。
何処だ…ここ?
徐々に瞼の重りが外され目を開く。目の前に広がる光景に俺は驚嘆した。
は!?誰!?
目の前に居たのは緑色の肌の人の形をした化け物だ。俺はすぐに逃げようとしたが身体が動かない。
ここは現実では無い。
こんな生物存在するわけがない。鋭く長い歯、狐のようなスラっとした鼻に豚のような鼻がついている。
俺はこの生物を知っている。ゴブリンだ。以前、友達に借りた漫画に出てきたのを覚えている。漫画で見たまんまの容姿をしている。
ゴブリンは横たわる俺を軽々持ち上げ、お姫様抱っこの要領で抱き上げられる。
あれ?俺の身体ってこんなに小さかったっけ?
ゴブリンの小さな腕にすっぽりと嵌る。そのまま俺を持ちながら歩いていく。
何処に行くんだ?
横を見ると何処に向かっているかが分かった。どうやら川に向かっているようだ。
川を覗くとそこに写る自分の姿に度肝を抜かれた。
俺もゴブリンかよ!?
そりゃそうだよな。目が覚めたら目の前にゴブリン。体は動かない。自分より小さいはずのゴブリンに抱き上げられる。
俺はどうやらゴブリンの子供に転生してしまったらしい。
落胆する俺をゴブリンは川に投げ込んだ。
は?
気づいた時には俺はもう水の中だった。身体は動かない。前世の俺だったら簡単に泳ぐことが出来た。しかし今は子供のゴブリンだ。何故か身体も動かない。死ぬなこれ。
息が出来ずにいる中、更に咳き込み大量の水を飲み込む。喉が痛い。
本当に死ぬ…。
意識が遠くに向かう。
意識が刈り上げられるその瞬間、
【Lv.2になりました。魔力量が僅かに上昇しました。】
【『技能』水中呼吸Lv.1を取得しました。】
その言葉が脳内で流れる。刹那、身体に活力が溢れそのまま身体を動かし、泳いで陸に上がる。
そのまま俺は今度こそ力尽きた。
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〔ステータス〕
名前 なし
種族 ゴブリン
レベル 2
称号 なし
技能 水中呼吸Lv.1