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陰と陽の狭間にて。(仮題)  作者: 熨斗月子
一目。血に塗れた足元
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序章 二人の少年。

交錯する想いはやがて百年後へと繋がる物語。

 

 遠く離れた都から、所々に火が燃えるのが見える。だいぶ離れた場所からでさえ人々の悲鳴やら怒号が聞こえてきそうだ。


 そんな都から外れた山奥で、2人の少年が対峙していた。

 辺りは闇が世を覆っており、妖共の活動時間帯だ。


 少年たちの周りには、古ぼけて苔むしったような荒削りの石やら真新しく建てられたような石などが混在していた。いわゆる此処は墓地に該当する。

 そんな場所で、鮮やかな葵色の狩衣を着た少年が白い狩衣を着た少年に瞳を向ける。


「のこのこやってきたのか。殺されることなど理解しているだろうに」


 宵闇でもぼんやりと浮かぶ赤い瞳が対峙する少年を射殺さんばかりに睨めつける。

 しかし当の白い狩衣を着た少年は、誰もが萎縮しそうなその眼力にも臆さずに平然と立っていた。


「私は、君を止めに来た。ただそれだけさ。殺されるつもりは無いよ」


「よく言う。芸でも勉学でも俺より劣るくせに」


 何がおかしいのか、赤い瞳をした少年は喉の奥で低く笑う。

 そうしてひとしきり笑い終えると、赤い瞳をした少年はすらりと手に持った柄が黒塗りの太刀を前方にかざした。


「お前の自慢の曾祖父様は呼ばなくてもいいのか?俺に勝てっこないと思うが」


「あの御方の力は必要ない。君の相手は私だけで充分だ」


「舐めやがって……」


 歯を剥き出しにして怒りを顕にする赤い瞳の少年。

 しかしその怒りは一瞬で、突如額を押えて何かに耐えるように獣のように呼吸を乱し始めた。


「くそ、くそくそ!うるさい!邪魔をするな!」


 悶え苦しむ少年に、僅かながらに白い狩衣を着た少年の瞳に動揺の色が滲む。

 一度手を伸ばしかけるも、思い留まり白い狩衣を着た少年は手に持った白銀の太刀を赤い瞳をした少年と同様に相手へ向けてかざす。


 互いに太刀を突きつけ合い、間合いを見計らっていく双方。

 月明かりのない陰りを帯びた闇の中、鈍い光が閃く。


 一瞬の間であった。


「くそがァ!」


「っぁあ!!」


 同時に踏み込まれた足はそのまま握る太刀同士を交錯させる。

 刹那、太刀から膨れ上がる赤と青の霊力。

 混ざり合いぶつかり合って宵闇の中を幻想的な紫色へと塗り替える。


 ぶつかった太刀はすぐに引き下がり、また再び甲高い音を奏でて激しくぶつかりあった。


「目を覚ませ!君はその太刀を一生使わないと言ったはずだ!!」


「知らない!!俺はそんなこと言った覚えなどない!」


 赤い瞳をした少年が一度身を引くと、太刀を大振りに振るった。

 迸るは猩々緋のように煌々と美しく紅い炎の色をした霊力。


 一切の真言なしで放たれるその一撃は、地面を勢いよく削りながら白い狩衣を着た少年へ迫る。


「くっ!」


 それを受け流すため、白い狩衣を着た少年は己の青い霊力を爆発的に膨れ上がらせ太刀へとまとわせれば、力任せに凪いだ。


「何があったんだ!私が留守の間に君たちに一体何が!?」


「うるさい!黙れ黙れ死ね!!」


 勢いに任せて更に繰り出される赤い瞳をした少年からの猛攻。

 白い狩衣を着た少年はそれをただ凪いだり弾いたり受け流したりするばかりだった。


「っは、はぁ」


「君の手は、太刀を握る手じゃない。それは、私の役目だと言ったじゃないか」


 息一つ乱さず必死に言い募る白い狩衣を着た少年だが、対峙する少年は肩で息をするだけであった。


「俺……は、」


 赤い瞳の少年が何かを言いかけて、しかしそれは言葉にならずに己の顔を手で強く掴むに留めた。

 唸り声が辺りに響き渡る。何かに抗うような低く喉から発される獣のような声。


 突如膠着状態となった戦いの場。しかしそんな中に澄んだ鈴の音色が木霊した。


「っあ、きみ、は」


「誰だ!!」


 苦しみもがく赤い瞳の少年を艶やかな黒髪を風に遊ばせながら空から舞い降りた天女のような女が、ふわりと包み込んだ。


 そうしてその紅の乗った潤んだ美しい唇が、少年の耳元に向けて口を僅かに開いて言葉を囁いた。


「あ、ああああああぁぁぁ!!」


「っ!!」


 目を大きく開いて、闇夜に劈くほどの絶叫を上げる。

 瞬間、先程の比ではない程の赤い霊力が赤い瞳の少年の全身から激しく迸る。

 その風圧に耐え忍ぶように白い狩衣を着た少年は太刀を地面に突き刺して踏みとどまった。


「っ本当に、君の霊力は底なしだな!!」


 しかし言葉とは裏腹に、白い狩衣を着た少年は愉快げに唇を歪ませて笑っていた。


「うるさい!!黙れ!俺に近付くな!くそくそくそ!!」


 焦点の合わない赤い瞳が対峙する少年を必死に見据える。

 まるでその視線は何かを乞うようなものであった。


 しかしその思いは伝わらず、白い狩衣を着た少年は素早い動きで前方へ躍り出た。

 赤い瞳の少年も悔しげに歯を剥き出して相対す。

 再び周辺に瞬く赤と青。


 すれ違う想い。


 全ての起点にして、回帰の日。

 二人の少年の戦いを含んだこの乱は、後に《清和(せいわ)の乱》と称される、陰陽師たちによる大規模な騒動へとなっていった。


 そうしてその乱から時は下りに下って、およそ百年の年月を経る。


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