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Chapter.70

 時は流れ、幾度かの季節が巡る。

 四季折々にやってくる行事のたび、旅立った住人達は赤菜邸に集まり、宴を開催する。

 パートナーが出来、家族が増えてもそれは終わらない。

 最初は帰路に着く元住人を見送る人数のが多かったのに、いまではとうとう赤菜とキイロの二人だけが“見送る側”になった。


 静かになったリビングで、赤菜とキイロはソファに座って残った酒を呑んでいた。

「キイロはいつまで独りなん」

「眞人くんこそ」

「俺はそういうの向いてないから」

「そっくりそのまま返しますわ」

「……見つからんか」

「なにがですか? 恋人?」

「サクラ以上のオンナ」

 テレビの画面を見たまま赤菜が言う。

 キイロも同じように正面を向いたまま少し考えて。

「そうすね」

 自嘲して、うつむいた。いつかはなくなると思っていたフローラルの残り香が、鼻をかすめる。

「ほぉん」同調するでも、助言するでもなく赤菜が喉を鳴らす。「ま、そういう出会いもあるよな」

 キイロは手に持ったビールをグーッと飲み干して、缶を潰した。パキパキという硬質な音が、静かなリビングに響く。

「いいんすよ、ほんと、それで。いい経験できたというか、前には進めてるんで」

「そうやな。まぁもったいないけどな、引く手あまたなのにな」

「それは眞人くんもでしょ」

 ソファに身を預けたまま赤菜が苦笑する。「そういう人生もありやろ」

「そうすね」

 二人はまた、テレビの画面に視線を戻す。

「ビール追加します?」

「そやな。まだあったっけ」

 二人で冷蔵庫へ移動して、中を見る。食材はほとんど入っていない。

 がらんどうの庫内は、いまの赤菜邸のようだ。

「俺が……」

「ん?」

「俺が出てったら、赤菜邸(ここ)、どうします?」

「一人で住むよ。元々そやったし。あいつらがいつまで来続けるかわからんけど」


 住人達は赤菜邸を借り続け別宅にしたいと申し出たが、赤菜はそれをすべて断った。そのかわり、使いたいときに来たらいいと、鍵は回収せず、部屋も好きなように使わせている。

 住人が不在になった部屋にはいまでも仕事道具や趣味のものが残っていて、頻度は違えどかつての住人達が時折立ち寄り、住んでいた頃と同様に過ごすこともある。


「……いずれ老人ホームにしたらいいですよ」

「それもありやな」ははっ、と短く笑って、ビールの缶を取り出した。「キイロも自由にしたらいいわ。俺が縛るもんでもない」

「好きで住んでるんで」

「さよか」

 赤菜とキイロはソファに戻り、缶をぶつけて無言で乾杯をした。




 最寄り駅から徒歩十数分。大通りを抜けて閑静な住宅街へ入る。

 一軒家が立ち並ぶその一角、白く大きな塀に囲まれた住宅が見えてくる。

 塀のすぐ内側に木々が植えられていて、広い庭が敷地内にあるのだと遠目にもわかる。

 近付くと、門柱に『ShareHouse AKANA』と刻まれた表札が掲げられていた。すぐ下にインターホンと郵便・新聞受けが並んでいる。

 門扉から入ると、白壁の大きな家が建っている。

 そこにはかつて、七色(なないろ)の名を持った男たちが住んでいた。

 色彩豊かな思い出を作った家も、月日が経って一人減り、また一人減りを繰り返す。

 たとえこの先、一色(いっしょく)しか残らなかったとしても、その家は閑静な住宅街の中にずっと佇む。


 住人達がいつでも戻れる住処であるように――そう願う大家と共に。



end

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