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Chapter.7

 華鈴の了承を得て、本の箱を開けた一緑が棚に中身を移していく。

 いくつかの箱を開梱して中身を整理しつつ、空いた段ボールを一緑が畳んでまとめ、廊下に出した。

「こんなもんかな」

「うん、ありがとう」

 荷物の整理を終え、あらためて正面に向かい合うとお互いに正座した。

「お世話になります」

「うん。よろしくお願いします」

 三つ指をついて、仰々しくお辞儀をする。照れくさいような微笑を浮かべて見つめ合う二人の間に流れる雰囲気を掻き消すように、ノック音が聞こえて、そのすぐあとにドアが開く。

「いのりーん、みんなメニュー決められへんて……あっ、邪魔したな、ごめーん」

 橙山が顔をのぞかせ、開けた勢いと同じ速度で閉めた。タンッ! とドアが閉まる音と同時に、「わざとやろ」一緑が苦笑する。

 はぁー、と大きくうなだれて、

「ごめんな。こんな感じやけど、大丈夫?」

 心配そうに首をかしげる。

「うん。楽しそうでいいと思う」笑いながら華鈴が答えた。

「そう? なら良かったけど。ドア、内側から鍵かけられるから、着替えてるときとか忘れないように鍵してね。あとで合鍵渡すし」

「うん、わかりました」

 わざとそういうことをする人がいるようには思えないけど、事故的に発生するかもしれないと考えて、華鈴がうなずいた。

「うん。じゃあとりあえず、リビング行きがてらイエんなか案内するわ」

「うん、お願いします」

 じゃあー、と立ち上がって、自室を出た一緑は廊下に立った。

「二階がみんなの部屋で」一緑が自室のドアをコツンと叩き「ドアの色と名前に入った色が一緒になっててー…ってみんなの名前教えたっけ」首をかしげた。

 華鈴は不思議そうに首をかしげ返す。

「ここの住人、全員名前に色が入ってるんやけど、それに沿った色になってるの」

 それらのドアは、廊下に沿って一定の間隔で並んでいる。

 緑のドアから始まり、青、橙色、赤、黒、黄色、紫。

「この部屋の向かいにある茶色のドアはオーディオ室ね。防音加工されてて、まぁ多目的に使ってもいいと思う」

 一緑の部屋を出ると、目の前にオーディオ室の壁が見える。“足りなければ空ける”と赤菜が言っていた部屋だ。

 一緑の部屋は角部屋で、部屋を出て右に行くと行き止まりになっている。

 さきほど運んで来た荷物を一時置きしていたスペースだ。いまは畳んだ段ボール箱が立てかけられている。

 緑、青、橙色のドアを持つ部屋が一列に並び、オーディオ室の向かい側に、螺旋階段を挟んで赤いドアの部屋がある。

「オーディオ室と赤菜くんの部屋だけちょっと広いねんて」

 大家の特権やな~と一緑が笑う。

 三人の住人の部屋、向かい側に同じ配列で個人部屋が配置されていて、紫が一緑の部屋の真向かいに、そして黄色と黒が並ぶ。

「オーディオ室は自由に使ってええねんけど、これがこうなってたら、入らんとってあげて?」

 ドアにかかっている【空室】のプレートを裏返して【使用中】にした。

「はい」

 華鈴が首肯(しゅこう)する。

「トイレとお風呂は一階にあんねんけど」

 階段をおりて一階へ移動する。

 正面に玄関があり、片隅に段ボール箱がひとつ、置かれている。

「あ、靴片付けるん忘れてたな」

「そうだった」

「両側のそのドアん中がシューズボックスになってるから、男たちと一緒でもいいなら使って」

「うん、じゃああとで片付ける。場所とか決まってる?」

「うーん、背の高さによって使いやすいとこ使ってる感じかな~」

「わかった」

 靴の整理は一旦おいて、一緑は歩を進め赤菜邸の案内を続ける。

「こっちに行くと」階段をおりてすぐ左に向かう。「ここが洗面所兼脱衣所で、その奥に浴室があるんやけど」

 洗面所の引き戸を開けて、一緑が中に入る。

「衣装ケースに俺らの着替えとか入れてあって……便利なんやけど鍵とかかからんし、華鈴は入れないほうがいいかなぁ」

「うーん、そうだねぇ。部屋から持ってくるようにする」

「うん、そうしてほしいな」で、と洗面所を出たところで、逆側に設置された同じ扉を指した。「こっちにも同じように洗面所とお風呂があんねんけど、こっち、庭に面してて浴室に窓がついてんのね?」

「うん」

「やからできれば、窓ないほうに入ってもらえると安心かな」

 意外に過保護だなーと思いつつも、華鈴は笑顔でうなずいた。

 ふたつの浴室の向かいにはトイレがみっつ設置されている。両端の個室ドアは浴室側に、真ん中の個室ドアは反対側についている。

「あっちがランドリー室なんやけど」壁沿いに一緑が移動する。「わざわざ回り込むんめんどいから、こっち側のドアのも作ったんやって」

「へぇ、便利だね」

「うん。実際便利やねんけどね」ランドリー室に入りながら一緑が笑う。

 ランドリー室には二台の洗濯機に挟まれた棚が設置されていて、数種類の洗剤類が入っていた。洗濯機の上に、乾燥機も設置されている。

 洗剤類のボトルやケースにはマジックで名前が書かれている。住人たちが個別で使用しているもののようだ。

「こっちの出入り口から庭に出れて、天日干しもできるんやけど……」

「下着は干さないでおくね」一緑の先の言葉を予想して、華鈴が笑う。

「部屋干しでもいいですけど」

「乾燥機をお借りします」キッパリ答えた華鈴に

「そうね」

 一緑が小さく笑った。

「一応定期的に赤菜くんが清掃してるってゆうてたから、汚くはないと思う」

「うん」

「で」庭への出入り口の向かいにある折り戸に手をかけた。「こっち行くとクローゼットに直接行けるから、すぐ着ない服はここに収納しててええよ」

「わ、すごい」

 中は三畳ほどのウォークインクローゼットになっていた。

 所狭しと衣服、装飾類が並んでいる。

 上部の棚にはバッグ類が、その下にバーが設置されていて、ハンガーにかかった衣服。いくつかの衣装ケースやトルソーが数体置かれている。

「ここは一応各自のスペース決まってて」手を広げて一緑が幅を示した。「ここ、俺のスペースやから、コートとか着ない時期はかけといたら便利よ」

「はぁい」

「んで、こっち側から出ると……」入ってきたのとは別の折り戸を開けると「リビング側に出ます」右手にソファとガラステーブルが設置されていた。

「あっ、片付け終わったん?」一緑と華鈴に声をかけてきたのは、ソファに座った橙山だ。

「うん、おかげさまで」

「ありがとうございます」華鈴がお辞儀をするのと同時に

「腹減ったー」と赤菜が腹部をさすり、ぼやく。

「なに食べたいか決まった?」一緑はカーゴパンツのポケットからスマホを取り出しながらソファへ移動し、座った。空いた手で手招きして、華鈴を呼ぶ。

 そのままスマホを操作してデリバリー総合サイトにアクセスを始める一緑に

「それがさー」

 橙山が口をとがらせた。

「引っ越しゆうたらお蕎麦ちゃうの」と青砥、

「麺やったらラーメンがええなぁ」キイロ、

「焼肉食いたい」赤菜が口々に言う。

「ずっとこの調子やねん」口を尖らせたまま、橙山が一緑に訴える。

「橙山くんは?」一緑の問いに

「甘いもん」橙山が答える。

「デザートやん。それは別に頼んだらええよ」

「なんやったらファミレスでも行こか?」青砥が妥協案を出すも、

「そんなリーズナブルな人間やと思うなよ?」赤菜は謎の反論をした。

「さして値段かわらんやん」橙山が小さく言うも、赤菜は取り合おうとしない。

「もー、そしたらどうするの。何店舗も注文すんのん、さすがに嫌やで」一緑がソファの背もたれに身体を預け、面倒くさそうに言った。

「一気に色々頼めるお店ないのん」

 橙山が一緑の隣に移動して、スマホを覗き込む。

「ないよ」一緑はいくつかの店を検索しているが、希望に沿った店は見つからない。

「やからファミレスがええんやない? って」

「ファミレスは嫌やって。そもそも出かけるんめんどい」

「結局そこやん」赤菜の反論に青砥が笑う。

「んもー、みんな自由すぎるわ~」

 スマホを操作しつつ、一緑がなげいた。

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