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Chapter.6

 引越し当日。

 一緑は軽トラックを運転して、マンションの前に来た。迎えに来た華鈴と一緒に、華鈴と姉が住んでいる部屋へ向かう。

「お久しぶりです」出迎えた姉と挨拶を交わして、2LDKの部屋に入る。

「華鈴の荷物は華鈴の部屋にあんの?」

「うん」

 通りかかったリビングにも段ボール箱がいくつか置かれていた。

「こっちはお姉ちゃんの」

 華鈴が言いながら自室へ移動する。

「ごめんなさい、急な話で」

 荷運びを手伝うという姉が、一緑に声をかけた。

「いえいえ、全然。なんていうか……」一緑は少し考えて「言い方悪いかもですけど、渡りに船やな~って思ってます」ははっと笑った。

 姉も少しニヤリと笑って、「助かります」肩をすくめる。

 姉妹でタイプは違うが、笑顔はやはり似ていて、一緑はほっこりした気分になった。

「一緑くん?」自室の扉から顔をのぞかせ、華鈴が名前を呼ぶ。

「はい。はいはい」

 何度か遊びに来たことのある華鈴の部屋は、一部の家具を残して全て段ボール箱に収まっていた。

「家具持ってく? あれからうちも片付けたけど」

「本棚だけいいかな?」一緑と同じ背丈ほどの白い本棚を指して、華鈴が問う。

「うん。こんくらいなら置けるよ。あとはええの?」

「うん、大丈夫」

「わかった。じゃあ始めよか。重いのは俺運ぶから、置いといて」

 何回かに分けて、三人で荷物を軽トラックに運び入れていく。

 さして荷物が多かったわけではないので、運搬作業はすぐに終わった。

「それじゃあ、行くね」華鈴は姉に声をかける。

「うん」姉が華鈴を手招きした。「パパとママにはうまく言っとくね」悪戯っぽくふふっと笑う。

「ありがとう。お姉ちゃん、元気でね」

「うん。華鈴もね。塚森さん、妹をお願いします」

 一緑は姉にペコリとおじぎをし、「はい。大事にお預かりします」と真面目な顔を見せた。


 軽トラを発車させ、二人はドライブ気分で赤菜邸まで車を走らせる。運転は一緑の担当だ。

「ありがとね? 忙しいのに……」華鈴の言葉に、

「ううん? めっちゃ楽しみにしてたから」一緑が笑顔を見せた。

「私も」

 華鈴の言葉に、二人で「えへへ」と笑う。


 車を走らせること数十分、目的地である一軒家が見えた。半地下にある駐車場にトラックを駐めると、窓から外を眺めていた青砥と橙山が、文字通り赤菜を引っ張って玄関から姿を見せる。

「イヤやって~、箸より重いもん持ったことないって~」

「うそつけ。ギター弾いてるやろ」

 青砥が鋭いツッコミを入れる。

 青砥と橙山は赤菜の片腕をそれぞれ掴んで引っ張っている。そのままの態勢で三人が駐車場までやってきた。

「あの、そんなに荷物ないので、大丈夫ですよ?」

 華鈴の言葉に、

「ほらー」

 赤菜が華鈴を指さして、青砥と橙山を交互に見た。

「ええねんて。せっかくの男手や。つこときつことき」

「下着の箱どれ? それなら運ぶ」赤菜の申し出を

「いえ、それは自分で……」華鈴が丁重に断る。

「全部いのりんの部屋に運べばええ?」と橙山。

 青砥がシャツの袖をまくって「とりあえず全部、家んなか入れよか」慣れた口調でテキパキと指示を出す。

「慣れてるな」驚いたように言う橙山に

「仕事でこんなんよーやっとるからね」雑談しながらも、青砥は車から荷物を運び出して行く。

「華鈴は指示出してくれたらいいから」

 一緑の言葉に甘えて、男四人に段ボール運びをしてもらう。

 玄関先に荷物が全て運びこまれたのを見届けて、

「車返してくるね」

 一緑が言った。

「うん。ありがとう」

「すぐ戻るから、運ぶん大変やったら荷物置いといてね」

「うん。気をつけてね」

 手を振る華鈴を真似した赤菜と橙山が

「「気をつけてね」」

 ニヨニヨしながら一緑に手を振った。

「似てないよ」

 一緑が笑って、玄関を出た。

 残った四人は荷物の山を振り返る。

「家具はこれだけ?」青砥が棚に手をかけて言う。

「家具付きの賃貸物件だったので」

「本が多いのは、趣味かなんか?」橙山の問いに

「それもありますけど、出版社に就職したくて……その勉強も兼ねて」少し照れたように華鈴が答えた。

「へー! 偉いなぁ!」

 橙山が関心したように笑顔になる。

 四人が雑談しながら箱を運ぼうとした瞬間、「ん」と、くぐもった寝起きの声が聞こえる。キイロだ。

「なに? この荷物」

「なにって……」口を尖らせた橙山が、すぐ後ろにいる華鈴を指さした。

「あっ、あ……。今日……やったんですね……」

「はい。お世話になります」

「えっ、あっ、ハイ……」挙動不審なキイロの反応に、

「ヨソヨソしいなぁ、初対面でもないのに」青砥が笑った。

「まっ、まだ、二回目やし……」

「四回でも五回でも変わらんやろ」靴を脱ぎながら言う赤菜に、

「俺のなにを知ってんのん」キイロが反論する。

「もー、ええから荷物運ぼ」同じく靴を脱ぎながら言う青砥と、

「台車持ってくるわ」言って、一足先に廊下に移動していた橙山がリビングへ向かう。

「台車があるんですか?」

「うん。室内用……ちゅうか、階段用?」華鈴の疑問に青砥が答える。

「そんなのがあるんですね」

「そう。最初のころ、引っ越しでえらい目におうたもんね」

「ここのやつら、揃いも揃って重いもんばっか置きよるからな」憎々しげに赤菜が言って「床抜けたらどーすんねん」口の中で言葉を転がした。

「おまたせ~」

 カラカラと軽快な音を立てて、橙山が玄関に戻ってくる。「重いもんから先いこか~」

「それ貸していただけるなら、一人で大丈夫……」華鈴が言い終わらないうちに、

「これからひとつ屋根の下で暮らすんやから、水くさいこと言わないのっ」橙山が弾んだ声で言って、華鈴のおでこを指先で弾く…ようなジェスチャーで空中を弾いた。

 その間にも、青砥が台車に荷物を積んでいる。

「軽いもん、俺、はこぶわ……」

 一連のやりとりを見ていたキイロが呟いて、箱の但し書きを見、軽そうな物を選び、青砥より先に階段をあがって行く。

「赤菜くん、一緑の部屋の場所、案内したげたら?」青砥の提案に

「せやな」と同意し「おいで~」と手招きをして、先導する。

「な、なんか、スミマセン」赤菜を追いつつ、青砥と橙山を振り返る華鈴に

「ええのええの。力仕事は任せといて」橙山が右腕に力こぶを作って見せた。

「ありがとうございます、お願いします」小走りに赤菜のあとを追う華鈴の背後で、

「靴の箱はこのままでええんちゃう?」

「せやな、ここ避けとこか」

 橙山と青砥の会話が聞こえる。

 一足先に階段をあがるキイロと、それを追う形の赤菜と華鈴。

 二階の廊下に着いた、すぐそばのドア脇に箱を置いた。

「ここ、塚森の部屋」赤菜が緑色のドアを指さす。

「入ってええなら、入れるけど、荷物……」キイロの提案に、

「ありがとうございます。一応、勝手に入っていいとは言われているんですけど、部屋に入れるのは自分でやります」

 華鈴の言葉に「「うん」」赤菜とキイロがハモって、階下へ移動した。

 中に誰もいないのは知っているが、一応ドアをノックしてから、引き戸を開ける。

 初めて入る一緑の部屋は、ほのかに一緑の香りがした。

 十畳ほどの部屋に、ベッドといくつかの本棚。デスクにはノートパソコンが置かれている。小型のテレビとテレビ台、その中に数本のディスクケース。少し離れたベッド脇に、大きなビーズクッションが置かれている。

 角のスペースには銀ラックが置かれていて、衣服類はそこに収納されていた。

 これなら二人分の荷物は十分に置ける、と思える広さだ。

「中に入りきらん荷物は、下にもスペースあるから使ってええよ」宣言通り【衣類】と書かれた箱を運び込んだ赤菜が背後から声をかける。

「ありがとうございます」

「家んなかはどうせ一緑が案内するやろ」

「そうですね、お願いしてみます」

「おん」

「リア充さまのお帰りやぞ~」

 橙山が言いながら台車を操り階段をあがりきると、その後から、息せき切った一緑が姿を見せた。

「なに? いまの」

 橙山の台詞に一緑が少し遅れて笑う。

「部屋ん中は、いのりんのがいいかな?」

 台車の持ち手に肘を付き、橙山が聞く。

「そうね」

「棚、先運び入れよっか」

「うん。棚が終わったらあとは二人でも大丈夫やと思うけど」

「ほんま?」

「うん」

「そしたら、一旦棚運んじゃお。そんで、なんかあったらすぐ呼んで、手伝うから」

「うん、ありがとう」

「ありがとうございます」

 話しながら階下へおりると、キイロと青砥が待っていた。

「棚だけ運んだらあと二人で大丈夫やって」

「ほんまぁ、じゃああと大丈夫ってことね?」

 青砥の問いに一緑がうなずく。

「休みの日にごめんなー、ありがとう~」

「「「ご馳走様です!」」」

 赤菜、橙山、青砥が同時に言い、一緑に頭を下げた。その言葉の意味を察した一緑が笑って

「うん。なに食べたいか考えといて?」

 四人にうなずいて見せた。

「おっけ~」

「じゃあ俺と一緑で棚あげちゃおっか」橙山が提案する。

「うん、ありがとう」

「んじゃ、俺らリビング行くね~」

 青砥が言って移動する。それに続く赤菜は前を向いたまま右手を振り、キイロは眼を泳がせながら会釈して移動した。

 橙山と一緒に一緑と華鈴が三人を見送って、

「続きやるか」

 一緑が華鈴と橙山に笑いかける。

「棚いくか」橙山の提案に

「うん、お願いします」一緑が賛成した。

 二人で棚の上部と下部を分担して持ち、斜めにして階段をあがる。

 部屋の中に設置して、橙山も「じゃあ、あとで~」とリビングへおりていった。

「そしたらあとの荷物運んでくるから、荷ほどきしておいて?」

「うん、ありがとう」

 階段へ向かう一緑を、華鈴が笑顔で見送った。


 華鈴が荷ほどきをしている間に、一緑が台車を使い階段を一往復して、運搬作業は終わった。

「靴入った箱、玄関にあったよね。あとでシューズボックス入れに行こー」

「うん」荷ほどきをして服を銀ラックに入れる。「お片付け、ありがとう。ごめんね?」

「ううん? 一階の共有スペースに移動させただけやから、気にせんとって」

「ありがとう」

「イエんなか、あとで案内するわ」

「うん、お願いします」

 しばらくの間黙々と片付けていた華鈴が、ふと口を開く。

「今更だけど……」

「うん?」

「邪魔じゃなかった……?」

 華鈴の言葉に一緑はきょとんとして、ふっと微笑んだ。

「邪魔やって思うようなら、一緒に住もうなんて提案してないから」

 華鈴の頭を(いつく)しむように優しく撫でる。

「ほんまええコやわー」目を細めて言う一緑に

「子ども扱いしないでください」華鈴がわざと唇を尖らせる。

「わぁー、怒られたぁ」

 一緑はニコニコしながら、作業の続きに取り掛かった。

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