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Chapter.56

 クリスマス当日には一緑と華鈴が協力して作ったローストチキンやホールケーキ、住人達が仕事帰りに買ってきたデパ地下の惣菜などが並び、豪華で賑やかなパーティーが開催された。

 年越しには年越しそば、年明けにはおせちと雑煮を食べる。

 住人総出で近所の神社に初詣も行った。

 例年は気が向いた住人が数人で行ったり行かなかったり、という状態だったと聞いて、華鈴は少し意外な気がした。

「みなさん仲がいいから、そういうの良くしてらっしゃるのかと思ってました」

 華鈴がそう言ったら、真っ先に赤菜が顔をしかめて

「男ばっかでやってもなんも楽しないわ」

 吐き捨てるように返答した。

 その一言で、いままでそういう機会があまりなかった理由がわかった。


 華鈴が来てから、赤菜邸はこれまでになく年中行事を楽しむ機会が増えたそうだ。


 季節は冬、新年も半月を終えたあたり。

 とある行事が目前に迫っていることに華鈴が気付く。

 きっかけは、大手のネットショップがこぞって一番目立つ場所に設置している、特設会場へ誘導するバナーだった。

 写真を見るだけでもウキウキと心が弾む。

(……相談してみようかな)

 去年までは一緑にしか渡さなかったから考えもしなかった物の購入を検討して、華鈴は少し悩んだ。


 休日に部屋でくつろぐ一緑のタイミングを見て、華鈴が口を開く。

「一緑くん」

「ん? なに?」

「相談があるんだけどね?」

 華鈴は少し遠慮しつつ、一緑の顔を覗き見た。

「うん。なに?」

「今年のバレンタイン、みなさんにもチョコ、渡していい……?」

 断られる前提で聞いた華鈴だったが、

「ん、ええんちゃう? めっちゃお世話になってるもんな」

 あっさり了承を得られて、予想外に肩透かしを食らった気分になった。

「いいの?」

「ええよ? 勘違いされるほどの豪華なのは嫌やけど」

「うん。それは大丈夫」

 快諾された安堵と、いままで買う機会がなかったチョコを選べる楽しさとで、華鈴が笑顔を見せる。

「あと、もう一個だけいい?」

「うん」

「みんなの分は、みんながおるとこで渡してね」

「うん。じゃあ、みなさんのスケジュール確認して、渡す日決める」

「うん。うるさくてごめんな」

「全然? ちゃんと言ってくれるの嬉しいよ?」

「そう」

 一緑は安心したように、華鈴の頭を撫でた。


 その日の夜、華鈴は早速ネットショップを徘徊する。

 取り扱うブランドが各店で違って、特別仕様のチョコレートを眺めているだけでも楽しい。

 通販だと届いたとき受け取るのが自分ではないかもしれないから、ネットで下見だけして実際は直売店や祭事スペースで購入してくるつもりだ。

 一緑は甘いものが得意ではないが、バレンタインのチョコだけは喜んで食べてくれるので、選ぶとき気合が入る。

(一緑くんにはチョコのほかにもなにかあげよう)

 チョコを選定しつつ、プレゼント選びにも余念がない華鈴であった。


* * *


 あっという間にバレンタインデー前日。

 夕食の時間には全員揃う予定になっているから、夕食終わりで皆にチョコを渡すことにした。

 華鈴はいつものようにキッチンに立ち、人数分の夕食を作り始める。

 食材を切っていると、「ただいまー」玄関から帰宅の挨拶が聞こえてきた。一緑の声だ。

 華鈴はエプロンで手を拭いて、リビングまで移動し「おかえり」出迎えた。

「ただいま。あれ、まだ誰もおらんのね」

「うん、みなさん夕食前に帰宅予定になってる」

「そっか。じゃあ」と一緑が手を広げ、華鈴を迎え入れようとするが

「エプロン濡れてるからダメだよ」華鈴は笑顔でやんわり拒否をして、踵を返す。

「えー、それじゃ疲れ取れへん~」言って、後ろから華鈴を抱き寄せた。

「もぅ~」

 仕方ないなぁと笑いつつ、受け入れる。

「今日ごはんなに?」

「チキン南蛮にしようかと思って」

「えっ、美味そう。でも大変そう」自分でも料理をする一緑は、その工程も献立を聞けば大体把握ができる。「いまどんな感じ?」華鈴を抱き寄せたまま、キッチンへ歩みを進めた。

「まだ食材切り始めたところ」

「じゃあ着替えて手伝うわ」

「ありがとう、助かります。あっ、あと」

「ん?」

「今日のごはんのあと、みなさんにお渡ししようと思ってるんだけど」

「うん?」主語を抜かした華鈴の言葉に一緑は不思議そうな顔を見せ「あぁ、チョコか」合点がいったようにつぶやいた。

「うん。でもバレンタインは明日だから、一緑くんには明日渡すね」

「ありがとう」一緑は華鈴をぎゅうと抱きしめて「着替えてくるね」名残惜しそうに身体を離し、自室へ戻った。

 その足取りはウキウキと弾んでいて、後ろ姿を眺める華鈴も嬉しくて、ついつい鼻歌を歌ってしまうのだった。

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