Chapter.5
「ザッと調べただけやから、参考程度やけど……」
前置きをしてから、一緑が華鈴に引っ越しプランを説明していく。
そこへ、「ただいまー」少し疲れたような声が聞こえて、青砥と同じルートを辿る足音がした。
「お、帰ってきたか」
赤菜が片眉を上げて、足音のほうを見やる。
華鈴は挨拶をしようと身構えて、足音が近付くのを待った。
リビングに現れた人影が華鈴の姿を見つけるや……
「うわぁ! えっ! えっ!? なに?! なんで女子がおるん?? えっ!? ここ、女子禁制ちゃうかったん!?」
これまでとは正反対の反応が返ってきた。
その男性は明らかに動揺し、そしてかなりの距離を置いて。所持していたカバンを防具に見立てて身体の前に掲げる。
「女子禁制なんていつ誰が言うた。そんなん、なんの規約もないで。契約書ちゃんと読め言うたやろ」少々巻き舌で赤菜が告げる。
「うそやん! 男しかおらんから住んでんのに!」
「あっ、あの、ご迷惑でしたら、わたし……」
「あかんあかん! やっと来た潤いやのに!」と橙山。
「俺のやで」
「そうや。やっときたお色気要員やのに」今度は赤菜。
「俺のやで!」
華鈴をかばうように、一緑が手を広げる。
「どーせジブン、部屋からそない出てけーへんやろ、えーやん」
立ち尽くす男に赤菜が言い放つ。
うっ、と息をのんで男は黙り、カバンを腹に抱えた。
「ちょっと訳ありやねん。キィちゃんに迷惑かけるような人じゃないから……お願いできんかな」
一緑が手を合わせて上目遣いに懇願すると、
「……わかった……」
男は不満げに頷くが、警戒心を解く気配はない。
「ごめんなぁ」青砥が申し訳なさそうに顔をしかめて華鈴に声をかけた。「キイロ……あ、あいつな? あいつモテすぎて女性恐怖症気味なんよ」
青砥の説明に「いらんこと言うなよ」とキイロが吐き捨てる。
「あの……ご迷惑をおかけしないよう、心がけますので……」
華鈴の言葉に小さく頷くキイロ。
ボサボサの髪と丸い眼鏡が顔を半分ほど隠しているが、鼻筋と顎のラインはシャープで、顔が小さい。細身ではあるが、程良く筋肉が付いているのが服の上からでも見てとれ、頼りない印象はない。
服装や髪型には無頓着なようだが、気を遣えば相当に女性受けするだろう。モテすぎて女性恐怖症になったというのも、大げさではなさそうだ。
「そしたら俺、仕事あるから……」
キイロは華鈴に背中を見せぬよう後ずさりをしながら、螺旋階段をあがっていった。
「自己紹介もせんと~」
青砥の言葉に反応した橙山が再び正座をし、
「あっ、僕、橙山って言いますっ」
手を差し出して幾度めかの挑戦を試みるが、
「さっきやった」
うんざり顔の一緑に阻止された。
「アホや」
「アホや」
赤菜と青砥が口々に笑う。
「アホアホ言わんとってよ~。いちんちに何回ヘコめばええの」
「自業自得やろ?」
青砥が優しく言った。
一緑はそんな二人を気に留めず、スマホを片手にしばらく考えてから、
「入居は最短で来週中頃くらいかな。あとは月末になっちゃうけど……」頭を掻きながら言った。
「来週やったら誰かしらおるで」青砥の答えに
「来るんはいつでもええから、正式に決まったら教えて~」赤菜が言った。
「いのりんがおるときのがええやろけど、あんまりにも予定が合わんのやったら、そんときおる人に手伝ってもうたらええよ」橙山の意見に、
「うん、ありがとう」一緑は素直に礼を言う。
「お世話になります。よろしくお願いします」
華鈴がお辞儀をすると、隣で一緑も一緒に頭を下げた。
三人はそれぞれの言葉で答えて、笑顔を見せた。
こうして、七人の男たちと、一人の女性の共同生活が始まることになった。