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Chapter.49

 華鈴の姿が見えなくなったのを見計らって、黒枝と橙山がキイロに向き直った。

「えっ、なに……?」キイロが苦笑しながらその場で座り直す。

「らしくないなぁ思って」後頭部の髪の毛をいじりながら、黒枝が切り出す。その声音には、若干の“わざとらしさ”がにじんでいる。

「なにが」

「ヒトのことにとやかく介入するタイプやないやろ、しかも女性にさ」

「そんなことないよ……」目をそらして、モゴモゴと答えるキイロに

「好きなん?」橙山がダイレクトに聞いた。

「いやっ、ちがっ…!」突然の質問にキイロが慌てた。「そういうんじゃなくて、だいぶ慣れたし、袖すり合うも他生の縁っていうし……」

 黒枝と橙山は、黙ってキイロの言動を見守る。

「っていうか、一緑の彼女やしさーあ!」

「オレ、誰とはゆうてないんやけど」

 橙山が素知らぬ顔で顎を掻くと、キイロは苦虫を噛み潰したような顔で橙山をねめつける。

「キィちゃんのそーゆー顔、こわいねんからやめてぇさー」身体を捻じ曲げて、キイロの視線から逃れようとする橙山に反して、

「別に好きになるくらいはええと思うけどなぁ」黒枝は腕組みをして思案顔になり「茶化してるんでも焚きつけるんでもなくてね?」前置きをして、続ける。「恋人がいようと結婚してようと、好きになるもんはなるよ。そこからどうするかはまた別の話やし、浮気とか不倫はどうかと思うけど、人の気持ちなんやし、しゃーないんやない?」

 話を聞いていた橙山はうんうんうなずいて。「そうよ、キィちゃんもたまには素直になったらええねん」

「たまにって……いつも素直なつもりなんやけど……」

「キィちゃんは恥ずかしがり屋さんやからなぁ」

「これがきっかけで女性恐怖症なおるかしらんし、えぇ機会なんやない?」

「勝手に話進めんとってよ! そーゆーんやないねんて!」頭をガシガシ掻いて「寝るっ」勢いよく立ち上がると、華鈴から返されたマフラーとコートを乱暴に抱きかかえ、わざと足音を立て二階へあがっていった。

「繊細やなー」黒枝がつぶやき

「からかってるように聞こえちゃったかな」橙山が二階を見上げる。

「いや、あんなん、誰がどー見てもやろ」苦笑しながら黒枝が答えた。

「やんなぁ。自覚したほうが楽かなー思ったんやけど……」

「ゆうて、好きになった瞬間に失恋してるようなもんやしなぁ」

「んー、そらそうやけどなー?」橙山は口を尖らせ、身体ごと頭を斜めに傾ける。「けど、失恋って案外さぁ、学ぶこと多いやん」

「多い」黒枝が小さく笑う。

「ないほうが幸せやろけど、あってもええんちゃうかなーって思うんやけどなー」

「まぁ、キイロ(本人)が否定してるんやから、違うんちゃうの?」

「そういうことにしておくかー」

 黒枝と橙山は思いを馳せるように言って、しばし無言になる。

 天井を見上げていた橙山が、そっと口を開いた。「……出てっちゃうかなー」

「カリンちゃん?」

「うん」

「一緑次第じゃない? オレらと一緒に住まわすのが限界やったら、彼女だけか、二人で出ていくかするんじゃないかな」

「あのコおると家ん中あかるくなっていいんやけどなー」

「そやなー」黒枝も橙山と同じように天井を見上げた。その先には、一緑の部屋がある。「ゆっても、この先結婚とかになったら出ていくやろけどな」

「さみしぃなぁ」

「一緑たちだけちゃうやろ。オレらかて、結婚なり転勤なりしたら引っ越さなあかんのやし」

「そしたら……」橙山は天井から目線を逸らし、室内を巡らせる。「また独りになっちゃうね、赤菜くん……」

「……」黒枝はしばし考えて。「ま、そんときはヨメさん説得して一緒に住んだるわ」ドヤ顔を見せた。

「えっ? アテあるん?」橙山の問いに、

「ないっ!」再度ドヤッと答える。「そもそも眞人がそれを望んでるかわからんし」

「まぁ、そうやけどさー」

「みんな住み始めたころより収入増えてんのにさ、みんな出ていかんのはここが気に入ってるからやろ。そうそう眞人独りになるとは思われへんけどな」黒枝が髪をバサバサと手でほぐしながら言う。

「ん~、ま~、それは確かにそうやなぁ~」言って、橙山が床に寝転んだ。「床暖房あったか~」

「今日、仕事ええの?」

「えー? 今日は休みにしてたから~。くろたんは~?」

「オレも今日はオフ」

「そっか~。なんかもう、いちんち終わった気分やねんけど~」

「わかる~」

 橙山が床にペタリとひっつき、黒枝が大きく伸びをした。

「いつかはあるやろ思ってたけど、けっこう派手にやったなぁ」言って、黒枝が笑う。

「二人とも優しいから、ほどほどのケンカを知らんのやない?」

「確かに」

「仲直りしてくれるといいけど」

「そうなー。そしたらまた、なんも知らんふりしておこ」

 黒枝の提案に橙山が笑う。

 行動するにはまだ早い時間、昇りたての太陽の陽が差し込むリビングでまったりする二人は、それぞれ過去の恋愛を思い出していたのだった。

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