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Chapter.33

「はー、楽しかったー!」

「なー」

 カフェのオープンテラスでお茶を楽しみながら、一緑と華鈴は笑顔で顔を見合わせる。

「シュウちゃんにお礼言わんとなぁ」

「そうだね。お茶飲み終わったら、二階に戻ってお土産買っていい?」

「もちろん」

「なにかいいのがあるといいねぇ」

「そうやねぇ」

「なにがいいかな……」

 ココアラテに浮かぶ生クリームを見つめながら、華鈴が思案顔を見せた。

「行ってみて、良さそうなのあったらでいいよ。他の人もやろうけど、シュウちゃんやったら土産話だけでも喜んでくれると思う」

 一緑の言葉を聞いて、華鈴がその光景を思い浮かべ、ふと微笑んだ。

「そうだね」

 頭上に広がる空は青く、浮かぶ雲が綿あめのよう。温かな陽射しと少し冷たい風が心地いい。

「えぇ一日やなぁ」コーヒーを飲みながら一緑がぽつりとつぶやき、

「そうだねぇ」華鈴が微笑み、幸せそうに目を細めた。

 テーブルの上に置いた手を柔らかく繋いで、高速道路のような水槽の中で毛づくろいをするモモイロペリカンを眺めると、なんだかとても幸せな気分が沸き上がってきた。



 カフェでのひと時を過ごし、二階にあるショップへ移動した。

 大人数への土産の定番であるお菓子コーナーを見ると、クッキーやバウムクーヘン、チョコレート菓子が並んでいる。

「みなさんって甘いもの、あんまり食べないよね?」

「あんまり見ぃひんね。好んで食べるん橙山くんくらいかなぁ」

「そうだよね。一緑くんも食べないもんね」

「うん。ゆうて、お土産やったら嫌がらんとは思うけど」

「うーん」どうせなら喜んでもらえるものを、と陳列棚を一通り見て回る華鈴が「あ」小さく言って、棚を指さした。「ね、これどうかな?」

 その先にあるのは、『柿の種』と呼ばれる米菓だった。三種の味がアソートされ、小分け袋が二十一個入った大袋だ。

「あ、いいんじゃない? つまみにもなるし」

「だよね。じゃあこれいくつかおうち用に買って行こうかな」

「うん、いいと思う」

 同意した一緑が、どさどさと四袋を買い物かごに入れた。

「食べきれる?」

「みんな食べんかったら俺が食べる。っていうか、華鈴は食べへん?」

「お土産のものを渡した側の人が食べちゃっていいのかな?」

「ええやろ、誰が食べても」

「そっか。じゃあいっか」

 言って笑って、別のコーナーに目を向けた。

「華鈴はなんか欲しいのないの? 買うよ?」

「うーん、そうだなぁ……あ、おうちの分は私出すからね?」

「んじゃ半分出して? シュウちゃんのお礼は華鈴にで、俺は連れてきてもらってるんやし、チケット代分まるまる奢ってもらってるようなもんやからさ」

「うー、じゃあ、それで」唇を尖らせ、無理やり納得した様子で華鈴がうなずいた。

「で? 華鈴のは?」

「……一緑くんは嫌がるかもだけど……」

「ん?」

 華鈴がおずおずと指さした先には、水族館の生き物を模したステンレスチャームのペアストラップが陳列されている。

「半分こ、しませんか……?」

 少し不安そうに首をかしげる華鈴に、一緑の胸が撃ち抜かれる。

「します。しましょう。どれがいい?」

 即決した一緑に華鈴はほっと息を吐き、「じゃあ、これ」ペンギンのつがいをモチーフにしたボールチェーンのストラップを選んだ。

「うん。これね」ひとつを手に取り、かごに入れた。「あとは?」

「うーん、大丈夫」

「うん、わかった。じゃあ買ってくる」

「うん」

 財布を出そうとする華鈴を手で制して「あとで請求するからいまはいいよ」一緑が笑いかける。

「はぁい」

 財布をバッグにしまって、一緑がレジに行くのを見送った。

 少しの間レジ近くの棚を眺めていた華鈴に

「お待たせ」

 会計を終えた一緑が声をかける。

「うん」

 笑顔で答えて差し出された手を取り、そのまま繋いで帰路についた。



「ただいまー」

「ただいま帰りました~」

 二人そろってリビングへ声をかけると

「おかえり~」青砥、

「おん」赤菜、

「おぅ、おかえり」紫苑が口々に答える。

「なんやっけ、水族館やっけ?」紫苑の問いに

「そう、シュウちゃんにチケットもらったやつ」一緑が答える。

「ええやろあそこ~」

「すごい良かったです!」

 満面の笑みの青砥に満面の笑みの華鈴が答えて、二人でニコォと更に笑う。

「あ、そんでな~、これ、華鈴と俺から~」

 あらかじめ自分たち用のストラップを抜き取ったショップ袋を、近くにいた紫苑に渡す。

「ええの?」

「うん、みんなで食べよ~」

 一緑に言われ、紫苑が袋の中から土産品を出した。

 ソース、塩、バターを持った笑顔のタコ、鮭、ホタテのイラストがパッケージに描かれている。それぞれが持つ調味料で味付けされていると、吹き出しの中に説明書きがあった。

 出された袋のひとつを持って「えー、なにこれ、楽しい~」青砥が興味深そうに笑顔を見せる。「お土産コーナー見んから知らんかったわ~」

「つまみに良さそうじゃない?」

「ほんまやなぁ。みんな揃ったら開けよっか」紫苑も同じように手に取り、パッケージを眺めた。

「別にいま開けてもいいよ」

「昼間っから酒飲むんもなぁ」言いつつ、どこかまんざらでもない青砥と

「絶対全部食うてまうわ~」腹をさする紫苑がガラステーブルの上に袋を置いた。

「そしたらしまっておこっか。あとでみんなで食べよ~」

 一緑はガラステーブルに乗った四袋を抱えて、食料保存棚に片付けた。

「カリンちゃん、ありがとうな~」

「ごちそうさま」

「いえ、全然」

 青砥と紫苑の礼に、華鈴が小さく首を振った。

「疲れてるやろうし、夕飯(ゆうめし)はこっちでなんとかしとくから、休んどいたらええわ」

 赤菜が珍しく二人を気遣うようなことを言ったから

「あら珍し!」紫苑は口に手を当てて驚き

「雨降るんちゃう?」青砥はいぶかしげな顔をして窓から外を見やった。

「うっさいのぉ。たまにはそういう気分のときもあるんや」

 二人を追い払うように手で払い、顔をしかめた。

 一緑と華鈴がその光景を見て笑う。

「お言葉に甘えて、一回部屋戻ろっか」

「うん」

「メシ、なんでもええか?」

「はい」

「おまかせするわ」

「おん」

 赤菜の返事を聞いて、一緑と華鈴は一緒に自室へ戻った。

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