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Chapter.3

 ガラステーブルの下から、一人の男が車体検査をするような体勢でこちらを見ていたからだ。

 華鈴は思わずソファの上に足を乗せると、

「見えるで、パンツ」赤菜が指さし、嬉しそうに言った。

「――!!」華鈴は声にならない叫びをあげて、スカートを押さえながら慌てて足を下ろす。

「ちょっ!」一緑が華鈴の前に手を出してかばい、「ちょっとやめてよ二人とも! 一緒に住まわせられへんやん!」赤菜とガラステーブル下の男を責めた。

「これくらいで驚いてたらどっちゃにしろ住まわれへんよ」

 赤菜が言って、ガラステーブルを眺める。

「こんにちは~」

 ガラステーブルの下から投げかけられた挨拶に、

「こ…こんにちは……」

 華鈴が引きつった笑いを浮かべながら返答する。

「ちょお、もう気持ち悪いって! はよ出てきいや」

 一緑が眉間にシワを寄せてガラステーブル下に言葉を投げた。

 その言葉に促された男はテーブルの下からゴソゴソと抜け出すと、すぐ脇にちょこんと正座し

「どちらさまですか?」

 たぬきのような顔で首をかしげた。

「あっ…えっと……」

 華鈴のたどたどしい自己紹介を、真っ直ぐな瞳で見つめながら聞き終えると、

「僕、橙山(トウヤマ)(サカエ)って言いますぅ。よろしくっ」

 弾んだ声で自己紹介をして、橙山が華鈴に向かって手を差し伸べた。しかし、一緑がその手を払う。

 橙山は懲りずに手を差し出すが、またも一緑が払う。差し出す、払う。差し出す、払う……と同じ動作を数回繰り返してからやっと諦め、

「握手くらいええやんか~」

 自分の膝の上に手を揃えて置き、唇を尖らせた。

「あかん。橙山くんはあかん」

「なんでオレ限定なんよ」

「橙山くんはなんかあれや。えー……」と言葉を探した一緑が「なんか、あかん」抽象的に答えた。

「ちゃんと言うてくれよー」橙山はなおも口を尖らせ拗ねてから、「よろしくっ」めげずに手を差し出し、やはり一緑に払われた。

(別にいいのにな……それともそういう冗談なのかな……)と悩む華鈴に

「先にゆうとくけど、こんなんばっかやで、住んでんの」赤菜が面白くもなさそうに言った。

「否定できん……」華鈴の隣で一緑が真顔になり、頭を抱える。

「“こんなん”ってなに?」

 首をかしげる橙山を見た赤菜は

「そんなんや、そんなん」

 質問者である橙山を顎で指した。

「失礼やで。オレはいたってマトモやぞ」

「テーブルの下から挨拶してくるヤツのどこがマトモなの」

 一緑の正論に、橙山が下唇を突き出してうなだれた。

「あとコイツ、急に叫びよるからな。気ぃちっちゃかったら一緒に住まわれへんぞ」

 赤菜に言われた橙山が輝く笑顔を見せるが、

「ちゃう! 振りやない」

 一緑の強い口調に、橙山は再び唇を尖らせた。

「っていうかいつからいたん、テーブルの下。俺らが入って来たときおらんかったやろ」

「んー? マジック」

 一緑の質問に、橙山はえへらえへらと笑ってはぐらかした。

「いまうち空き部屋ないけど、塚森の部屋に住むんでええんよな」

「うん」赤菜の問いに、華鈴の答えを待たず一緑が答える。「そのほうがなにかと安心やし」

「あぁ…まぁ……」

 赤菜は一緑と同じタイミングで橙山を見やる。

「ん?」

 橙山はその視線の意味がわからずに、またもきょとんとしてきょろきょろと三人を見る。

「悪い奴やないし、女癖悪いわけでもないんやけどな……」

 赤菜が苦笑し、

「なんか、物理的にあぶないねん」

 一緑がこめかみを掻いた。

「なんや物理的に危ないて。なんもせんよ」

 橙山は不服そうに反論するが、赤菜も一緑も取り合わない。

「今のうちに引っ越しの計画立てとこっか」一緑がスマホを取り出し、スケジュールを確認し始めた。「早いほうがええんよね」

「うん。お姉ちゃんは今月中には引っ越したいって」

「今月中ねー」

 一緑は口の中で言葉を転がしながらスマホを操作している。

「姉ちゃんいくつ?」赤菜の質問に

「24歳です」華鈴が答える。

「お姉さんもきっと美人さんやろな~」華鈴の顔を見ながらニコニコする橙山。

「連れてきてぇ?」と赤菜。

「彼氏さんいますよ?」

「それをどうにかするんがええんやん」ニヤリと笑う赤菜に

「うわ、サイテーや」顔をしかめる一緑と

退()くわ」真顔になる橙山。

「お前が退くなよ、お前もめっちゃ女好きやん」

「女好きやなくてフェミニストってゆうんです~」

 赤菜と橙山のやりとりをよそに、

「荷物どのくらいある?」「引越し予算どんくらい?」一緑がスマホを()りながら必要サイトを巡る。

 華鈴がそれを覗き込みながら一緑と話し合いを進める傍らで、赤菜と橙山は楽しそうにキャッキャと言い合いをしていた。

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