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Chapter.16

「どんだけ行ってた? 一ヶ月くらい?」紫苑が黒枝に問いかける。

「そうやな、一ヶ月ちょっとかな」

「そんであれだけの荷物でよぉ持つよね」橙山が感心したように言う。

「足らんもんは向こうでも買えるし、要らんくなったら処分するとかしてるだけやけど」

「それがすごいのよ」橙山はまだ感心している。

「行く前よりちょっと痩せた?」一緑が顔を覗き込む。

「いや、メシがさ! やっぱ日本の食文化ってすごいわ!」

「向こうで日本食食えるでしょ、高いとはいえさ」

「そら手が出ぇへんほどではないけどさ、なんかいらんオリジナリティっていうん? そーゆうんが、なーんか合わんくてさ」

「あー、わからんではないなぁ」青砥が笑って黒枝に同意した。

「アオも仕事で海外行くやろ? 思うよなぁ」

「行く~。思う~」

「でもアオは順応性高そうやな」紫苑が腕を組みながら言うと、

「高い~」青砥が満面の笑みを浮かべた。

「ええなー。俺もぅはよう帰ってきたくてたまらんくてさぁ。周りはみんな外国人やしさぁ」

「向こうさんからしたら、お前が外国人やで」

 紫苑の言葉に黒枝が目を丸くし、

「ほんまやなぁ!」感嘆を上げた。

「えー、うそやん」今更かと紫苑が顔を曇らせる。

「ちょっと、そんなカオせんとってよ。傷つくからさぁ」

「いや、どんだけ海外で仕事してきてんって話やん。今更そんな感心されてもさぁ」

「黒枝くんらしいやん」紫苑と黒枝のやりとりを見て、青砥が笑う。

「らしいけど、もうちょっとしっかりしてくれんとさー」

「紫苑はなんなん? 俺のおかんなん?」

「そんなんちゃうけど、心配になるやろー」

「お前の中の俺のイメージ、子供のころから更新されてないやろ」

「そんなことない思うけど……あ、オレら中学時代からの幼馴染やねんけどね?」ニコニコしながら聞いていた華鈴に紫苑が顔を向けた。

「マコトと三人でな?」

「一緒に上京してきたん?」一緑が質問すると

「眞人が高校入る時に親御さんと一緒に上京してん。なっ」紫苑が答えて黒枝に振る。

「そう。マコトのお父さん、不動産屋さんやねんけど、本社を東京に移すゆうて、家族で一緒に東京来て~」

「そんでオレらが高校卒業するとき上京ってなってんけど、眞人がシェアハウスやるから一緒に住まんか? ってなってん」

「ここのおうちは、赤菜さんのおうちなんですか?」

「そうそう、なんやっけ、生前なんちゃら……」

「分与な」黒枝のあやふやな記憶を、紫苑が補完する。「生前分与されたって。そんでも三人で住むには広いから、住人募集してん」

「最初全然入ってこんかったよなー」

「始めたころ、シェアハウスっていまほど浸透してなかったしなぁ」紫苑が鼻にシワを寄せた。「最初に来たんが?」

「はーい、おれでーす」青砥がにこやかに手を挙げる。

「上京したてなんやったっけ」

「うん。こっちの企業に就職決まって、寮もあるとこやったんやけど、あんまりイヤやなーって。そんで探してたらここ見つけてさ」

「オレも~。アオより先に上京して、別んとこで暮らしてたんやけど、いまいちしっくりこんくて」

「おれが入ってすぐあとくらいに来たんよな」

「そうやね。半年くらいあとかな?」

「一緑が一番最後か」紫苑が一緑に話を投げる。

「うん。俺が来たときにはもうみんなおった~。キィちゃんは俺のちょっと前?」

「そうそう。高校出るか出ないかんときに新人賞とってプロの小説家になって、上京したゆうてた」橙山が思い返しながら言う。

「じゃあみんな東京(こっち)出てきたん、おんなし年齢くらいか」紫苑がなにかを思い浮かべるように言った。「オレら三人が同い年やろ?」

「オレ三人の二個下」橙山が指で数字を示す。

「おれが橙山くんのいっこ下で、キイロと同い年(おない)やな」

「イノリが一番下か」

「うん。アオと橙山くんの一個下」

「え? オレらといくつ離れてるん」指折り数える黒枝に

「よっつかな?」一緑が首をかしげながら答えた。

「まぁまぁ離れてるんやなぁ」あんま意識したことなかったわ~と黒枝が感心したように言う。

「サクラちゃんはずっと東京(こっち)?」紫苑が問うと

「いえ、私も大学入る時に上京してきました」華鈴が笑顔で答えた。

「あ、そーなんや。東京弁やからずっと東京なんか思ってた」

「埼玉なので近いは近いんですけど、親元を離れたくて……」

「そーなん?」青砥が首をかしげる。

「ちょっと過保護というか……。姉が羨ましかったのもありますし……出版社に就職したいという希望もあったので、東京の大学のがいいかな、と」

「あー、確かに便利っちゃ便利よねー」橙山がうなずく。

「ゆうて一緑も相当過保護やろ。たまには冷たくしたってもええと思うよ?」

「ちょっとシィちゃん、余計なこと言わんとってよ」一緑が紫苑のほうへ向かって手ではたく仕草をして、口を尖らせた。

「なんでや。はたから見てても相当過保護やん。サクラちゃんおらんときも……」

 ピンポーン♪

 紫苑の言葉を遮って来客を報せるチャイムが鳴る。

「あっ、来たっ」一緑が立ち上がり、「シィちゃん、余計なこと言わんとってよ?!」もう一度釘を刺して、逃げるように玄関へ移動した。

 その背中を見送って「サクラちゃんおらんときも、オレらに“ちょっかい出すな”ゆうてうるさいねん」紫苑が華鈴に教える。

「そうなんですね……」初耳だった華鈴は少々驚いている。

「愛されてんのはええことやけど、いのりの場合は過保護で心配性やからなー」青砥がニコニコ言いながら「手伝い必要か聞いてくる~」ソファから立って玄関へ向かった。

「オレがゆうたってナイショにしといてな?」冗談めかして唇に指を立てる紫苑に

「はい」クスリと笑って華鈴がうなずく。

「お寿司きたよ~」一緑が大きな寿司桶を持ってリビングへ戻ってきた。

「やったー! 食べよ食べよ~」橙山が万歳をして、足をバタバタさせ満面の笑みを見せた。

「お茶淹れましょうか」華鈴の提案に

「お茶もええけどビールか日本酒もええなぁ」黒枝がふと思いついたように言った。

「あー、ええねぇ。お茶とお酒と両方用意しよっか」一緑と一緒に戻ってきた青砥がにこやかに同意して「橙山くん、手伝って~」指名してキッチンへ行く。

「ええけどなんでオレなん?」

「あなた言わないとこういうときなにもしないから」

「ご名答~」青砥を指さし、橙山が立ち上がる。

「赤菜さん呼んでくるわ」紫苑が立って、軽快に階段をあがっていく。

 一緑がふたつの寿司桶をガラステーブルに置こうとして「狭いか」つぶやいた。

「半々にわかれるか。中身一緒やろ?」黒枝が寿司桶の中を覗き込み、提案する。

「うん、一緒。じゃあこっちとあっちに一個ずつにしよっか」重なる桶をひとつずつ、ガラステーブルとダイニングテーブルに置いた。「みんな好きなほう座ってね~」

 キッチンで作業をする橙山、青砥、華鈴に一緑が声をかけると、「「「はーい」」」三人が返事した。

「お、めっちゃ豪華」リビングに戻ってきた紫苑が、寿司桶を覗き込んで言う。

「なんからなんまで悪いのぉ」腹を掻きながら、赤菜が紫苑に続いてリビングへやってきた。

「お茶かビールか日本酒、どれがいい~?」青砥の問いに、それぞれが答えて準備を終える。

 全員が着席したのを確認して「黒枝くん、音頭とってよ」橙山が提案した。

「うん? そいじゃあ、みなさん、お手を拝借」黒枝の宣言に

「え? 一本締めでもやんの?」一緑がツッコんだ。

「ちゃうちゃう! なんていうんこういうとき!」

 笑いながら黒枝が顔を赤く染めた。つられて皆も笑う。

「グラス! グラス! サクラちゃんは湯呑! お持ちください!」皆と一緒に笑いながら「はい! かんぱーい!」少々無理やりな流れで唱和を促した。

 皆も楽しそうに笑いながら「かんぱーい!」言って、グラスを掲げた。


 リビングに談笑の声が響く。

 黒枝との久しぶりの再会を喜び、顔には笑顔が浮かんでいる。

 それぞれの近況報告や黒枝が海外でしてきた仕事の話など、話題に事欠くこともなく、終始賑やかな夕餉(ゆうげ)の時間を過ごした。

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