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Chapter.12

「暗くはせんでいいか」橙山がリビングを見渡す。

「うん。誰か降りてきたときビックリさせちゃうんじゃない?」青砥はテレビのリモコンを操作している。

 その二人のやりとりを聞きながら、「こんばんは」華鈴はリビングへ足を踏み入れた。

「あ、カリンちゃん」橙山が嬉しそうに声をかける。

「どしたん? こんな時間に珍しいね」ソファに座ったまま、橙山が笑顔で続けた。「テレビ視るなら空けるよ?」

「ありがとうございます、大丈夫です。一緑くん、仕事の納期が迫ってるみたいで。部屋にいると気が散るかなと思って来ただけなので……」橙山の申し出を丁重に断る華鈴に、

「えぇカノジョさんやな~」橙山が目を細めた。

「そしたら、おれらこれから録画した映画視るんやけど、一緒に見ぃひん?」

 青砥の誘いに華鈴の顔にパッと笑顔が広がる。「わ、ぜひ」

「うん、見よ見よ~」

 ウキウキとした声で、橙山が喜ぶ。

 ソファへ座る三人に

「風呂入ってくるわ~」自室から降りて来た紫苑が声をかけた。

「「「はーい」」」

 三人の返答を背に、紫苑は浴室へ向かう。その数分後、赤菜が同じようにして空いている浴室へ向かった。

 地上波で放送された映画を再生すると、序盤にコマーシャルが入っていた。

「あ、そっか。早送りせな」ガラステーブルに置いたリモコンに、橙山が手を伸ばすと、

「なんか飲みたいかも」青砥がつぶやいた。

「あ、奇遇~」橙山が青砥に笑顔を向け、リモコンを取ろうとしていた手の親指を立てる。

「始まる前になんか準備するか」

「私も飲みたいのでなにか持ってきます。なにがいいですか?」立ち上がる華鈴に

「粕汁」と橙山。

「あるかぁ」青砥の優しいツッコミに

「作る?」橙山が乗っかる。

「いらんいらん、時間かかる。行こ行こ」

 橙山をいなしてリモコンの一時停止ボタンを押し、青砥も立ち上がって、華鈴と連れ立ちキッチンへ移動した。

「なににしますか?」華鈴が橙山に問いかける。

「ん~、ビールがいいな~」

「はーい」

「ビールか~。つまみなんかあったかな~」青砥は言いながら冷蔵庫を開けた。

「青砥さんはなににします?」

「おれ~? どうしよっかな~」冷蔵庫からつまみを出しつつ、食料保存棚をゴソゴソと漁る。

 華鈴は自分用にカップを取り出し、電子レンジを使ってミルクティーを作る。

「おっ」青砥が乾き物とナッツ類を見つけ、「ハイボールにしよっかな」酒類を準備し始めた。

 レンジの温めが終わるまで手が空いた華鈴は、ビールとハイボール用のグラスを取り出し、トレイに乗せてカウンターへ置いた。

「ありがと~」

 そのトレイに酒類を乗せて、青砥が一旦リビングへ運ぶ。

 華鈴は調理スペースに置かれていた乾き物とナッツ類を皿に盛り付けて、温めが完了したミルクティーと一緒にリビングへ運んだ。

「あら、キレイに盛り付けてくれたん? 嬉しいわ~」青砥は目尻を下げ、

「ありがと~」橙山がつまみの皿を受け取ってガラステーブルに置く。

「お前なんもせんかったな」青砥が自分のハイボールを作りつつ、笑いながら橙山に言った。

「二人にやったらお任せしていいかなと思って」てへっ、と笑い「女の子がおるってええなぁ」盛り付けられたつまみを見ながら、頬を赤らめた。

「ほんまやなぁ」ハイボールを作り終えた青砥が同意する。

 橙山がビールを開栓したところで

「あっつ~」濡れた髪をタオルで拭きながら紫苑がバスルームから戻ってきた。「あ、ビールや。ええな」

「しぃちゃんも飲む?」声のほうを振り向きながら言った橙山が「ちょっと。暑いんはわかるけど、ちゃんと服着なさいよ」おかん口調で紫苑をたしなめた。

 紫苑はボクサーパンツにTシャツ、首からバスタオルをかけただけの格好だ。

「カリンちゃんは振り向いたあかんよ」視線を防ぐように橙山が手を出す。

「? はい」華鈴は前を向いたまま答えた。

「ん~?」と振り返った青砥も苦笑する。「あぁ紫苑くん、それはあかんわ」

「そうよ。女の子おるんやからさ~」

「あっ、そうやな、ごめん。いつものクセで」

 紫苑は肩にかけていたバスタオルを腰に巻いた。

「これでええ?」

「まぁ、さっきよりマシかな」橙山が答えて、華鈴の視線を防ぐための手を引っ込める。「カリンちゃんだいじょぶそう?」

 華鈴が振り返り、紫苑の姿を確認する。「はい、大丈夫です。すみません、お手数おかけします」

「ええねんええねん。こっちも気遣い足らんかったわ」ごめんなぁ。紫苑は鼻にシワを寄せながら言って、キッチンへ移動した。グラスを一つ取りリビングへ戻ると「ついでぇ~」橙山に渡す。どうやらビールを欲しているようだ。

 橙山は新しく缶を開けて、泡と液体のバランスを見て、350ml一本分をそそぎ、ソファに座った紫苑に渡す。

 全員に飲み物が行き渡ったことを確認した橙山が、自分の分のグラスを掲げて「cheers!」と発声した。

 それに倣って青砥と紫苑が“はいはい”という感じで唱和する。

「はい、カリンちゃんも。cheers♪」

「ちあーず」

 慣れずに照れる華鈴の持つカップへ橙山がグラスを軽く当て、各々がグラスとカップに口を付けた。

 橙山、青砥、紫苑はグラスの半分ほどの酒を飲み下すと「くぁー!」「んー!」「くぅ~!」思い思いに鳴く。

「あー、うま」紫苑がつぶやいて「なんか見てたん?」一時停止状態の画面を見て問うた。

「こないだテレビでやってた映画」青砥がつまみを口に入れ答える。

「まだ最初?」

「始まる前のコマーシャルで止まってる」

「ほんなら一緒に見よかな」

「あー見よ見よ~」橙山は仲間が増えて嬉しそうだ。

「じゃあお酒もうちょっと持ってきとくか」青砥が床から立ち上がったと同時に

「あっついわ~、さっぱりしたわ~」赤菜の声が聞こえた。

 青砥が目線を移し「なんちゅうカッコしてんねん」眉根を寄せた。

「赤菜くん風邪ひくよ。あー! カリンちゃんは見たあかん!」橙山が、振り向きそうになった華鈴の目元を手で覆った。

 赤菜の姿は、黒いブーメランパンツ一枚。文字通りパンツ一丁の姿でリビングへ戻ってきた。細身の身体からかすかに湯気が立っている。「ワザとやで?」

「でしょうね!」赤菜の言い分に青砥が間髪を入れずツッコむ。

 ニヤニヤしつつ冷蔵庫に向かう赤菜に

「体弱いねんからちゃんと服着ぃさ~。湯冷めすんで」青砥が言いながら、一緒に冷蔵庫に向かう。

「いやや。トーヤマがあの手どかすまでこのままでいる」華鈴の視線を妨げる手を遠目に見て駄々をこねる。

 テレビ画面の黒い部分に赤菜の姿がうっすら映って、華鈴は慌てて視線をそらした。橙山が手をかざす理由も納得がいく。

「なんなのその意地~」青砥が苦笑しながら赤菜の隣に立った。開けた冷蔵庫の冷気で、赤菜の肌は冷めていく。

「もー、しゃーないなー」

 紫苑はブツブツ言いながら洗面所へ向かう。しばらくして、首からフェイスタオルをかけスウェットのズボンを履いて戻って来た。手には赤菜用のTシャツとジャージのズボンを持っている。

「ほれ」に持った衣類を赤菜に差し出すが

「えー?」赤菜は嫌そうに身体をかしげて受け取らない。次の瞬間「ぅえっくしょい!」身体をくの字にして、大きなくしゃみをした。

「ほらー」すぐそばにいた青砥が、赤菜の肩をペチンとはたく。「身体冷たぁなってるって~」言いながら、ビールを数本抱えてソファへ戻った。

「いや、大丈夫! まだ大丈夫!」

 強がる赤菜に今度は橙山が近付き、紫苑の手からジャージを取ると「はい」子供に履かせるように腰の部分を広げて差し出した。

「自分で履けるわ!」赤菜は橙山の手からジャージを奪い取り、足を通す。

「ほれ、こっちも」

 手に残ったTシャツを、同じく子供に着させるように裾をたくし上げて紫苑が差し出すと、赤菜は紫苑をにらみつけてからTシャツに首と腕を通した。

「なんで、オレからのは、着んねん!」紫苑は顔をくしゃくしゃにして大笑いしだす。目尻には涙も浮かんでいる。

「お前が着ろってしたんやろ!」赤菜は子犬のようにキャンキャン吠えた。小柄な身体も相まって、その姿はチワワのようだ。

「なんでオレのは着てくれへんのん」橙山が口をとがらせる。

「お前のはなんか、本気っぽくてきしょい」

「ひどい!」

 わぁわぁ言い合う男たちの声を聞きながら「ごめんな、ほんま……」青砥が申し訳なさそうに華鈴に謝罪した。

「大丈夫です。こちらが気を付ければいいだけなので……」

「大人で助かるわ~」青砥が安心したように小さく息を吐いた。「ほらー、そろそろ再生するよー!」

 青砥がソファに座りながら、笑い転げる紫苑とふてくされる橙山、鼻をすする赤菜に声をかける。

「もー、差別やわ~」元の場所に戻りながら橙山が口を尖らせ続ける。

 まだ笑いながら笑い泣きする紫苑が「見る?」赤菜に問うと、

「呑みたいから呼ばれるわ」グラスを持って、紫苑と一緒にソファへ移動した。「電気消さん? 見にくい」

「んじゃ、消すかぁ」

 全員が着席すると同時に青砥が部屋の照明を暗くして、

「再生するよ~」宣言した橙山がハードディスクデッキのリモコンを操作する。


 大きな画面に、映画の冒頭が流れ始めた――。


 ――二時間弱の映画を見終わる頃、青砥と橙山は伸びをして身体をほぐし、紫苑と華鈴は瞳を潤ませ、赤菜はソファに身体を預け寝息を立てていた。

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