最終決戦
とても綺麗な場所だった。あまりにも綺麗でここが終りなんて信じたくなかった。でも、ここが僕の終りでみんなの終りだった。みんな泣き笑いのような顔をしていてそれでも信じて前に進んだ。
光が見えた。隣にいた、親友の戦士の胴体が消えた。口調は悪かったけどいつも危ない時は助けてくれて、僕が膝をつきそうになったときは発破をかけてくれた。その顔は唖然としていたけどそれでも最期、目が合った時は泣きそうになりながら不敵な笑みを浮かべた。だから、振り返らず走り続けられた。
まだまだ距離がある。たどり着くまで何回攻撃を受けるだろう。避けられるイメージも受けられるイメージも湧かなかった。だから次は魔法使いの番だった。彼女が自慢していた最上級の炎魔法を体がボロボロになりながら詠唱破棄で唱えた。最上級魔法を詠唱破棄で唱えるなんて無茶も通り越して自殺もいい所だった。たとえ死ななかったとしても、二度と魔法を使うことはできないだろう。敵は、自らの手を光らせた。それだけで魔法はかき消された。彼女が自分の魔法に誇りを持っていた事を知っている。新しい魔法を開発したとき僕のもとにやってきて話してくれたときの楽しそうな笑顔を思い出しながら僕は駆けた。
敵に一手使わせたがまだ距離はある。だから、聖女が何をするかわかった。彼女は自分を依り代にすることで神を呼ぶことが出来た。その代わり依り代の人格は消える。無理矢理神を呼ぼうとする教会から彼女を連れ出すのが僕の勇者としての始まりだった。でもその時は勇者としてではなく一人の男として決して死なせないと誓ったことを覚えている。神の権能である雷霆が敵に向かった。敵の光が放たれて一瞬で押し戻されたが神の権能も力を増し拮抗状態を作った。これは聖女自身の力だ、自分のすべてを力に変えて時間を稼いでくれている。そして、何かが落ちた音がした後あっけなく雷霆はかき消された。
今は何も考えないで走り続けた。光が見えた。左腕の付け根ごと肩が消えたがどうでもよかった。ついに敵のもとにたどり着いた。精霊王の加護、聖剣の切れ味、勇者としての剣技、生命力全てを使って敵を斬った。
敵にかすり傷を負わせた。敵は光を放ち腹に大穴が空いた。わかっていた。わかっていたから準備をしてきた。
空いた腹から黒い霧が出てきた。その霧は敵を包みこんだ。その霧から人間では理解できない呪文が聞こえるとより黒が濃くなった。僕たちの最終目標だった魔王だ。奴は人間に虐殺と凌辱の限りを尽くし絶望の底へ叩き落した。そんな僕らの大敵だが光が漏れ出しあっけなく消えた。敵は最初からずっと微笑みを浮かべている。でも、魔王の役割は釘であり、印だ。かすり傷のところに紋章が書かれている。敵は膝を落とした。紋章から黒い染みが広がっている。外では全人口9割ほどの魔族と人間が儀式をしている。生贄の儀式だ。自らの命を捧げる事で印がつけられたものに死を与える呪法だ。敵は膝をついただけでまだ死んでいない。どうすればいいのか考えたところ最悪の考えが浮かんでしまった。呪いは神聖であればあるほどそれが堕ちるとき力を生む。僕の右手には指輪があった。綺麗な星空の下で渡したときのあの満点の笑顔を思い出し、そして、捧げた。
敵が苦しみながら消えていくのを見ながら倒れた。とても綺麗な所だった。でも、ぼやけてあまり見えなかった。意識が落ちていく、最期に泣き顔は嫌だったから頑張って笑った。でも、頬は濡れていた。