01.プロローグ
「今年の税も何とかなりそうだね。」
小麦を収穫しながらリアンは父親につぶやいた。日差しは強く、秋も深まったというのにまだまだ暑い。汗をぬぐいながら、鎌を振るう娘を見て、父親は誇らしげに笑った。
「まったくだ!雨が少なくてどうなるかと思ったが、さすがリアンだ!」
「何がさすがなのよ。調子がいいんだから。」
お調子者の父親に苦笑いを返す。それでも鎌を動かす手は止めない。
貧乏暇なしである。
国の東の端、国境にほど近い開拓村。森を切り開いたばかりの土地は痩せ、ろくな収穫は望めない。村人はギリギリの中で食いつないでいる。
(色だけは立派なんだけど)
リアンは心の中でそっとつぶやいた。
立派に見える小麦畑だが、穂の中に身は少なく、見た目ほどの収穫は望めそうもない。
それでも税の徴収は容赦なくやってくる。農民は小麦。商人と職人は金。払えなければ身ぐるみはがされて耕す土地も奪われる。そうなれば、生きてはいけない。死刑宣告だ。
(大人1人につき小麦100キロ。うちは200キロか。)
「・・・今年は少し厳しいね。私が成人しちゃったから。」
リアンは今年15歳。この国では15歳で成人になり、納税量も小麦100キロになった。昨年までは40キロだったから、まだ余裕があったが今年は冬を越えられるだけの食料の備蓄は望めない。冬の厳しさを思ってリアンの顔が曇った。
「何言ってんだ、リアン。成人はめでたい事じゃねぇか。食い物なんて俺が山に入って見つけてくるさ!心配すんな!!」
ガハハと父親が豪快に笑った。
幸い、村の近くの森は豊かで鹿も猪もいる。父親の猟師としての腕は確かだ。父親に頼るしかない不甲斐なさにリアンの目に涙が溜まる。
「父さん、ごめんね。もう少し何か取り柄があったらよかったんだけど。」
「リアンは心配性だなあ。どんとかまえとけ。大丈夫だ。なんとかしてやる。」
もう一度ガハハと笑う声が畑に響く。
手に職があれば、例えばきれいな反物を織れたり、細工物を作れるなら現金収入を得ることもできる。体力があるなら軍に入って給金をもらえる。
でもリアンにはどちらもなく、少しばかり畑仕事が得意で、他の畑よりも少しばかり収穫量を多くすることができるだけだ。もっと何かできればと、領主が中央にかっこつけるためだけに建てた図書館に入り浸って本を漁るが、これといって役立ちそうなものはなかった。
リアンは父親に気付かれないようにそっとため息をついた。
開拓農民のリアン。15歳。父のロンと二人暮らし。母は物心ついた時にはいなかった。
父からは死んだと聞かされている。
軍務経験がある父親のおかげで、開拓農民には珍しく読み書きと簡単な計算ができるのが特技だ。
あと、少しだけ農作業が得意。
どこにでもいる、普通の悩めるお年頃の開拓農民だ。