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噛みついたりはしない

「龍生と黒森さん・・・付き合ってるの?」


「うん」


明菜が頷く。


敵を騙すには味方から。

妹以外にも、恋人宣言をしておく・・・まあ、所詮演技だから、バレバレなんだけどな。


「恋人同士に、見えない?」


明菜が尋ねる。

まあ、初日から騙せるとは思っていないが。


「恋人同士にしか見えません・・・というか、幼馴染とかでしょうか・・・?」


結羅ががっくり膝をついて言う。

恋人同士に見えるの?!


「いえ、昨日初めて会って、そこから、かな」


明菜も、困った様な苦笑いを浮かべ、応える。


そっかあ、うまく恋人同士に見えるらしい。

特に何かしている訳では無いのだけど。


--


帰り道。


「悪いな、協力して貰って」


「ん、大丈夫よ。龍生には色々お世話になってるしね」


明菜の手を取って、家路を行く。

まあ、俺のマンションまで道は一緒なのだけど。


「多分、いきなり噛みついたりはしないと思う」


ジョークを言ってみる。


「噛みつきって・・・龍生、有り得ないでしょ・・・くっ」


意外と受けて、明菜が笑い過ぎ、俺に体重を乗せてくる。


さて。


恐らく、彼女を実際に見せたら、症状が改善する・・・筈。


家に着く。


扉を開けると、やはり雪華が三つ指をついて待っていた。


「お帰りなさいませ、お兄様」


雪華が笑みを浮かべ、言う。


「ただいま、雪華。今日は、彼女を連れてきたんだ」


くすり


雪華が苦笑する。


「またそんな事を」


何故信じないのか。

まあ、嘘なんだけど。


「雪華、紹介するよ。恋人の明菜だ」


「初めまして、黒森明菜よ。雪華ちゃん、宜しくね」


雪華は・・・驚き、戸惑い、停止。

良い反応だ。

荒療治だが、これで分かってくれ・・・


「魔女」


ぽつり


雪華が漏らす。


「え?」


明菜が戸惑いの声を上げ・・・?!


「魔女めええええええ!」


雪華が明菜に襲いかかる。

存在する筈の無い、物々しい矛が幻視される。

慌てて、雪華と明菜の間に割って入り、雪華を止める。


「お兄様、そこを退いて下さい!そいつ殺せません!」


うわ、リアルでこの台詞を聞くとは思わなかった。


「ちょ、雪華ちゃん?!」


明菜が戸惑いの声を上げる。


「魔女めええ!」


痛い、幻の矛が痛い気がする!


「退いて下さい!」


?!


俺の身体が浮き上がり、天井にぶつかる。

そして、雪華が矛を振りかぶり・・・


「や・・・やめ!」


明菜が手を前に出す。

存在しない筈の板が割れる様な音、矛が明菜を貫き・・・


こほ・・・


明菜の口から血が出て・・・


・・・

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