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帰ろう

一瞬で飛び退いた火林が、涙目で息を見出している。

舌の根も乾かない内に、怖かったらしい。


「はっ!」


雪華の渾身の一撃。

鉾で貫かれた草履蟲が大口を開け、


ザンッ


俺が横にまわり、脚を切り飛ばす・・・が、バランスは崩れず、


ヴァリ


白蛇の神鳴り(かみなり)

神力を纏った雷が、草履蟲を撃ち抜く。


キイイイイイイイイイ


草履蟲の超音波。

まずい・・・耳が・・・


ゴウッ


立ち直った火林が、草履蟲を一刀両断にした。

やっぱり、火林の攻撃力は群を抜いている。


ビチ・・・ビチ・・・ジュワ・・・


少し動いていたが、間もなく草履蟲の躰が闇に溶けていく。


「・・・このレベルの魔物がいるのか」


俺は溜息をついた。


--


「・・・火林・・・さん?」


俺は思わず、呻いた。


「火林・・・?」


雪華が、半眼で火林に問いかける。


俺達の視線の先・・・


口を開けるは・・・階段。


「ご・・・ごめん・・・!」


弐界相(にかいそう)

魔窟が成長した(とき)、生じる。

初界相(しょかいそう)に比べ、魔物の強さや、罠の厄介さが、跳ね上がる。

また、黄泉比良坂(よもつひらさか)程では無いが、瘴気(しょうき)が漂う為、防護結界が必要になる。

霊力の補充も難しい。


俺は普段の仕事は、術具の作製や、防衛。

雪華は、祭事や魔物の調伏。


探索は火林が陣頭をとって行っている。

魔窟は初期に発見する事が重要で、弐界相(にかいそう)ができるくらい放置は・・・かなりの不祥事だ。


「ご・・・ごめん・・・」


火林が頭を抱える。


「まあ、待ちなさい」


白蛇が割り込む。


「馬剣の魔女殿を責めるのは酷かも知れぬ・・・この魔窟、特性持ちではないですか?」


「特性・・・!」


呻く。

まさか・・・


「特性・・・隠形?」


雪華が確認する様に呟く。

こくり、白蛇が頷く。


極稀に、特性を持った魔窟が出現する。

例えば、力が強い、であれば、魔窟の成長が早く、火力が高い魔物も多い。


隠形は、最悪の特性で、まず魔窟が見つけ辛い。

出てくる魔物も、隠形持ちが多い。


「昨日の独眼餓鬼・・・」


「ああ、多分そうだ」


雪華の呟きに、答える。

恐らく、この魔窟の弐界相(にかいそう)から出てきて、そのまま外に出たのだろう。

あの強さも頷ける。


となると・・・


「やはり探索は、火林ではなく俺が」


「術具製作は無理いいいいいい」


火林が叫ぶ。


うちの村の上位陣、何故か脳筋が多くて、術具製作はみんな苦手なんだよな。

俺はまだましな方なので、俺が担当する事になった。

で、術具製作をする者が、伝統的に防衛の責任者になるので(村に残るからね)、俺が術具製作と防衛をやっているのだ。


「長老に進言しよう。探索は1日置きとし、俺が術具製作と探索を交互にみよう。で、火林達は防衛力を強化してくれ。最近魔物が増えているからな・・・村の防衛線を突破され、外の世界に魔物が行けば・・・洒落にならん」


ただの雑魚、悪鬼が、外の世界に行けば災厄となっている。

外の世界で戦える者は稀だし、そいつらも、うちの村の子供に負けたりする。

そのへんを這っている草履蟲ですら、世界を滅ぼせるかもしれない。

草履蟲に滅ぼされる世界ってやだなあ。


「・・・それなら・・・」


火林が頷く。


「では、私から提案しますね」


雪華が微笑む。


「うん、宜しく頼むよ」


俺が言っても聞かないからなあ。


さて。


「行くか」


穴の中に、光を投げ込み・・・


うぞ・・・うぞ・・・


「帰ろうか」


「「駄目」」


俺の提案を、雪華と火林が却下した。

弐界相(にかいそう)は・・・草履蟲が群れをなしていた。

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