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まどろみ

か細い糸が流れる。

それは、あったかも知れないし、無かったかも知れない・・・


いや。


有り得てはならない。


そんな、物語。


まどろみ。

それは、人間に許された、最上の贅沢。

無防備、それは即ち、罪なのだから。

仲間のお陰で許される・・・贅沢。


()龍生(りゅうい)、起きて下さい!」


呼ぶ声で目が覚める。

まどろみから起きるのは・・・義務だ。


「ん──」


俺を起こしに来たのは・・・最愛の人・・・


雪華(せっか)、おはよう」


「おはよう、じゃありません。今日は、森に遊びに行く約束でしょう!」


むくれた様な顔をしつつ・・・一方、このやり取りを楽しんでいるのだろう。

嬉しそうな色も隠せていない。


「悪い・・・つい・・・雪華に起こして貰いたくて、二度寝したんだ」


「・・・調子良い事を」


まだむくれたままで、俺を睨んだ後・・・


ぷ・・・くす・・・


どちらともなく笑い、吹き出す。


「おはようございます、龍生」


「うん、おはよう、雪華」


雪華の頭を撫でる。

幸せな一時。


うん。


まどろみが最上の贅沢、というのは撤回しよう。

愛しい人との逢瀬・・・それこそが最上の贅沢だと思う。


--


()の巫女様、此度(こたび)の狩猟は、何処に参りましょうか?」


雪華と共に歩きながら、行き先の確認をする。

遊びに行く──流石に、文字通りでは無い。

木の実や山菜の有無を確認、または採取。

危険な魔物や獣の殺害、食料となる獲物の獲得・・・

そのついでの物見遊山だ。


隔離世(かくりよ)程近(ほどちか)き、境界の地。

名も無き防人(さきもり)の村・・・此処では、遊興など許されない。


(つき)魔士(まし)よ。そなたが決めよ」


「承ります」


雪華と俺は婚姻が決まっており、また、お互いに想い合っている。

とはいえ、家の格が圧倒的に異なるのだ。

その為、村の中では、お互いに口調に気をつける必要が有る。

けじめ、だ。


雪華は、村の最上位の家、陽の神たる天照大神(あまてらすおおみかみ)を祀る神社の家系。

俺は・・・村では3位の格となる、月読尊(つくよみのみこと)(ゆかり)の家系。

本来はあり得ない縁談だ。


では何故こうなったかと言うと・・・


雪華の一族、白谷家、序列2位の馬剣(ばけん)家・・・共に、女しか生まれなかったのだ。

それ故、序列3位である俺の一族、黒森家に白羽の矢が立った。

黒森家は俺1人しか子供が居ない為、黒森家でも後継者に困っていたのだ。


さて・・・確か、火林(かりん)から・・・


「霧谷の方に足を向けてみましょう」


「構わぬ」


巨大な猿の魔物を目撃したらしい。

火林は力が強いが、早い動きが苦手だ。

魔物に逃げられた場合は、俺に調査指示を出してくる。


さて──


「疾風、付与」


足に疾風の色を纏わせる。

縮地の法。

基本的な技だ。


「御神よ」


雪華の祈り。

雪華の足に、神秘が宿る。

縮地の法の超超上位互換だ。

雪華程の家の格であれば、直接氏神(うじがみ)に願えるが・・・俺の様な糞雑魚の家の格であれば、よほどの事がなければ氏神に願う事などあり得ない。


「行きましょう」


告げ、走る。

勿論、雪華の方が圧倒的に早いのだが、そこは俺にあわせてくれている。

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