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帰路  作者: キタムラカメラ
5/6

扉と男

「その扉は開きますか?」

私は男に尋ねた。

「さぁ知りません。あなたが開けられるかどうかじゃないですか。」

男はそう答えた。

「開くかどうかは、私次第ということですか。」

「いいえ。もう決まっていることです。あなたが決められることではない。神が世界を創った時から、この扉が開くか、開かないかは決まっています。それは変えられません。」

「そうですか。」

私は男と二人、扉のある和室に座っていた。机の向かい側に胡坐をかいている男は表情一つ変えずに、こちらを向いている。私が通されたこの部屋には机と男、さらに男の背後の大きな両開きの扉以外、何もなかった。

「どうしますか?席を外しましょうか?」

「お願いします。」

私がそう答えると、男は、私が入ってきた、扉の反対側の襖から出て行った。私は一人、部屋に残された。

昨晩、私は妻を殺した。浮気をした彼女を私が問い詰めると、彼女は開き直り、私を非難した。私はカッとなって、台所から包丁を持ち出して、彼女を刺した。刺されて倒れた彼女も最初のうちは、ウウとかアアとか喘いでいたが、そのうち声がしなくなって動かなくなった。その時は特に感情もなく、死んだなぁとしか考えていなかった。私はそのまま、リビングのソファーに座り、寝てしまった。

翌朝になっても妻は倒れたまま動かなかった。まぁ死んでいるから。私は会社へ行く気にもなれず、もう一度ソファーで眠りについた。もう一度目覚めると昼過ぎであった。相変わらず、妻は微動だにしなかった。家にいる気にもなれず、着替えて外へ出た。これと言って目的はなかったが電車に乗り、あまり知らない隣町の駅で降りた。

ぶらぶらと目的もなく見知らぬ街を歩いていると、見知らぬ女に声をかけられた。女は白いシャツに黒のズボンを履いていた。

「あなた、●●●●さんですか?」

と本名で尋ねられたので、そうだ、と答えた。

「あなた、昨日の夜、奥さんを殺しましたね。」

「ええ。」

と私は答えた。

一人、扉と対峙している私はその扉を恐れていた。扉は巨大で、両開きのそれぞれの木の板に取り付けられた横に長い楕円のドアノブが、まるで猛獣の目のようにこちらを向いている。私は立ち上がり、その扉へと歩き始めた。あまり大きな部屋ではないので、4、5歩で扉の前にたどり着いた。扉は巨大で、私の背丈を超える高さであった。2mはあろうかという大きさである。私は決心し、ドアノブを握った。

私は女に連れられ、古い日本家屋へ入っていった。

「ここは?」

「名前がないので、お答えできません。ここはここです。住所を答えることはできますが、あなたが必要としているのはそういう事ではないでしょう。」

と答えた。

先ほど、私が妻を殺したことを認めると、女は

「では、ついてきてください。」

と、私をこの場所に案内した。私は怪訝に思ったが、断る理由もなく、女についていった。彼女は、なぜ私が妻を殺したことを知っているのか。雰囲気や服装から警察ではないだろう。では、どうやって知り得たのだろうか。

しかし、そんなことはどうでもよかった。私は何も考えていなかったのだ。

建物の中は、全く生活感のない家であった。古い。とだけ思った。

「こちらへ。」

と、私は部屋に通された。そこには男が机の向かい側に胡坐をかいていた。そして、その奥にはあの大きな扉が。私は、男の向かいに座った。

「●●●●さんですか?」

「はい。」

「奥さんを殺されましたよね。」

「左様です。」

男は女と同じ質問をした。

「あなたには後ろの扉を開けてもらいます。安心してください、あなただけではありません。あなたの様に人を殺してしまった人には、この扉を開けてもらっています。厭なら帰ってもらって構いません。」

「なぜですか」

私は問うた。特に何も考えていなかったが、理由だけが知りたかった。

「知り得ません。私も知らない。私は、この扉を開けることが出来る人を探さなくてはならないんです。」

「人を殺した人しか開けられないんですか。」

「ええ。きっと。まだ、だれも開けられていませんが。」

「そうですか。」

私は一瞬考えた。

「その扉は開きますか?」

私は男に尋ねた。

扉は簡単に開いた。あの大きさからは考えられないほど軽かった。扉の中は暗かった。私はその暗闇をひたすら眺めていた。暫く眺めていると、暗闇の奥から、何かが近づく音が聞こえた。ハイヒールを履いた足音か。だんだん、近づいてくるものが見えてきた。

妻だった。

妻は表情一つ変えず、

「殺したな」

と叫んだ。そうだよ。殺したよ。


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