第7話 二人で夕ご飯
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「ケンちゃん…。
お姉ちゃん、そろそろ、お夕飯の支度するから…」
「う…、うん……」
しばらく、玄関先で抱き合っていた二人であったが。
思い出したように優がそう言うと、名残惜しそうになりながらも、素直に健二が離れる。
「あ! おねえちゃん、これボクが持つよ」
「ケンちゃん、ありがとう〜」
「(チュッ♡)」
「えへへへっ〜」
優が、床に置いた荷物を持とうとした所。
健二がそれを代わりに両手に持って、台所に向かおうとした。
そんな、姉思いなところを見せる健二に。
優が感謝の言葉を述べながら、弟のオデコにキスをすると。
健二が、嬉しいような照れたような笑みを浮かべた。
優は、そんな、まるで元々からの女の子みたいな行為を、健二に対して行っているが。
元からの性格と弟に対する思いに加え、女性化してから芽生えた、溢れる母性により。
生まれながらの女の子のような行動を、自然と行っていたのである。
・・・
「あっ、ケンちゃん。
玉ねぎ、剥くの手伝って〜」
「は〜い〜、おねえちゃん」
二人は台所で、料理を行っている。
優は一度、部屋に行き。
部屋着の青い半袖の、シンプルな膝丈ワンピースに着替え。
そして、その上から花がらのエプロンを掛けていた。
ちなみに優は、女性化するはるか以前から料理を行っていて。
いや、料理だけでなく。
家事全般を、仕事が忙しくてナカナカ家に帰れない父親に代わり、行っていた。
当然、弟の世話も全部見ており。
その様子から、男の時でさえ、近所のオバサン達から。
“良い嫁になれるわよ”と、半ば、からかわれていた位だった。
一方の健二も、そんな優の手伝いを良く行っていたのである。
そうやって二人で玉ねぎの皮を剥いてから、優が玉ねぎを切り始めた時。
「ねえ〜、おねえちゃん〜」
「ん? なあに」
「おねえちゃん、玉ねぎ切って目にシミないの?」
「大丈夫だよ、ケンちゃんのためなら、我慢できるから」
「えっ! ごめんね、おねえちゃん」
「なんて、ウソ♡
本当は、目にシミないの裏ワザがあるのよ」
「もお〜、おねえちゃんたら〜」
「ふふふっ、ごめん、ごめん」
からかったつもりが少し心配させた事に、”悪いことしたかな”と反省した優は。
怒り気味の弟を、濡れた手を避けながら優しく抱き締めた。
・・・
「はいっ、カレーライスが出来たよ〜」
「うわっ!」
今日の夕飯は、カレーライスである。
カレーなら、市販のルーさえ有れば特に難しい料理でもなく。
また、健二に限らず、子供なら誰でも大好きなので。
優は、良く作っていたのだ。
当然、味付けは、お子様用の甘い味付けである。
もちろん、それだけでは食卓が寂しいので。
サラダも付け合わせている。
「「いただきます」」
優が、健二の分をよそってテーブルに置くと。
自分の分を置いてから、二人で手を合わせた。
「(カチャカチャ)」
「(もぐもぐ)」
「おねえちゃん、おいしいよ〜」
「はい、お粗末さまです♪」
健二が、カレーをひと匙すくい。
満面の笑顔で、そう言うと。
優も、嬉しそうに答えた。
「(カチャカチャ)」
「(もぐもぐ)」
「(ニコニコニコ)」
健二が、美味しそうカレーを頬張って食べているが。
一方の優は、手にしたスプーンを止め、顔を綻ばせながら弟を見ていた。
「あれ、どうしたの? おねえちゃん。
ボクを見ながらニコニコして?」
「ん、だって、お姉ちゃんが作ったの。
ケンちゃんが美味しそうに食べるのが、嬉しくて嬉しくて♡」
不審に思った健二が、尋ねると。
優が、ご機嫌な様子でそう答える。
「……」
「ほらっ、ケンちゃん。
サラダも食べないと、大きくなれないぞぉ〜♪」
姉の答えを聞いた健二は、途端に無口になった。
どうやら、少し照れたようだ。
しかし優の方は、顔を綻ばせながら、野菜も食べるよう弟に勧める。
こうして、照れた健二が無口で食事をし。
弟が食べ終わった所で、ようやく優が本格的に食べ始めたのであった。