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第7話 二人で夕ご飯



 ************




 「ケンちゃん…。

 お姉ちゃん、そろそろ、お夕飯の支度するから…」


 「う…、うん……」




 しばらく、玄関先で抱き合っていた二人であったが。

思い出したように優がそう言うと、名残惜(なごりお)しそうになりながらも、素直に健二が離れる。




 「あ! おねえちゃん、これボクが持つよ」


 「ケンちゃん、ありがとう〜」


 「(チュッ♡)」


 「えへへへっ〜」




 優が、床に置いた荷物を持とうとした所。

健二がそれを代わりに両手に持って、台所に向かおうとした。


 そんな、姉思いなところを見せる健二に。

優が感謝の言葉を()べながら、弟のオデコにキスをすると。

健二が、嬉しいような照れたような笑みを浮かべた。


 優は、そんな、まるで元々からの女の子みたいな行為を、健二に対して行っているが。

元からの性格と弟に対する思いに加え、女性化してから芽生えた、(あふ)れる母性により。

生まれながらの女の子のような行動を、自然と行っていたのである。




 ・・・




 「あっ、ケンちゃん。

 玉ねぎ、()くの手伝って〜」


 「は〜い〜、おねえちゃん」




 二人は台所で、料理を行っている。


 優は一度、部屋に行き。

部屋着の青い半袖の、シンプルな膝丈ワンピースに着替え。

そして、その上から花がらのエプロンを掛けていた。


 ちなみに優は、女性化するはるか以前から料理を行っていて。


 いや、料理だけでなく。

家事全般を、仕事が忙しくてナカナカ家に帰れない父親に代わり、行っていた。


 当然、弟の世話も全部見ており。


 その様子から、男の時でさえ、近所のオバサン達から。

“良い嫁になれるわよ”と、半ば、からかわれていた位だった。


 一方の健二も、そんな優の手伝いを良く行っていたのである。


 そうやって二人で玉ねぎの皮を剥いてから、優が玉ねぎを切り始めた時。




 「ねえ〜、おねえちゃん〜」


 「ん? なあに」


 「おねえちゃん、玉ねぎ切って目にシミないの?」


 「大丈夫だよ、ケンちゃんのためなら、我慢できるから」


 「えっ! ごめんね、おねえちゃん」


 「なんて、ウソ♡

 本当は、目にシミないの裏ワザがあるのよ」


 「もお〜、おねえちゃんたら〜」


 「ふふふっ、ごめん、ごめん」




 からかったつもりが少し心配させた事に、”悪いことしたかな”と反省した優は。

怒り気味の弟を、濡れた手を避けながら優しく抱き締めた。




 ・・・




 「はいっ、カレーライスが出来たよ〜」


 「うわっ!」




 今日の夕飯は、カレーライスである。

カレーなら、市販のルーさえ有れば特に難しい料理でもなく。

また、健二に限らず、子供なら誰でも大好きなので。

優は、良く作っていたのだ。


 当然、味付けは、お子様用の甘い味付けである。


 もちろん、それだけでは食卓が寂しいので。

サラダも付け合わせている。




 「「いただきます」」




 優が、健二の分をよそってテーブルに置くと。

自分の分を置いてから、二人で手を合わせた。




 「(カチャカチャ)」


 「(もぐもぐ)」


 「おねえちゃん、おいしいよ〜」


 「はい、お粗末(そまつ)さまです♪」




 健二が、カレーをひと(さじ)すくい。

満面の笑顔で、そう言うと。

優も、嬉しそうに答えた。




 「(カチャカチャ)」


 「(もぐもぐ)」


 「(ニコニコニコ)」




 健二が、美味しそうカレーを頬張(ほおば)って食べているが。

一方の優は、手にしたスプーンを止め、顔を(ほころ)ばせながら弟を見ていた。




 「あれ、どうしたの? おねえちゃん。

 ボクを見ながらニコニコして?」


 「ん、だって、お姉ちゃんが作ったの。

 ケンちゃんが美味しそうに食べるのが、嬉しくて嬉しくて♡」




 不審(ふしん)に思った健二が、尋ねると。

優が、ご機嫌な様子でそう答える。




 「……」


 「ほらっ、ケンちゃん。

 サラダも食べないと、大きくなれないぞぉ〜♪」




 姉の答えを聞いた健二は、途端に無口になった。

どうやら、少し照れたようだ。


 しかし優の方は、顔を綻ばせながら、野菜も食べるよう弟に(すす)める。


 こうして、照れた健二が無口で食事をし。

弟が食べ終わった所で、ようやく優が本格的に食べ始めたのであった。



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