第2話 全ての始まりと誓(ちか)い
「ケンちゃん…」
「おねえちゃん…」
こうして玄関先で、少女と男の子はお互い抱き合っていた。
少女は弟の頭を撫でて、慈しむように可愛がり。
男の子は姉の豊かな胸に顔を埋め、全てを委ね甘えているが。
しかし元々、二人は姉弟ではなく、兄弟であったのだ。
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少女は名前を渋山優と言い、現在16歳の高校一年生である。
彼女は、学校では。
その同年代離れした人目を引く外見とは相反する、居心地が良い、穏やかで安心できる性格のため。
男女問わず人気を博していた。
そして、その弟である健二は、小学四年生で9歳である。
家族は姉弟のほかは、父親だけであり。
母親は、6年ほど前に亡くなっていた。
・・・
話は遡り、6年ほど前のある日。
その訃報は、急にもたらされた。
母親が外出先で、横断歩道を渡っていた所。
脇見運転のトラックに撥ねられたのである。
ほぼ、即死状態であったのだと言う。
優は最初、小学校の授業中、それを聞いた時。
余りの事に思考が追いつかず、頭が真っ白になった。
とりあえず、迎えに来た父親に、そのままの状態で家に帰るが。
信じられない事態と、慌ただしく動く周囲に翻弄され、優が呆然としていたら。
いつの間にか、自分の周りが黒い物で囲まれていた事に、気付く。
自分が知らない、大きな座敷の様なところに居て。
部屋の奥の方には、花が飾られた階段の最上段には母親の写真。
下段には、大きくて長方形の木の箱があり。
「(ポクポクポク……)」
「観自在、菩薩〜〜〜〜〜〜〜…」
その木の箱の前には。
髪の無いおじさんが何かを叩きながら、良く通る大きな声で何かを言っているのが聞こえる。
部屋の壁に沿って。
左右一列には、黒い服を着た人達が、静かに座っており。
隣には。
普段、余り一緒に居る事がない父親が。
何かに耐えるような顔をしているのが見える。
目の前の光景を見て優は、TVでよく見る葬式の光景である事が分かり。
それにより、自分の母親が、もうこの世には居ないことを、ようやく理解した。
・・・
「(……本当に、お母さんは死んでしまったの……)」
その事に気付き。
やっと、母親がこの居ないことを、心から理解すると。
押し潰されそうな悲しみに、襲われになった。
「…ウッ……、…ウッウッウッ……」
しかし、部屋の隅から、すすり泣くような声が聞こえ。
優が、そちらの方を見てみたら。
親戚のおばさん達が、何人か集まり。
弟の健二が、その中の一人に、膝枕をされた状態で寝ているが見える。
「可哀想に…」
「ほんと。
もうすぐ四歳になろうとしている時に、急に母親が死んでしまうなんて…」
「そうよね、これから一番必要な時に。
母親の愛情を受けられないまま、育って行かなければならないって…」
健二は、黒のショートパンツに白いシャツと、黒いネクタイと言う。
この場に合った、格好をしていたが。
泣き疲れたのか、目の周りを赤く腫らしたままで寝ていた。
その、おばさん達の会話を聞いて、優はショックを受ける。
「(そうだ! 僕だけじゃないんだ!)」
「(僕には、まだ、お母さんとの。
昔の楽しかった思い出があるかもしれないけど。
ケンちゃんには、その楽しい思い出も僅かしかないし。
その思い出も大きくなるに従い、多分だんだん忘れてしまう……)」
それと同時に、そんな事も思い始める。
「(出来るかどうか分からないけど。
これからは、僕がケンちゃんのお母さんの代わりになろう……)」
そう思うと。
押し潰されそうな悲しみに、かろじて耐えられそうな気がした。
こうして優は、口をキツく閉めてながら。
泣き疲れている、健二を見詰めていたのであった。