7話目
さわやかな風を身体に受け、大きく伸びをする。伸ばしきった後にネィルたちのほうへ振り返り、
「さて、本格的に旅を始める前に少しやっておきたいことがあるんだけど・・・いいかな?」
「何か忘れ物か?」
「うん、忘れ物、といえば忘れ物・・・かな。」
少しトーンを落とし、嫌なものを思い出すように苦々しく答える。
「正直言うと、エルミスはお留守番で私とネィルだけでやりたいことなんだけど・・・?」
「それは・・・、なんです?」
「あぁ、そういうことか。」
エルミスは変わらずハテナ顔だが、拳を握り締めるクーネを見てネィルは何がしたいのかを理解した。
「確かに『ソレ』はエルミスにはまだキツイな。」
「でしょ・・・?」
「ちょっと!二人で納得してないで教えてください!お願いします!!」
「うーん・・・、じゃあ教えるけど覚悟してね?」
まじめに言ってくるクーネに、エルミスは少したじろぎながらもしっかりと見つめなおす。
しばらく見つめあい、クーネは観念したように口を開いた。
「クーネを殺した連中を仕留めてくる。そして荷物を取り返そうと思うんだ。」
「当然そこには私の嫌いなタイプの、お前が出会ってしまったタイプのクズ連中がいるだろう。」
小さい悲鳴とともに自らの両肩を抱き、目を閉じてしまうエルミス。クーネは軽く首を振り
「・・・うん、やっぱりエルミスは留守番をお願い。私とネィルでサクッと終わらせてきちゃうから!」
「ま、まって・・・、ください・・・。ついて、いきます!」
「いや、エルミスよ。無理はしない方が・・・。」
「いいえ、ここは無理してでもついていきます!この壁は早いうちに乗り越えなければいけない壁です。
クーネさんの旅が楽しいものになるように、私もがんばりたいんです!」
「エルミス・・・。わかった、一緒に行こう。」
クーネはネィルとアイコンタクトを取り、エルミスに無理させないように頷きあう。
すぐに出発し、クーネを先頭に人とは思えない速度でソーグ草原を南へと向かう。
見た目は女子供の三人組だが、中身はといえば、一人はチート級ステータス、一人は元魔王、そしてもう一人はその魔王の娘と言う、それこそ勇者クラスのパ−ティー以外は逃げ出したほうがいい『見た目詐欺パーティー』である。
普通の人の足ならば1時間以上かかるような距離を15分足らずで走りぬき、目的地であるソーグ森林地帯へと到着。
そこから速度を落としつつも迷うことなくどんどん進み、男二人が見張りに立っている洞窟を発見する。
「あそこか?」
「うん、私・・・じゃなくて、クーネが殺された場所・・・。」
「どうするんだ?何か作戦は・・・?」
「そんなものいらない、いまの私たちなら力押しで蹂躙できる。」
立ち上がろうとするクーネのすそをそっとエルミスが握り、肩を軽くネィルが叩く。
「クーネさん、待って下さい。」
「落ち着け、怒る気持ちはわかるがあせってもいい結果にはならないぞ。」
「何を・・・。あんな連中、弱い女子供にしか威張れない連中なんて!」
「あぁ、だからこそだ。奴らには恐怖を抱いて死んでいってもらわなければな。」
幼いながらも魔王のような笑みを浮かべるネィル。
「それに、だ。こんな姿にされて承諾はしたが納得したわけではない。憂さ晴らしに先に暴れさせてくれ。」
そんなネィルに毒気を抜かれ、つい小さく笑ってしまったクーネは数回頷き、
「しょうがないわね。軽く、でも手加減無しに暴れてきて。しばらくしたら私たちは先に中に入るから、片付いたら追ってきてね。」
「任せろ。」
「じゃあエルミス、そういうわけでしばらく待機、様子を見ながら洞窟に突入ね?」
「は、はい・・・。了解です。」
頷くエルミスを見届け、ネィルはゆっくりと洞窟の方へと歩いていく。見張りの二人はネィルを見つけ一瞬構えるものの、少女の容姿を見てすぐに構えを解く。
「おいおい穣ちゃん、こんなところに一人でどうしたんだ?」
「おいまて、普通に考えてこんなところにこんな子供が一人はおかしいだろ。モンスター避けのアイテムか何かを持っているのかもしれないから確認しないとな。
もしかしたら他所の連中の送り込んだ、見た目で油断させる刺客かもしれん。」
「まったく・・・、じゃあゆっくり身体検査でもしてくれ。」
そういうと「ロリコンが。」と小さく言葉を吐き捨て、見張りの一人は入り口の近くへと戻っていく。
入り口まで戻り振り替えると、ネィルの元に残っていた見張りがネィルへと覆いかぶさるところを目撃する。
物好きな奴め、と眺めていたが何か様子がおかしい。覆いかぶさって小さく動いているのだが、動きが変だった。目を凝らし眺めていると覆いかぶさっていた見張りの背中から小さな腕が鮮血とともに生えた。
崩れ落ちる見張りを受け止め、そのまま持ち上げたネィルは洞窟の入り口、もう一人の見張りのすぐ横へと投げ捨て、岩肌へ激突、赤い花を咲かせる。飛び散った仲間の血を背に浴びながら、残った見張りは返り血で赤く染まった顔の幼女を確認し、
「て、敵だぁ!!おい、敵が来たぞ!!早く来てくれ!!頼む早く!!誰か・・・。」
「来てやったぞ?」
「ひっ!!」
目の前には血を浴びた顔の幼女。ほんの一瞬洞窟へ振り向いただけの間に目の前まで接近されていた。見張りは小さい悲鳴とともに慌てて腰の剣を抜こうとするが、柄の部分をネィルに軽く押さえられてしまう。
「ひっ!ぬ、抜けない・・・!は、離せ!!」
「なんだ、来てくれと言うから来たのにつれない奴だな。少しは余裕を持ったらどうだ?」
「ひぎっ!!」
剣を抜こうとしていた見張りの手を、柄を押さえてない手で軽く払いのける。その際見張りの指の骨が少し折れたようだがネィルは気にせず見張りの剣を抜いた。
「ほら、せっかくだから私と遊ぼうじゃないか。ハンデとして私はこの剣、お前には私の剣を使わせてやる。出ろ!『ロストエナジー』!」
ネィルの力強い言葉に応じ、ネィルの目の前、指の骨を折られうずくまっている見張りの上へと、ネィルことバルギスの愛剣『封殺剣・ロストエナジー』が召喚される。そして受け止め手のいないロストエナジーは重力に従い召喚された空中から地面へと落下し、
「ぐぶゅっ!」
うずくまっていた見張り兵を押しつぶした。
「情けない、せっかく特別に私の剣を使わせてやろうと言ったのに。」
ネィルはもっていた剣を岩肌へ放り投げロストエナジーを拾い上げる。刀身2メートル以上のロストエナジーは今のネィルからすれば身長の倍以上の大きさ。柄の部分だけでさえ今のネィルの三分の一以上はある。
そんな剣を軽々と片手で持ち上げ、洞窟の入り口を覗き込むと、複数の足音が聞こえてくる。少しはなれ、数秒待つと10人ほどの男が剣を構えて出てきた。
「来たね。さぁ、お兄さんたち、私と遊ぼうよ!」
「な、何だあいつ!!気をつけろ!どう見ても普通じゃない!!」
当然である。自分の倍以上の大きさの剣を片手で振り回し、成人男性10人相手に挑発してれば誰だって普通じゃないのはわかる。
しかしそんなことでも言わないとこの異常性を直視していられなかった。
恐怖を押し殺し、一斉に襲い掛か野盗達。
斬り合いとも呼べない人間解体ショーが始まった。