6話目
「ある人物の犠牲、だと?」
バルギスに対し負けじと睨むが誰を犠牲にするか思い至った瞬間、我慢できずにバルギスに掴みかかった。
「ふ、ふざけるな!!そんな選択をするくらいなら俺は今この場でお前らを殺す!!」
「ふん、無敵モードとやらになっていない今の状況でそんなことが出来るのか?」
ハッとなり慌ててスイッチを入れようとするがバルギスの行動のほうが早い。掴みかかっていた倉田の頭を掴み、無理やり引き剥がすと、そのままテーブルへと叩きつける。
倉田は短い悲鳴をあげ、痛みのあまり地面を転がりまわる。
(く、ううぅ、意識が・・・、イメージに集中できない!)
意図せず無敵モードの欠点を見つけるものの今はそれどころではなかった。バルギスは倉田を抱き上げ、手に力が込められていく。
「さぁ、我に誓え!クーネの復活は諦め、貴様自身がクーネとして一生この世界で生きていくと!」
今ここに魔王が再び出現した。魔王となったバルギスは容赦なく力を込めていき、華奢な体の骨が限界の悲鳴をあげている
「だ、ダメ・・だ!それだけは、してはならない!
クーネと言う娘を諦めるのだけは絶対に嫌だ!たとえ世の摂理に反していようとも彼女を生き返らせる!
それが彼女を殺してしまった俺の・・・神としての贖罪だ!」
「わかった、それが貴様の答えだな!ならば貴様の手足を破壊し!精神を壊し!ただ生きるだけの肉人間としてこの小屋ごと永遠に封印してやろう!」
更なる力を加え鈍い音が響き、同時に絶叫が小屋中をうめた。抱かれていた倉田の両手が力なく垂れ下がり、暴れていた足にもおとなしくなっている。
「エルミス!セイジの両足を壊せ!」
「え、は、はいっ!!」
バルギスからの怒号を受け、エルミスはゆっくりと近づいていく。
抱かれている倉田の顔を見上げると内臓にも損傷を受けているのか、口からは血が流れ始め、かろうじて意識はあるようだが、視点が定まっていないようだった。
そしてバルギスの顔を見て・・・
「・・・?・・・!?」
何かを察し、バルギスも小さく頷く。エルミスは倉田の足を掴み、ゆっくりと本来曲がらない方へと力をこめていく。
「セイジよ、最後にもう一度聞こう。娘を諦めお前自身がこの世を生きることを受け入れるのだ。」
「げふっ・・・。こと・・・わるっ!!」
バルギスの諭すような声に、倉田は消えかけていた意識をかき集め、バルギスを睨みながらはっきりと否定を口にする。
「そうか、お前の意志は固いのだな・・・。ならば、やれ!エルミス!!」
「はい!」
足を掴んでいるエルミスの手に力が込められる。倉田はもう最後の賭けに出るしかなかった。そして覚悟を決め、賭けに勝つことを祈り・・・
「ヒーリング!!」
「エンパワー!!」
足を掴んでいるエルミスの手が眩く光り、それは倉田の体全体へと広がる。その後バルギスの言葉によりさらに強く光り、そして抱擁を解き静かに椅子へ座らせた。
倉田の全身を覆っていた光が消えたとき、砕かれていた骨も、潰れていた内臓も全てが治っているようだった。
「・・・え?」
「大丈夫ですか?痛いところとか、違和感のある場所はありませんか?」
「え?・・・え?あ、うん、大丈・・・夫。」
ワケがわからないという倉田。そして深々と頭を下げるバルギス。そこにはすでに魔王の姿は無かった。
「セイジ、すまない!お前を試すようなことをした!」
「あ、うん、ごめん。ちょっと、ちゃんと説明してくれ・・・。」
本当に申し訳無さそうな顔でバルギスは説明を始めた。
曰く、倉田政示という人物の心を知りたかったという。
こちらの提案にあっさり乗るのなら軽蔑こそするものの、それは良しとしていた。
そして苦痛の中、全てを諦め命を投げ捨てるようならば、宣言通り生ける屍として永久封印するつもりだった。
だが、最初の提案にも乗らず、絶望の中の苦痛にも耐え、それでも諦めないようなら・・・。
「お前の心を信じる事にした、ということさ。それほどの意思を持つのならば、たとえ元の世界に戻ったとしても決して悪いようにはしないだろう。
何故そこまで執着するかわからないが、一人の村娘のためにそこまで必死になれるんだ。失敗こそすれ、間違った行いをするようなことはあるまい?」
「あ、あぁ・・・。少なくともこの世界は俺の大事な宝だ。それを壊すようなことをするつもりはない。」
「それを聞いて安心した。本当にすまなかったな。詫びとして何でも言ってくれ。可能な限りではあるが何でも従おう。」
「ほう・・・?そうか、なんでも従うんだな?ならば、ちょっと実験に付き合ってもらおうか・・・。」
倉田はニヤリと笑いバルギスの全身を眺める。その視線に背筋が凍るようなものを感じ、
「お手柔らかに頼むぞ・・・?」
「大丈夫、痛くしないから。ところで何で俺が無敵モードじゃないってわかってたんだ?あれは見た目では判断できないものだと思うんだが?」
キーボードを叩きながらバルギスに質問する。
「ん、セイジならわかるんじゃないのか?私の特殊能力は知っているのだろう?」
「あぁ、なるほど『見透かす目』か。」
バルギスの持つ能力の一つである「見透かす目」は意識して相手を見ると、その者が纏うオーラの色と大きさで強さや状態を把握することが出来た。
「うむ、普段はうっすらと見えるオーラが、無敵モードとやらの時はまったく認識できなくなるからな。」
「力が強すぎて逆に何も見えなくなるってことか・・・、っとよし。じゃあ始めるぞ。何が起きても素直に受け入れろよ?」
「う、うむ・・・。」
バルギスの返事を聞き、そして決定を押す。その瞬間バルギスの姿が・・・
「なるほど、相手が受け入れてくれるなら、見た目が変わるような変更も俺から出来るっぽいな。
うん、ありがとうバルギス。しばらくそのままでいてくれ。それでさっきの出来事は水に流すよ。」
バルギスと呼びかけられた場所にいるのは一人の少女。年齢的には10歳くらいだろうか。少女は目を閉じ、プルプルと震えている。
「お、お父様・・・?」
目の前で変化を見ていたエルミスは呆然と少女を見つめ・・・、
「セイジよ、これは一体何がしかったのか説明を・・・。」
「お父様、可愛い・・・。」
「おい、エルミス!こら!」
ひょいっとエルミスに抱きかかえられる少女バルギス。
「うん、これからの旅、私とエルミス、バルギスちゃんの三人で旅しましょう、ね?」
ウインクを一つ、クーネモードになった倉田はバルギスに、
「何でも従うんでしょ?だったらお姉さんの言うことは聞きなさい?それに女になっちゃったという仲間も欲しかったし。ね、お願い!」
「いやしかし、セイジよ・・・。」
「これからはクーネ、と呼んで。セイジと言う存在はしばらくお休み。二人ともそういうことでよろしくね。」
「はい、クーネ様!」
「出来れば呼び捨てがいいかなー。女の子としてはエルミスのほうが先輩なんだし。バルギスのことも呼び捨て・・・は、さすがに無理か。んーどうしよう。」
「それならば『ネィル』と言うのはどうでしょう?」
「え、その名前って・・・。」
「エルミス、それは・・・!」
同時にたずねられ、にこやかに
「はい、お母様の名前である『ネィラ』の一字違いです。この名前ならばお父様もわかりやすいでしょう?そういうことでよろしくお願いします、クーネさん、ネィルさん」
「エルミス、お前まで・・・」
「まぁ、しばらくでいいから付き合ってよ。よろしくね、エルミス、ネィル!」
「く・・・、仕方あるまい。そのかわり少しだけだからな!後でちゃんと戻すのだぞ!セイ・・・、いや、クーネ!」
倉田政示ことクーネ・ネーハは、バルギスことネィルに「はいはい」と返事をし、エルミスは楽しそうにネィルを抱え、三人は小屋の外へと出たのだった。
TS娘とTS幼女と普通の少女の女三人組完成。