5話目
娘が復活してパパ大歓喜
どれくらい経ったであろうか、3人は小屋の中へと入りテーブルを囲んでいる。
「では改めて・・・。初めましてセイジ様。バルギスの娘、エルミスと申します。この度は私を治してくれたとの事、感謝いたします。」
「セイジよ、本当に感謝する!治療師どもの話では意識が回復するかどうか、回復したとしても元のように戻る確率はかなり低いと言われ続けて絶望しかけていた。それが、それがこんなにしっかりと・・・。く、ううう・・・。」
深々と頭を下げるエルミスと涙を流して同じように頭を下げているバルギス。
そういえばそういう設定で、意識を取り戻したエルミスがジグラッドに復讐しようと言うのもありだな、なんて考えていたなどとは言い出せるはずもなく、
「気にすることはないだろ、元を正せば俺のせいなんだ。なら今の俺の力で治したところで贖罪のほんの足しにしかならない。だからそんなに畏まらずに二人とも普通に接してくれ。」
気にしないでくれたほうが楽だと内心思っていた。
「まぁ、そんなわけだ。バルギス、エルミスとともに俺に付き合ってもらうぞ?結果としてだが、エルミスが元に戻ったおかげでお前の目的はほぼ達成できたわけだし、俺と言う余計なものがついているが親娘でこの世界を旅してみるのもいいだろう?
こういっちゃ何だが、この世界の人間だってすべてが悪い奴じゃない。確かに許せないような連中も存在するのは確かだが、それで決め付けないで欲しいんだ。
そして一緒にこの世界を回り、俺が作ってよかったと思えるような旅の手助けをしてくれ。」
「言われるまでもない、私だって全ての人間を悪だなどと断罪するつもりはない。が、許せぬ奴には容赦するつもりも無い。そういった奴らのせいで亜人共と手を組み、怒りに我を忘れて魔王などいう立場を演じたのだしな。」
「わ、わた・・・し、は、・・・っ!」
ぐっと目を強く閉じるエルミスの頭にそっと手を乗せるバルギス。それを追うように
「エルミス、無理しなくていい。まずは心を落ち着かせる旅にしよう。少なくとも俺とバルギスが一緒にいる限りは絶対に守ってやるさ、な?」
バルギスと目が合いお互い同時に頷く。顔を伏せたままのエルミスの口から小さく「ありがとう」と言う言葉が漏れた。
「さて、これでこの先の方針が決まったわけだが少し問題がある。この先俺がクーネとして生きていくうえで、どうしても乗り越えなければならないことがあるのだが・・・、」
まじめな顔になり少しトーンを落として話し始めた倉田に、二人は集中する。
「二人に問いたい。二人には俺はどういう風に見える?」
「どう、といってもな・・・。人間としては可愛い、と言うよりは美しい、といったほうがいい女性ではあると思うが?」
「えぇ、少々酷い言い方ですが、会話させしなければ男性の方には大変人気になられる容姿と思いますが・・・、何か問題が?」
「それだよ、エルミス。」
そう、男として生まれて40年以上生きてきた奴に、若い女性を演じろといわれても無理な話だ。記憶の中にあるクーネを無理矢理取り繕ったところで絶対にどこかでボロが出る。
「クーネとして生きていくのはいいが、その間に今までのクーネを知っている人間に会わないという保証はない。
俺はまだクーネを生き返らせる方法は諦めていないからな。もしその方法が見つかり無事クーネが戻った時に変な噂は立てられていたくないんだ。」
「ならばしばらくの間、私とエルミスでみっちり特訓でもするか?」
「その方法も考えはしたが、やはり40年の癖と言うのはそう抜けるものではないと思う。」
「ならばどうする?」
「だからそれを聞いてるし悩んでいるんだよ。」
エルミスは考え込んでる二人を交互に見つめつつ、静かに口を開き、
「あの、セイジ様?セイジ様のお力で改変できたりしないのでしょうか?」
「残念ながら元の姿になってみようとしたり、性別を男にしてみようとも思ったがダメだった。おそらくだが俺自身に関わることは元の世界に干渉することと認識されるんだろうな。」
「そのお力はどこまでの改変はダメなのでしょう?性別を変えることは出来ないとおっしゃいましたが、お父様の話を聞く限りでは全力の攻撃がまったく通じなかったとか?」
エルミスに指摘され思わず「あ・・・!」と漏らす。
(そういえばそうだ。パラメータ的なものは問題なくいじれたのに、何で性別とかはダメだったんだ?何かあるはずだ、何か・・・。考えろ!)
腕を組み唸りを上げて悩みだす倉田を二人は心配そうに見つめる。
「あ、あの何か余計なことを言ってしまったのでしょうか・・・?」
「いや、そうではあるまい。むしろお前の言葉で何か光明を見出したようだぞ。だがその光にたどり着く道が見つからない、といったところか。こうなると本人がこちらに相談してくれない限りは何も出来ないな。待つしかないだろう。」
時間にして十数分、倉田が立ち上がり
「あー!!もどかしい!!何か、こう何かが見えているんだ!その何かがわからん!!」
叫んで頭を抱える倉田の肩へバルギスが手を置き、
「悩むのもいいが、一人で悩まれては私たちが暇でしょうがない。問題は一人で考えるよりも、数人で考えた方が多様性も出るというものだ。」
「そうだな、『三人寄れば文殊の知恵』とも言うし、悪いが力を貸してくれ。」
「言葉の意味はわからんがとりあえず教えてみろ。何がわからないのだ?」
思っていることを二人に話したあと、自分なりの解釈で理解しようとエルミスが
「見た目は変えられないけど、中身の強化は出来るという理由ですか・・・。」
「見た、目・・・?」
倉田は何かを思いつき設定を打ち込む。何の変化も無く、再び設定を打ち込むとうんうんと頷き、三度設定を打ち込み決定した後に・・・
「あー、あー・・・。うん、エルミス、ありがとう。もしかしたら解決したかもしれないわ。」
「え、あの、はい。おめでとう?」
何か違和感を感じる二人、その二人に対し倉田は背を向けて立ち上がり、女性らしい柔らかなしぐさでくるっと振り返ると、
「私の名前はクーネ・ネーハ。改めて二人ともよろしくね!」
びっくりして二人の親娘は顔を見合わせ、同時に倉田の方を見る。
「あ、あの一体どういうことなんですか?」
「セイジ、すまないが理解が追いつかない、説明してくれるか?」
二人の言葉を聞いた倉田は目を閉じ、顔を伏せ、再び顔を上げると、
「だよな、俺もここまでうまくいくとはおもわなかった。いつもと同じ、設定を変えたのさ。」
説明はこうだった。自分のことである『神の乗り移った村娘』と『クーネ・ネーハ』を意識レベルで同一として結び、その後記憶とリンクさせ、生きてた頃のクーネの全てをトレースするようにしたのだ。
そして念のため、ほとんど使うことは無いと思いつつも、無敵モードとは別にもう一つのスイッチを作り、クーネとしての自分と元の倉田政示の自分を切り替えることが出来るようにもしてあった。
こうしてクーネとしてスイッチを入れてる間は、倉田の思うように話しても、どんな動作をしても、記憶の中のクーネの動きをトレースして自然と行えるようになっていた。
設定をいじっても性転換や姿を変えられなかったのは、見た目を変える事によって世界がその人物と認識できなくなってしまうから。自分の意思で行うならば問題はないが、今のクーネのような第三者からの変革は世界にしてみれば歪みなのだろう。
なので戻そうとする強制力が働き、設定変更ができなかった、と倉田は考えてみた。
「推測ではあるけど、俺がこの世界ではなく、元いた世界でこの世界の設定をいじる分には大丈夫なんだと思う。正直おこがましい言い方だが、俺が元の世界で設定をいじるときは、この世界においてはそれが世界の意思であると同意なワケだからな。
現状、俺自身もこの世界の歯車に組み込まれてる以上、出来損ないの神ってことさ。」
倉田の説明を聞いても二人は「はぁ・・・」としかいえなかった。はっきり言ってしまえば二人にとって次元の違う話である。世界の意思や歪みといわれてもピンと来ない。
だが二人は理解しようとした結果、少し違う結論を出した。
「と、とりあえず、セイジ様のお悩みは解決したのですね。良かったです!」
と喜ぶエルミスに対し、
「セイジよ、やはりお前は危険な存在なのだな・・・。」
と倉田をにらみつける。バルギスの態度の変化に、喜んでいたエルミスも困惑し、
「お前が元の世界に戻った後、我々が自分の意思で行った行動が実は全てセイジの意思の元で行われていて、しかもそれに我々は気付くことが無い、と言うことなのだろう?」
バルギスの言葉の意味を理解したエルミスは、背筋にぞくっとしたものを感じバルギスの後へと隠れるように移動する。
「あぁ、そういうことになる・・・んだろうな。この世界の仕組みを知ってしまったものとしては。俺が関与してない出来事であったとしても、お前とエルミスだけはそう考えることは出来なくなった、と言うわけか。」
二人はお互いににらみ合い、それを不安そうに見つめるエルミス。
「どうする?やはりここで俺のことを殺しておくか?お前の不安を取り除くのはおそらくそれが一番だぞ?」
「いや、一番の方法は違うな。もしお前を殺したとしても、それが元の世界に戻るきっかけになってしまっては本末転倒だ。だからお前を殺すようなことはしない。だがある人物を犠牲にすればそれが一番の方法だ。」
バルギスの悪魔のような笑み。まさに魔王と呼ぶにふさわしい表情を見せ、倉田を見下ろしていた。
文字数の関係で変な切り方しちゃってます。
次回更新は来週の予定。