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3話目

朝、窓からの日差しが顔に当たり暖かな雰囲気の中、倉田は目が覚める。まだ寝ぼけ眼のまま個室に入り、小用を済ませた後に髪の毛を首の辺りの高さでまとめ紐で結ぶ。


「んっ・・・んん〜!!」


思い切り背伸びをして椅子に座り、テーブルへと突っ伏ししばらくまどろんでいると、がばっと立ち上がり


「いやいや、ちょっと待て!!」


立ち上がった勢いで倒れた椅子もそのままに、起きてから一番最初に向かった個室へと向かう。個室の扉を開けるとそこはいわゆる『トイレ』なのだが・・・


(今普通にトイレ行ってたよな?何で違和感もなしにできたんだ?)


考えながら自分のの胸を見下ろしつつ、股間の部分に手を触れる。


(だよな、元に戻ってるなんてことなかったよな?意識もハッキリしてなかったのに何で普通に出来たんだ?)


混乱しかけてる頭を冷静にしようと歩きながら倒れた椅子を起こしそこに座る。両手をテーブルに肘を立てて置き手の甲へあごを乗せて思考にふける。


(昨日の狼たちは違う場所から飛ばされてきて、そして多分だが元の場所に飛ばされただろう。無機物はまだ試しようがないが生き物に関しては違うところから呼び出される・・・?

まてよ?たしか『乗り移った娘』と設定してたってことはこの娘は元々この世界に存在してたのか?何かで見た記憶があるが習慣づいた行動と言うのは仮に記憶喪失になっても自然と行えるらしい。

つまりは今の自分も倉田政示として意識するまではこの世界で暮らしていたということか・・・?)


倉田はおもむろにキーボードを出して


『設定:神の乗り移った村娘の記憶を思い出す』


決定を押そうとして手が止まる。


(もしこれを実行した結果、今の自分が自分でいられる可能性は・・・)


押そうとして止まっていた手が震える。もしこれを実行した結果で今の自分である村娘の自我が発生したら、自分は元の世界に戻るのだろうか。それとも消滅して消えてしまうのだろうか?

戻るならそれはそれでいい、しかし消えてしまうのは問題、と言うより怖い。


「・・・えぇい!!ままよ!!」


決定を押した瞬間、頭に映像が流れてくる・・・。







魔王バルギスが勇者ジグラッドにより滅ぼされたとの報が世界各地へと広がり、それはルマー村にも届いた。

ルマー村はソーグ草原の東10キロほどにある小さな村で、ジグラッドが勇者として目覚める前の、冒険者だった頃に依頼を受け立ち寄った村。

そして初めてジグラッドが魔王の手下を倒した場所でもある。手下といっても小さい村を襲う程度の対して強くない、しかし戦闘技術のない村民には敵うはずのない相手。

すでにその手下はルマー村の周辺にあるいくつかの村を壊滅させており、何番目かの標的としてルマー村を襲った。

ジグラッドが到着した時はすでに村人数人が殺され何軒もの家が燃えており、手下が蹂躙中であったところをジグラッドが重傷を負いつつも手下を消滅させた。

そしてその光景を18歳の娘、クーネ・ネーハは殺されてしまった両親を抱きかかえながら眺めていた。

それから3年後に届いたその報はクーネの耳にも入り、ジグラッドへお礼とお祝いとしてルマー村特産の品を届けたいと村長へお願いし、了承を得て旅発つことになった。

そして村を出発した翌日、クーネはソーグ草原を順調に進んでいたのだが、道中で具合の悪そうな人物を見つけ、駆け寄ったところ・・・







「うっ・・・、おええええぇぇぇ!!」


倉田は椅子から倒れ落ち、吐きながら床を転がりまわる。昨日の狼戦のあとからずっと能力オンにしたままのはずの体が痛い。

なんとか四つんばいになるものの


「げほっ!かはっ・・・!うっ・・・ぷ、おえええぇぇ!!」


再び吐き出してしまう、何も食べていないせいで胃液しか出ない。それでもそれはいつ止まるともわからず吐き続ける。


「な、何だよこれ・・・。この記憶は・・・。」


少し落ち着きを取り戻した倉田は自ら描いたこの世界のストーリーを思い出す。確かに最初の方の話でジグラッドはここソーグ草原を抜けルマー村に行っていた。

そして今見た記憶どおりの展開で村を救い、その後手下のリーダーでもある魔王軍の一人と接戦になり魔王軍に目を付けられるという展開になっている。


「だが、このクーネと言う娘はあの時点では設定してなかった!それどころかあの村は最初に出たきりで以降はまったく出てなかったはずだ!」


そしてその後のジグラッドは世界を巡り、仲間を集め、ついには魔王を倒すわけだが、この村は名前こそ出るものの村がそのものが舞台に出ることはなかった。


「俺自身知らなかっただけで作られたキャラはそれ以降もちゃんと生活をして生き続けてるって事か?そのままの意味でキャラが勝手に動いてるとでも言うのか!?

そして俺の知らないところで俺の作ったキャラがあんな目にあって殺されたと言うのか!!」


このクーネと言う娘はそれこそストーリーが終わり、寝る直前にイメージしたキャラではある。だがそのキャラはちゃんとストーリー初期から生き続け、そして死んだ。いや殺されたのだ。


(いや、話の中でこの世界が出来た時に当然この世界の歴史も設定した。つまりその時点でこの世界はすでにあったものとして存在し、そしてストーリーに関わらなくても世界はちゃんと回ってたってことか。

なら当然この世界に生きるキャラたちにはそれぞれの歴史があり、生活があり、俺がそこに関わっていない間の記憶も当然ある。それがさっきのこの娘の記お・・・う・・・。)


クーネの最後を思い出しまた吐き気を催す。幸い嘔吐することはなく、一つ深呼吸をして椅子に座りキーボードを出す。


(この世界は俺が作った世界であると同時にこの世界で生きるキャラたちのものだ。面白半分で俺がこの世界を生きてちゃいけないな。それは自分で自分を貶める行為、アースランド・ファンタジーと言う作品を壊すようなものだ。)


『設定:クーネ・ネーハが生き返り倉田政示は元の場所に戻る』


目を閉じ決定を押す。


(・・・ん?)


倉田が目を開けるとそこは変わらず小屋の中。そして目の前にある半透明のモニターには先ほど打ち込んだ設定が消えている。


「まさか・・・実行できないのか?いや、自分の名前を入れたせいで元の世界と関わりがあるということでダメだった?しかたない、か・・・」


倉田は意を決し、改めて設定を入れなおす。


『設定:クーネ・ネーハが生き返る』


自分が消える覚悟で決定する。が、決定した瞬間に設定が消えてしまう。


「なんでだ!昨日のあの狼は生き返っただろう!なぜ生き返らない!!」


怒りのあまり力いっぱいテーブルに拳を叩きつけ、そしてテーブルが真っ二つに割れる。しかしそんなことは気にも留めず倉田はずっと「何故だ・・・」と考える。


(死んでから時間がたってしまうと生き返ることが出来ない?試してみるか・・・・?)


時間経過で死者は生き返らせることが出来ないのか、試すためにストーリー上で確実に死んでしまっているものを目の前に呼び出すことを決めた倉田は


『設定:ソーグ草原の小屋の前に魔王バルギス出現』


我ながら無茶をするな、と思いつつも決定する。椅子から立ち上がり小屋を出てみると、そこには倉田が設定したとおりの人物が姿を現していた。


「・・・ふむ、そこの娘に問う。ここはどこだ?」

「ここはアースランドの東、ソーグ草原だ。今度はこちらが問いたい。お前は魔王バルギスだな?今までどこで何をしていた?」

「娘、口の利き方に気をつけろ。だが、我が問いに答えたゆえに今のは許そう。だが・・・。」

「いや、それはいいからこっちの質問に答えてくれ。それだけが知りたい。」


バルギスの言葉に倉田は平然と遮り用件を口にする。その態度にバルギスは目を見開き


「そうか。娘よ、死にたいらしいな。先ほどの口ぶりから我がバルギスと知っているのだろう。望みどおり殺してくれよう。」

「いや別に死にたくないし、知りたいことがあるから聞いてるわけで。お怒りなら質問の仕方を変えよう。ジグラッドに殺されてから今までの記憶はどうなってる?」


倉田の言葉の中に『ある単語』を聞き、目を細めて拳を引きゆっくりと腰を落とし、引いた拳を突き出しつつ手を広げる。

その瞬間、手のひらから淡い光が放射状に広がり、目の前にいた倉田とその後に建っていた小屋を飲み込む。


「何者かは知らんがジグラッドの名前を出した以上、この結果に文句は・・・」

「うん、言うつもりはないけどさ。質問に答えてよ。」

「な、ん・・・!!バカな!!」


跡形もなくなった小屋のあった場所の前には、着ていた衣類こそボロボロになっているものの、何事もなかったかのように立っている倉田。


「とりあえず何もしないから、落ち着いてくれ。そして質問に答えてくれ。」


無抵抗の意思表示として両手を上に上げる倉田に問答無用とばかりに殴りかかるバルギス。しかし何発殴っても微動だにしない倉田に対し異質なものを感じ始める。

そしてここまで無抵抗であった倉田ではあるが、痛みはないとはいえここまで殴られ続ければさすがにイラついてきて、


「あのなぁ。何もしないといってるのにそっちからここまでしてくれるとさすがに腹立つぞ?一発だけ殴らせろ!」


連打してくる手を軽く払いのけ、体勢を崩したバルギスの腹へとアッパー気味に殴りつける。


「ぐぼぁっ!!」


その一撃を受け宙に3メートルほど浮いて落下する。起き上がろうとするバルギスだが足に力が入らずうつぶせに倒れたままとなる。


「き、きさま!何者・・・!」

「こっちの質問に答えたら教えるよ。で、どうなんだ?」


倒れてるバルギスのそばへしゃがみこみ、再度問いかけると、バルギスは荒い息を整え少し時間を置いて答えた。


「奴、ジグラッドの一撃を受けたあとは・・・、なんと言えばいいのか、奴らと我の体をしばらく見下ろしていたな。しばらくして奴に殺されたんだなと認識したあと意識を失うような感覚で目が見えなくなっていき、目が覚めたらここにいた。」

「ジグラッドに殺された、と言う認識はあるんだな?」


倉田の言葉に「あぁ」と小さく頷く。


(ストーリー上最後は確実にバルギスは殺されたということになっていた。つまり死んでから生き返るまでの時間の長さは関係ないということか。ならなぜクーネは生き返らない?)


うなり始める倉田を前にバルギスが口を開く。


「それで貴様は何者なのだ?」

「うーん、あ、俺?そうだなぁ。お前も含めこの世界の全てを作った存在、とでも言っておこうか?信じる信じないは勝手にしていいぞ。」

「き、きさま!ふざけているのか!!まじめに答えよ!!」

「いや、まじめだって。なんならお前の本当のことも言い当ててやろうか?今のその言葉や態度も、魔王としての威厳を出すために本来の自分を偽ってるんだろ?それで娘のエルミスを溺愛してる優しいパパと言うことまで知ってるから無理しないで素の自分でいていいぞ。」


倉田の言葉に衝撃を受けるバルギス。小さい声で「何故それを・・・」と呟いている。


「はっ!まさか殺されたはずの私がこの場所で生き返ったのは!?」

「俺の仕業だよ、あぁ、だからといってまた死んでくれとかは言わないから安心してくれ。むしろこの世界じゃ死んでることになってるんだし、魔王になる前の本来の目的の為に生きてもいいんじゃないか?」

「そ、そこまで知っているのか。うははは!信じようじゃないか、この世界を作ったという存在、つまり創造神と言うことだな。おっと、そうなるともっと礼節を持って・・・」

「いや、それはやめてくれ。普通に接してくれないとこっちの肩が凝ってしょうがない。」


笑いながら倉田はそう答えるとバルギスは「了解した」と返した。その返事を聞いた後、倉田はキーボードを出し


「あぁ、バルギス、俺の手元に何かあるか見えるか?」

「いや、何もないようだが・・・。」


「そうか」と答えると設定を打ち込み決定する。倉田とバルギスの目の前に先ほど吹き飛ばされた小屋が元通りに現れる。倉田は小屋の中へと入って行き、驚いているバルギスへ入り口のところで一緒に来るように呼びかける。

中は壊れたテーブルも吐いた後もなく完全に元通りの状態になっていた。部屋の奥にある棚から衣類を取り出しボロボロになった服を着替え椅子に座った後、バルギスへ正面に座るように促しバルギスはそれに従う。

倉田はバルギスを蘇らせた経緯を話し、その上でなぜクーネが生き返らないかとバルギスに意見を求めてみた。


「つまり、セイジが乗り移ってしまったクーネと言う娘を生き返らせたいが、なぜか出来ないというのだな。うーむ。」


お互いにうなりながら悩んでいたが、バルギスが口を開く。


「あくまで推測なのだが・・・。生き返らない、ではなく生き返れないのではないか?」

「どういうことだ?」

「先の狼の話を聞き、さらに私のことも踏まえると生き返らせたときには魂が戻る場所があるのだろう。まぁ私の場合はおそらく再構築されてそこの魂が戻ってきた、と思うのだが。

つまりこの世界には魂と体はセットになっているわけだが、クーネと言う娘が帰ってくるべき体にはすでにセイジがいるから戻れない。つまり生き返ったところで体に戻れずにその結果が生き返れない、と言うことではないのだろうか?」


言い切った後に何か気付いたらしいバルギスは少々バツの悪い顔をする。意見に聞き入っていた倉田はその表情の変化に気付き、同時に自分にも思い当たることがあり、バルギスに結論を促す。

少し悩んだものの倉田の表情を見て取ったバルギスはゆっくりと口を開き・・・


「おそらくセイジがその体から出ない限りクーネと言う娘は生き返ることはない、そして創造神のごとき力を持つセイジ以外では、死んでから時間の経った者を完全蘇生させる事はできないだろう。」

「俺がこの体から出るということは・・・、この世界から消えるということ、消えてしまう以上蘇生を行えるものは誰もいない。つまりクーネは・・・。」


お互いに口を閉じ長い沈黙が訪れた。

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