23話目
またほんの少し長めです。
(うまく纏められない・・・)
「う、うぅん。あれ、ここは・・・え、何で裸!?
あぁそうか。確か服を洗って身体拭いて、その後どうしたんだっけ?」
目が覚めたクーネは意識をハッキリさせようと首を振る。その拍子に掛けてあったシーツがめくれ、隣で寝ているエルミスの裸体が目に入り慌ててシーツを掛けなおした。
裸のエルミスを見たとき全てを思い出し、声にならない悲鳴をあげて足を抱え込んだまま俯いてしまう。
とりあえず深く深呼吸をして落ち着くのを待って、状況確認のために周りを見てみる。
ほら穴の入り口の方から陽がさしており、どうやらすでに夜が明けているようだった。
クーネは動こうとするものの羽織っていたマントは地面に敷かれ、その上にはまだエルミスが眠っている。
だがシーツを取ってしまえばエルミスを裸の状態で放置してしまう事となり、動くに動けない状況だった。
どうしようか悩んでいると入り口の方から人が来る気配を感じ、エルミスの裸を見ないようにそっと横にもぐりこむ。
様子を伺っていると、気配の正体はネィルだった。
「起きているか?服が乾いたから持ってきてやったぞ?」
「ネィルぅぅ。ありがとぉー・・・。」
「何をそんな泣きそうな声を出しているんだ。食事はすでに出来ているから、さっさと着替えてカッツのところに行って来い。」
服を受け取るとエルミスを起こさないように気を付けつつ・・・
「ネィル、服着たいんだけど・・・?」
「着ればいいじゃないか?・・・ん、あぁ、恥ずかしいとかそういうことか。安心しろ、すでにお前の身体の隅々まで観察済みだ。気にするな。」
「隅ず・・・!?観察!?」
しゃがんだ状態で胸元を隠し、顔を真っ赤にさせ睨みつける。叫びそうになるクーネだったがそれよりも先に
「わかったわかった、後ろを向いているからさっさと着ろ。ここで叫べば何事かとカッツが飛んでくるぞ?」
ぐっと堪え背を向けたネィルを睨みつつ、そそくさと着替える。一通りの準備が終わり立ち上がると、
「ネィルのエッチ!」
と一言残して外へと歩いていった。思わず噴出してしまうが、気を取り直し、
「それで、いつまで寝たふりをしているのだ?」
「ふ、ふりじゃないです!寝てます!」
質問に答えてる時点で目が覚めてる証明なのだが、エルミスは頭まですっぽりとシーツを被ってしまっていた。そんなシーツの中からくぐもった声で
「ネィルさん、私はどんな顔してクーネさんに会えばいいのでしょう・・・?」
「いつも通りにしていればいいだろう。毒のせいなのだから気にすることもあるまい?」
「もう!みんながみんな、ネィルさんのように振舞えるわけではないんですよ!?」
がばっと起き上がり文句を言う、が、自分が裸であることに気付き、慌ててシーツを撒きつける。
自分の服を受け取ったエルミスは、すぐに着るとシーツをたたみ地面に敷かれてあったクーネのマントを手に取った。
「クーネさん、許してくれるでしょうか・・・。」
「許すも何も、あの時のお前がおかしかった、と言うのはクーネもわかっているのだ。逆に気にし過ぎる方が奴も困るだろう。頑張って普通に振舞うのだな。
さあ、お前もさっさと食事を取ってこい。片付けはしておいてやる。」
たたまれたシーツを拾い上げマントを受け取ろうとするが、首を横に振られる。
心情を察したネィルは片付けのために湧き水の方へと向かい、エルミスはマントを抱えほら穴を出て行くのだった。
カッツの作った具沢山のスープを受け取り、空腹を満たすクーネ。器を空にしたところで
「クーネ、毒にやられてたらしいけど大丈夫だった?あの毒は持続性はほとんど無いからもう大丈夫だと思うけど・・・?」
「・・・!?だ、大丈夫!もう全然平気!心配しなくてもいいよ!うん。何も、無かったから・・・。」
「そ、そう?それならいいんだけど。」
少し慌てた感じにちょっとだけ不安を感じたが、本人が大丈夫と言うのだし気にしないでおこうと思うカッツ。
(言えるわけ無いよ。あんなことあったなんて・・・。でも少しは興味があったのは否定はできな・・・)
「カッツさん、く、クーネさん、おはようございます。マント、ありがとうございました・・・。」
「おひゃ!?・・・お、おはよう、エルミス。あ、いいのよ別に。ありがとう、持ってきてくれて。」
お互い何とか普通に接しようとするが、どうしてもぎこちない態度になる。
さすがにカッツも気になったのだが、あえて気付かないように
「おはようございます、エルミスさんもどうぞ。」
「え、は、はい。ありがとう・・・ございます。」
スープをよそうとその器を手渡す。エルミスたちが異界者だと知る前と同じ行動に、エルミス本人だけでなくクーネも少し驚いていた。
気になって聞いてみると、
「少なくともクーネが友達と言い切る、ネィルさんとエルミスさんは平気だと思えるようになった。」
との事だった。
「ありがとうカッツ、二人を信じてくれて。何があったかは知らないけど、・・・嬉しい。」
微笑むクーネに見蕩れてしまうカッツ。そして意を決してお願いするために口を開いた。
「クーネ、お願いがあるんだ。君達の旅に僕も連れて行って欲しいんだ。最後までじゃなくてもいい。ただ、どうしても心配でならないんだ!」
「ちょっと、それは・・・。前も言ったけど私達の目的は・・・。」
「いいじゃない。命を助けてもらってるんだから。もしお兄ちゃんがいなかったら、目的どころじゃなかったんだよ?」
ほら穴から荷物を持って出てきたネィルに後押しされ、頷くカッツ。
「はっきり言っちゃうと不安なんだよ。まさかこんなところで命を落としかけてるのに旅をしようなんて。戦闘に関しては心配してないけど、それ以外の野外活動に関しては三人とも素人過ぎて見てられないんだよ。」
今度はカッツの言葉に頷いているネィル。
「ちょっとネィル、あなたも含まれてるんだけど?言いたい事言われてなんとも思わないの?」
「本当のことだもん。しょうがないよ。そういう意味じゃこの先野宿しないとも限らないし、お兄ちゃんみたいな人がいてくれると心強いと思うんだけどなぁ。」
はぁ、とため息をつき、困ったようにエルミスのほうを見るが、目が合った瞬間に顔を赤くして背けてしまった。
「もう、本当に途中までよ?訳ありで目的までは話すことは出来ないけど、それでも良いってことなのよね?」
「あぁ、それで構わないよ。」
「わかった・・・。じゃあ約束して。この先何が起きても、何があっても私を信じて。信じられないことがあっても絶対に信じて欲しい。」
これまでに無い、真面目で、強い口調で話す様子に驚き、唾を飲み込む。だがそれゆえにクーネの本気を知ることとなり、
「・・・わかった、約束する。何があっても君を信じる。」
力強く頷いた。そしてしばらく二人は真剣な表情で目を合わせていたが、クーネの表情が緩まり、
「オッケー。これからよろしくね、カッツ。ネィルとエルミスもそういうことで。」
「は、はい。」
「よろしくね、お兄ちゃん!」
エルミスとネィルにも認められ喜ぶカッツ。それを嬉しそうに眺めていた。
「じゃあ、この後の道案内よろしくね、カッツ。」
「あぁ、ちゃんと底なし沼にはまったり、毒にやられるようなことが無いようにしっかり案内するよ。」
そんなつもりは無かったようだが、余計なことを言ってしまったカッツ。
その一言に、スープを飲んでいたエルミスは激しく咳き込み、クーネは恥ずかしくなって
「わ、悪かったわね!どうせ沼にはまったし毒にやられたわよ!カッツのバカぁ!!」
「わ、ごめんごめん、いたた、ごめんってば!」
ポカポカと叩くクーネと、謝るカッツ。咳き込むエルミスと背中をさすってあげているネィル。
なにはともあれ、カッツが旅の仲間に加わることとなり、街へ戻るのであった。
ブロディ山岳都市へと戻る途中・・・。
道なき湿地帯を抜け、昼前に街道へ出れた一行。あとは道なりに戻るだけの道中、先頭ははカッツとネィルが並び、その後にエルミスとクーネが並んで歩いていた。
カッツとネィルは、昨晩の見張りの間にずいぶんと仲良くなったようで、今もネィルの元いた世界にある道具の話で盛り上がっていた。
だがその一方で、昨晩の一件で気まずくなり、暗い雰囲気のエルミスとクーネ。正確にはエルミスが落ち込み気味で、クーネが話しかけようにも話しかけられないでいる様子だった。
(どうしましょう・・・。謝ったほうがいいのでしょうか。ネィルさんの言うように普通に振舞えばいいのでしょうけど・・・。)
チラッとクーネのほうを見る。見ている限りでは普通にしているクーネだが、朝の様子で昨晩の出来事を覚えているのは確実である。
何度目かの、話しかけようとしたクーネと目が合い、とっさに目を逸らしてしまうエルミス。また話す機会を逃し、前にいる二人についていく。
(あぁ、もう。何をやっているんですか私は、情けない・・・。このままではクーネさんに嫌われてしまいます・・・。)
こちらから話しかけようと思うものの言葉がうまく出せない。自分が嫌になり首を横に振っていたら、
「これは独り言なんだけど・・・。」
クーネが正面を見たまま語りかけてきた。いや、独り言を言い始めた。
「あのまま流れに任せてもきっと後悔はしなかったんだろうなぁ。
仮に殺されるようなことがあってもエルミスにだったら仕方ないし。あぁ、もうこの話はしないって約束してたから、独り言じゃないと言えないけど。
それに、本音を言えばネィルに邪魔されたのは悔しいなぁ。元男として興味が無いといえば嘘になるし、むしろ男を受け入れるよりは女の人のほうが・・・。」
クーネは服の裾を引っ張られるのを感じ、足を止めエルミスのほうを見ると俯いて止まっていた。そして、
「クーネさん、あなたの独り言を聞いてしまって『ごめんなさい』」
「あ、聞こえちゃった?うん、いいよ『気にしてないから』エルミスも『気にしないで』ね?」
「・・・はい。ありがとうございます。」
顔を上げ、クーネの顔を見る。ちょっと照れくさそうに微笑んでる表情が目に写った。
(うん、大丈夫!ちゃんとクーネさんの顔を見ることが出来る。ありがとう、クーネさん。あなたには返しきれない恩を受けてしまいましたね。)
歩み始めようとするクーネだが、裾をつかんだエルミスがそのまま動かない。再び見ると真剣な表情で
「クーネさん、今度続きをちゃんとしましょうね。」
「続きって・・・、ええぇ!?」
「たしかに毒のせいでやりすぎたところはあるかもしれませんが、あの時の気持ちは本物です。」
クーネに詰め寄り、今にも顔がくっつきそうになるほど近寄る。
「ちょ、ちょっと、エルミス?続きってその・・・。」
「はい、ゆっくりと慣れていきましょう!」
「・・・え、そっち?」
呆気に取られるクーネを見て、何を考えていたのかわかってしまったエルミスは裾を離すと慌てて距離をとり、顔を赤くしながら
「な、何を考えていたんですか!?」
「いや、だって・・・、続きとか言うから、その・・・。はい、ごめんなさい。」
「もう・・・!クーネさん、ネィルさん達と少し離れすぎましたから追いかけますよ。」
立ち止まっている間もどんどんと先に進んでいたネィルたちを追いかけるために走り始める。
そして謝るクーネの横を通り過ぎるところでボソッと一言。
「それはまた別の機会です。」
通り過ぎて行ったエルミスをビックリして目で追うと、クーネのほうを振り返りながら
「急ぎますよクーネさん!」
少し舌を出し微笑むエルミス。思わず見蕩れるクーネだったが、すぐ我に返り慌てて追いかけ始めた。