20話目
落ち着きを取り戻したものの、しばらく不機嫌な感じのクーネだったが、カッツの道案内に少し不可解なものを感じ、思ったことをぶつけてみた。
「ねぇ、もしかしてどこか目的を持って進んでるの?さっきの話だとこの辺にはもうポータリーフがあるっていう話だったはずだけど?」
「うん、知っての通りポータリーフは見つけにくい植物なんだ。だから特別な場所を教えてあげるよ。」
そういうと、草を掻き分け、岩肌を確認し、辺りを見回しながら進んでいく。
カッツが「ここだ」と声を出し、岩肌の植物をどけると人一人がギリギリ通れる位の幅があり、そこを入っていく。クーネ達もそこを通っていくと岩山に囲まれた場所へと出た。
「目的地に到着です。さぁ、集めましょう。」
「ここが目的の場所なの?」
それほど広くは無いが、地面は植物に覆われ、緑がとても鮮やかな場所であった。
「実はこの一面の植物が目的のポータリーフなんです。」
「え、これ全部!?」
「すごい・・・。」
「なんと・・・。」
感嘆の声を上げる三人。カッツは満足そうに
「秘密の場所なんですがクーネ達だから特別です。どう、クーネ、少しは機嫌よくなった?」
「すごい!すごいよカッツ!話を聞いてる限りすごい苦労するものと思って覚悟してたのに!」
「ふむ、これでは修行にならないな。まぁ仕方ない、修行はまた別の機会だな。・・・さぁ、お姉ちゃん達ポータリーフ集めよう!」
ひっそりと愚痴るものの、気を取り直し作業に取り掛かるネィル。それにあわせ思い思いに採取を始める。
探して見つける手間も無く、一面に生えてるポータリーフを四人でいっせいに集め始めた結果、30分とかからずに必要量を超えて終了してしまった。
予想よりも遥かに短い時間で完了し後は戻るだけ、と言うところでカッツはネィル達から少し離れたところにクーネを呼んだ。
「ねぇクーネ、いきなりだけどまた僕と付き合ってくれないか?3年前から今までいろいろあったけど、僕はクーネを忘れたことは無いんだ。だから・・・」
「待って、その答えはまだ出せない。せめて私の目的を達成するまでは付き合えないわ。」
「クーネの目的って何?僕も手伝うよ!」
返答に困るクーネ。まさか「本当のクーネを生き返らせるため」とは言えるわけも無く、どう答えようか思考をフル回転させる。
「えっと、ね、その、手伝ってくれるというのは嬉しいんだけど、あの、そう!嬉しいんだけどカッツには無理なのよ。
ほら、目的の場所に行くには女だけじゃないとダメらしくて、男の人は来ちゃいけないらしいの。だから私達は女の子だけでしょ?」
「そんな!女の子達だけなんて危ないよ!それならせめて途中までは!」
「大丈夫よ、あの二人はああ見えてすごく強いんだから。・・・って、あ!」
自分の言葉が失言だったと思ったときはすでに遅く、カッツは目を細め、帰り支度をしているネィルたちを睨んでいた。
「もしかして、あの二人って『異界者』、なの?」
「あぁ・・・、うん、実はそう。あ、でもいい人達だよ!カッツだってここまで一緒でそれはわかって・・・。」
「関係ない!異界者と一緒に旅なんて何を考えているんだ!今すぐに逃げるん・・・」
「カッツ!!」
カッツに対し怒りと諫めを込めて強く名前を呼ぶ。カッツは口をつぐむもののクーネの手を取りネィル達からさらに離れる。その様子を感じとったネィルはエルミスに、
「気付いたようだな。エルミス、覚悟しておけ。クーネ次第ではあるが、あの男がどういう行動を取るか解らぬぞ。」
「・・・はい。」
特に慌てる様子を見せることなく、帰り支度を進める二人。だが、カッツとクーネの方はそういうわけにいかず、言い争いを続けていた。
『異界者』とは、その名の通りこの世界とは別の世界の住人なのだが、見た目は同じ容姿をしながらも、寿命は遥かに長く、秘めた力は比べ物にならないほど強い。
そして一部の国の召喚師達によって、逆らえない様に制約を施された召喚陣によって呼び出され、奴隷に近い形で使役される存在だった。
だが、それに異を唱える召喚師も存在し、対等の存在として制約無しの召喚陣を作り出し、友好を結ぼうと考える者もいた。
もっとも結果としてそれは、自分の世界の人間達が奴隷のように扱われ、まして自分の子が人体実験のごとく扱っていた者たちを惨殺する者を呼ぶ事となり、今では恐怖の対象となっていた。
その国はすでにその召喚された者、すなわち魔王バルギスによって滅ぼされ、異界者達は魔王の元に集っていたが、ジグラッドによって魔王が倒された後はこの世界の人間達に紛れ、静かに暮らしていた。
「強いってことは制約を受けずに召喚された、と言うことだろう!?危険どころの話じゃない!いつ殺されてもおかしくないじゃないか!」
「そんなこと無い!エルミス達は私の友達なんだから!」
「友達?友だって・・・?そんなわけ無いだろう!僕の父やクーネの両親を殺した奴は異界者である魔王の手下だったんだぞ!?
クーネを油断させておいて、その腹の内で何を考えているかなんて・・・!」
「っ!!?」
カッツの頬を叩く乾いた音が響いた。
掴まれていた手を振り払い、涙を流しながら睨むクーネ。強い意志を秘めた目に負けカッツは目をそらしてしまう。
「馬鹿・・・。あなた、私とエルミスが一緒のところを見たんでしょ。あの時笑いあってた私達を見たんでしょ!?あの時にあなたの目にはどう見えたのよ!
あの時の笑顔が偽りに見えたの?もしそうなら道具を見る目があっても人を見る目は最低ね。
カッツ、ポータリーフの事は本当にありがとう。でもあの二人を、私の友達を悪く言うならあなたとはここまでね。
・・・さようなら。」
首から下げられたペンダントを握り締め、冷たく言い放つと、クーネはネィル達の元へと向かう。涙を拭い、自分の荷物を背負うと
「ちょっと気分最悪だけど・・・。戻りましょう。」
「放って置いていいのか?」
「カッツなら一人でも戻れるでしょう。いいのよ、行きましょう。」
去り際に一度だけクーネは振り返ると、カッツは手を伸ばしこちらの見て何かを言っている様だったが、クーネは軽く首を振りこの場を去ることにした。
帰りはエルミスとネィルが先頭を歩き、クーネは重い足取りで後ろを歩いていた。しばらくすると休憩を取ったほら穴に到着し、
「ごめんね、私が口を滑らせたせいで嫌な思いしちゃったよね?」
「そんなことは無いぞ、どうせいつかは知れる事だろうし、むしろ街中など人の多い所と比べれば些細なことよ。」
「そうですよ。それにもし嫌な思いと言うのなら、それはそんなことではなく、カッツさんと喧嘩別れしてしまったことです。」
「そういうことだ、それほど気に病むことはない。むしろエルミスが言ったように喧嘩別れしてしまったほうが問題だな。」
ネィルが困ったように辺りを見回し、
「ここまでは何とか来たが、ここからどういう風に戻ればいいかまったくわからん。」
「えぇ!?だって、あっちにブロディオン山が見えるんだし、そこに向かえば・・・?」
「いや、おそらくそこを通るには何か問題があるのだろう。もしそれでいいのならあの者がわざわざ時間を掛けて遠回りしたりはしないだろう?」
「それもそうよね・・・。私も覚えてないしなぁ。」
エルミスのほうを見てもにこやかに首を横に振るだけであった。迷った挙句に出た答えは・・・
「気をつけて直進しよう!慌てず、ゆっくりと、ね。」
結局直線ルートを進むことになったのだった。