2話目
自分の書いた小説の世界に来ちゃった?
「ふ、はははは。面白いじゃないか。夢なのか現実なのかわからないが、ここがアースランドと言うならこの世界の誰よりも世界のことを知ってる、この世界を作った神ともいえる俺が・・・。」
そこで完全に眠りにつく直前に思い浮かべていたことが明確に思い出した。
(そして平和な日常の中に襲ってくる非日常、実は村民の中には・・・。中には・・・何がいるんだろう?
そうだ、村民の中の村娘に神が乗り移って世界を見て周り、今まで出てきたキャラたちと出会い、そして帰るという感じの短編はどうだろう?あまり面白くない設定だけどすこしハメを外した話が作りたいな。)
「まさか自分の足で話を作ることになるとは!いいさ、夢でも現実でも!ここでの出来事を全部話にしてやる!経験こそが何物にも勝る資料!そうと決まれば・・・。」
自分の体を軽く叩きながら持ち物を確認する。しかし
「まいったな、何も持ってないじゃないか。少なくともメモ取るための道具は欲しいぞ?」
その場にまた座り込み、どうするか悩むが何も思いつかない。
「何か買うにもお金も無いしな。この世界でお金稼ぐとしたらギルドでクエストなんだが、今の俺は村娘って設定だしなぁ。あぁくそ!神といっても何も出来ないじゃないか。いつもならこう、ノーパソで打ち込めるんだがな。」
そんなことを言いながら、何も無い空間でいつもの執筆作業のようにキーボードを打つしぐさをしてると、突然半透明のキーボードとモニターが出現する。
「は?何だこれ。まさか設定打ち込めるのか・・・?」
半信半疑ながらも試しに『設定:神の乗り移った村娘の持ち物にリュックと金貨100枚』と打ち込んでみると
「うお!」
突然背中にリュックが現れ背負っている。それをおろし中身を見ると金貨が大量に入っていた。
「そういうことか、あのキーボードで設定いじればそのとおりになるのか。なら、まずはどこまで出来るのかいろいろ試しておかないとな」
倉田は再びキーボードを思い浮かべると目の前に半透明のキーボードが現れる。
「思い浮かべればでてくるのか、よしよし。」
満足気に頷きながらキーボードを叩く。
「そうだな、まずは自分の設定をいじっておかないとな。」
寝る前に思い浮かべていた村娘の設定では、特殊な能力も何も無い文字通りの村娘、で考えていた。
「とりあえず可能かどうかはわからないがこれだけは設定しておかないとな。」
『設定:神の乗り移った村娘は不死身』と打ち込み決定させる。
「・・・、特になにも・・・おきないか。とはいえ自殺してみる気のもならないからとりあえずはこれで良しとしておこう。さすがにこの世界で死にたくは無いからな、」
それから倉田は今の自分自身である村娘にいろいろと設定を加えていく。
それこそ、いわゆるチートステータスともいうべき設定を付け加えていき・・・、
「んー、これでただの村娘、は無理があるなぁ。主人公のジグラッドよりはるかに強いぞ?」
ジグラッド・ヘイブン。アースランド・ファンタジーの主人公でこの世界の魔王を倒した勇者、熱血勇者で考えるよりも先に体が動くタイプ。
事実上この世界においては最強と呼べる存在である。魔王討伐後は冒険者として作品のヒロインであり、仲間であったティア・ヴィアリーと旅に出て終了となっていた。
「この世界がアスファン終了後の世界ならいつかジグとかにも会えたりな。自分の作ったキャラとの会話なんてどうなるか楽しみだ。っと考えがすれたな。」
再び「うーん・・・」と悩み始め十数分、
「アスファンの設定らしくありがちで行こう!自分の中にスイッチ作ってオンにしない限りはただの村娘と変わらないということにすればいい。」
『設定:神の乗り移った村娘の強弱変更可能』
決定を押した瞬間に頭の中にONとOFFの描かれたスイッチがイメージされる。それを思い浮かべて不意に鼻で笑い。
「我ながらこの想像力の無さよ・・・。」
ため息一つ。「まぁいい」と気を取り直して伸びをするとあたりが暗くなり始めていることに気付いた。
「おっと、だいぶ没頭してたっぽいな。さて、これからどうするか・・・。」
立ち上がりきょろきょろと見回す。変わらず見渡す限りの草原、遠くには山・・・。倉田はそこで何かを思いついたようにキーボードを叩く。
決定を押すと目の前に小さな小屋が突然出現し、倉田はその中へと入っていく。
「なるほど、リュックが出来たから可能だとは思ったけどやっぱり出来るのか。」
先ほど設定で『目の前に小屋がある』と打ち込んでみた結果である。こうなると今度は世界そのものの設定をいじり始めたくなる。
「そうだな、まずは天気を変えてみるか。」
倉田は小屋の中に設置されていた椅子に座り、テーブルの上にノートパソコンのようにキーボードーとモニターを出現させる。
『設定:ソーグ草原、天気、雨』
決定すると夕焼けでオレンジに染まっていた空が曇天に変わり、程なくして少し強めの雨が降り始める。それを確認すると先ほど決定した設定を消去してみるものの雨は降り続けていることに「あれ?」となる。
「雨が止まない?消去ではダメなのか?」
改めて設定で草原の天気を晴れに決定すると、雨はすぐにやみものの数分で先ほどの夕焼け空が戻ってくる。
「なるほどなるほど。ならば今度は生き物はどうだ?」
『設定:ソーグ草原の小屋の周りに狼2匹』
決定を押してから小屋の外へ出てみると確かに狼が2匹、徘徊していた。倉田は先ほどの脳内イメージのスイッチをOMに入れて狼の方へと近づいていく。
近づく存在に気付いた狼はそれに対し威嚇するが、倉田はそのままゆっくりとさらに近づく。
1匹の狼が倉田へと駆け出しその勢いのまま飛び掛るが倉田はそれを軽く避けた。飛び掛った狼が着地するとほぼ同時にもう一匹の狼も飛び掛ってくるがそれも難なく避ける倉田。
再び襲い掛かってくる狼に対し、今度は避けずに腕でガードすると、狼はその手に噛み付き、喰いちぎろうと大暴れし、もう一匹も倉田の足へと噛み付く。
「うーん、設定はちゃんと生きてるみたいだなぁ。全然痛くない」
喰いちぎろうと暴れている狼たちだが、その牙はただの村娘の柔肌にしか見えないその手足を貫通どころか刺さってすらいない。
倉田は噛まれていない左手で、右手に噛み付いている狼の首をつまむとそっと引き上げる。何の抵抗も無く右手から離れた狼の顔を自分の目の前に持ってきて微笑を浮かべると、ほんのちょっと力を入れて地面に叩きつけた。
「ギャフッ!!
断末魔が聞こえピクリとも動かなくなる狼。足に噛み付いていた狼は、その足を離しその場から離れるようにすぐに駆け出すが、それよりも速い速度で倉田に回りこまれる。
狼は震えながら尻尾を力なく垂らせてその場に伏せの状態となり、おびえた目で倉田を見つめていた。それを見た倉田はふと何かを思い付きキーボードを出して設定をいじり始める。
「すまんな、ちょっと試したいからそのままおとなしくしてくれよ・・・?」
『設定:神の乗り移った村娘が殺した狼が生き返る』
『設定:神の乗り移った村娘は全ての生き物の言葉が理解でき、全ての生き物に対して語りかけることが出来る』
決定を押すと、先ほど叩きつけられた狼が逆再生のように元に戻っていき、
「お兄ちゃん!!」
目の前に伏せていた狼から言葉が聞こえる。
「ごめんな、あそこまでする気はなかったんだ。」
「え!?何で人間が何言ってるかわかるの!?」
目の前の狼が驚いたように倉田を見つめ困惑する。
「うん、ちょっと君たちと話せるようにしてみたんだ。」
その言葉に目の前の狼は生き返った狼と倉田を交互に見るが、恐怖からなのか、再び伏せた状態になる。
「あぁ、落ち着いてくれ、何もしない。そっちの狼も歩けるようならこっちにきてくれ。」
呼びかけると生き返った狼の驚愕が伝わってくる。一瞬戸惑ったものの、倉田の目の前にいる狼を見つけたとたん一気に駆け出し、倉田の目の前まで来ると伏せていた狼と倉田の間に入りうなり声を上げる。
「どうなってるが知らないが妹には絶対に手を出させない!!」
「その妹さんにも言ったが何もしないから落ち着いてくれ。」
「!!何者だお前!?」
今にも飛び掛りそうな兄狼に対し、動くなとばかりに倉田は左手を前に出す。
「何もしないといったろ?ちょっと聞きたいんだが君たちはどこから来た?」
倉田は出現した狼がどうやってきたのかが少し気になっていたので、話せるようになったついでに聞いてみた。その質問に対して兄狼が
「・・・、どこといわれても困る、俺たちは仲間たちと普通に草原を歩いていたら急に真っ暗になって気付いたら妹以外の仲間がいなくなってここにいたんだ。」
「そうなのか。元の場所に帰り・・・たいよな、やっぱり。」
「もちろん帰りたい!ここヤダ、あなた怖い!」
倉田の言葉におびえて伏せていた妹狼が叫ぶ。これにはさすがに倉田も罪悪感が出てきて、
「だよな、できるかわからないが元の場所に返してあげよう。」
「ほんとに!?」
「ほんとか!?」
兄妹の声が重なる。倉田はキーボードの出し設定を打ち込み決定を押そうとしたところで動きを止め、
「もう一つ聞きたいんだが、俺の手のところに何があるか見えるか?」
「いや、何もないが・・・。」
「そうか、ありがとう。すまなかったな。」
倉田は決定をすると目の前の狼たちが一瞬で消える。
「これは周りには見えてないのか・・・。そして設定で出現させた生き物は召喚に近い形ということか。」
そこで倉田は、もしいるはずのないものを出現させてみたらどうなるのだろうと気になり、少し緊張をしつつある人物の名前を設定してみる。
『設定:ソーグ平原に沖田隆が出現』
決定を押した瞬間にその項目は消えてしまった。再び同じように沖田の名前を打ち込むもののやはり実行されずに消えてしまうのみだった。
「ふぅ、やっぱりこれはダメだったか・・・。夢かどうかは別にして現実の世界は巻き込めないってことか?」
つい舌打ちをして空を見上げる。もう日が落ち星が瞬き始めていた。
「とりあえず寝るか・・・。」
小屋へと戻り、質素なベッドでシーツに包まり目を閉じると、あっという間に眠りに落ちてしまった。
続きは多分明日投稿します