15話目
夜が明け3人は宿を発ち、目的地へと向かう。道中もネィルの指示のもと修行と勉強を繰り返し、途中湿原の宿場で一泊を過ごし、昼過ぎにブロディ山岳都市へと到着した。
ブロディ山岳都市はブロディオン山を挟んで北と南にそれぞれ生活の場があり、トンネルによって繋がっている。
雲より上までそびえるブロディオン山を越えるのは容易ではなかったためにトンネルの作成が決定され、開通後は作業員たちの休憩場がそのまま発展していった都市である。
クーネたちはひとまず宿を取ると、冒険者ギルドへ向かい、登録を済ませることにしたのだが、ギルドの入り口まで来るとクーネが立ち止まった。
「どうしました?クーネさん。」
「いえ、ちょっと、ね。」
物語を書いていたころ、こういう場面ではお約束としてほぼ確実にトラブルを発生させていた。それを思い出していたクーネは、不安を抱えギルドの中へと入る。
登録申請時にネィルが不思議がられたが、受付嬢が三人を見比べ何かを察したように手続きを終了させる。あとはギルドカードの発行を待つだけなのでしばらく雑談をしていたのだが、そこに一人の男性が駆け込んできた。
クーネは内心で「あぁ、やっぱり」と思いつつその男性の方へ視線を向け、様子を伺っていると意外な言葉が飛び出した。ジグラッドがこの都市に来ているというのだ。その報告にギルド内は騒然とし、三人は顔を見合わせ、
「あれ、もしかしてもう目的達成できそう?」」
「良かったじゃないですか、クーネさん!早く行ってみましょう。」
タイミングが良いのか悪いのか、ちょうどギルドカードの製作が終わり、いろいろと注意事項などの説明があったのだが、受付嬢も早く行ってみたいらしく、本来30分はかかるところを10分程度で済まされてしまった。
仕事の適当振りに少々呆れつつもカードを受け取った三人はギルドの外へと出る。ギルド前の通りは魔王を倒した勇者を一目見ようと駆けている人々、その波に乗りクーネたちもジグラッドがいるであろう場所へと導かれる。
流れに任せてしばらく進むと、波の勢いが弱まり、先のほうには人だかりが見え、その中心には一人の青年がいた。その青年を目にしたとき、クーネの胸が高鳴る。
「あ、どうしよう。ジグに会えると思ったらなんかすごいドキドキしてきた・・・。」
「ほう、見えるのか。ちょっと肩に乗らせてもらうぞ。」
ネィルはクーネの肩に飛び乗り、立ち上がって人だかりの方を眺めてみると、群がる人々を少々鬱陶しい表情でみている青年の姿が見えた。
その姿を確認し納得すると肩から飛び降り、
「こんな状況では見えるだけで何も出来ないだろう。しばらく時間を潰して、落ち着いてから会いに行ってはどうだ?」
「そ、そうね・・・。話も出来そうに無いし、後で会いに行くとしましょう。」
少し残念に思いながらも仕方がないと、宿へ戻った三人はこの後のことを話し合った。
ジグラッドと言えど夜は宿に泊まるのだから、そのときに贈り物を渡す。侵入に関してはネィルがやたら乗り気だったので任せると言うことになり、情報を集めつつ夜を待つことになった。
ジグラッドがここに現れた理由は魔王を倒したあとの世界を見て回る、諸国漫遊の一環。特にこの先にあるルマー村は勇者誕生のきっかけの場所。一度は訪れなければ、と向かう途中だったらしい。
そして泊まるであろう宿も調べ、結果侵入する必要が無くなったことも判明した。運命的なことなのか、クーネたちが取ったあとに、ジグラッドも同じ宿を取っていたのだ。
その事実にクーネはさらに緊張し、せわしなく部屋の中を動き回る。それを見ていたエルミスが思わず
「クーネさん、恋する乙女のようですね。ジグラッドさんのことがお好きなんですか?」
と尋ねた瞬間「ふぇっ!?」と変な悲鳴とともに顔を真っ赤に染め上げるクーネ。手を大きく振りながら全力で否定しつつ
「い、いや。私の作った物語の主人公だよ!?作者がその物語の主人公に会えるなんて夢のようじゃない!そ、そのせいで緊張してるだけ!!」
決してこれはそういう気持ちなんかじゃない、と否定するものの、村を救ってくれたジグラッドに憧れていた記憶があるのもまた事実。エルミスのおかげでいっそう部屋の中を動き回る羽目になり、その様子を見てネィルは笑い転げていた。
日が落ちてもジグラッドが泊まっていると言うことで宿の前にはたくさんの人がいたが、営業妨害になると宿の主人に衛兵を呼ばれ、しばらくすると落ち着いてきた。
そして宿の1階にある食堂も注文の受付が終わり客がいなくなったころ、
「じゃ、じゃあ、行ってくるね・・・」
クーネはそういい残し贈り物を手に部屋を出て行く。その姿をエルミスは心配そうに、ネィルは楽しそうに見送った。
ジグラッドが取った部屋、一人にも関わらず特別に四人用の大部屋を借りた部屋、の前に立ち、緊張をほぐすためにゆっくりと深呼吸をする。そして、何度か躊躇しながらもゆっくりと扉をノックした。
返事はしなかったが、部屋にいるのはネィルを通じて確認済みなので、もう一度ノックをして、
「失礼します。ジグラッドさん、私、ルマー村から来たクーネ・ネーハと言います。ご迷惑じゃなければお会いしていただけませんか・・・。」
しばらく待つものの、やはり返事は無く、肩をがっくりと落とし自分の部屋に戻ろうと歩き出した時に、扉の開く音が聞こえ、
「あぁ、すまない、少し寝ていたようだ。ルマー村からだって?どうぞ中に。せっかくだし話を聞かせてくれないか?」
「・・・!は、はい!」
半分あいた扉には、寝ぼけ眼のジグラッドの姿。それを見たクーネは心臓が飛び出すぐらいに胸が高鳴り、誘われるがままに部屋の中へと入る。その後でジグラッドが下卑た笑みを浮かべ、扉を魔法でロックをしたことに気付かずに・・・。
ジグラッドが椅子に座り、テーブルを挟んだ反対側に座るように促されるが、椅子の所まできて、
「あ、あの、ジグラッドさん!魔王の討伐お疲れ様です!そして以前は村を救っていただき、本当にありがとうございました!」
深々とお辞儀をする。
「ははは、ありがとう。どういたしまして。さ、座って。」
「はい、ありがとうございます!」
その後、救ったあとの村はどうなったか、とか、何故ここに来ているのかなどをジグラッドに説明し、贈り物を無事渡すことが出来た。
ジグラッドは受け取った贈り物をテーブルの上に置き、クーネをじっと見つめ、それに気付いたクーネは恥ずかしそうに目を伏せるのだが。
「クーネ、と言ったっけ?ごめんね。あの時は俺が遅れたせいで君の両親を助けられなかった。本当にごめん。」
「い、いえそんなことは!!」
伏せていた目を上げ、ジグラッドと再び目が合い、今度はお互いに見つめあう。しばらく見つめ続けていた二人だが、徐々にクーネの目が虚ろになっていき、
「さぁ、少し休むといい。」
「はい・・・、ジグラッド、さま・・・。」
クーネはふらふらと進み、ベッドに腰掛ける。ジグラッドはクーネの肩に手を掛け軽く力を入れると容易に倒れ、その上にのしかかって来る。
「あっ・・・、ジグラッド・・・さ、ま・・・?」
「君にはつらい思いをさせたからね。もう寂しくないようにしてあげるよ。さぁ、力を抜いて・・・。俺に身をゆだねるんだ・・・。」
「は・・・い・・・。」
クーネの顔をジグラッドはゆっくりと撫で、その手は愛しそうに両手で包まれる。ジグラッドはクーネの首元に顔を近づけ、徐々に下げていき胸に顔をうずめると小さい悲鳴がクーネの口から漏れるが抵抗はしない。
それを確認するとジグラッドは慣れた手つきで両手を胸の膨らみに這わせ、ゆっくりと揉みあげていく。そのたびにクーネから小さい声が漏れ、顔が紅潮していく。
片手で胸を触りながらもう片方の手でお腹、下腹部と来て服の中に手をいれ、今度は直接胸を掴み、それでも抵抗が無いことを確認するとそのまま一気に服を脱がせる。露わになった胸にジグラッドは満足そうに微笑み、再び胸を弄び始める。
しばらく胸の感触を楽しんだジグラッドは、ズボン越しにお尻をなで上げ、腰に手をやりズボンを脱がそうとして
「そこまでにしておけ、それ以上やると貴様、死ぬぞ?」
突然の声に驚き、振る向くと扉のところに立っているネィルとエルミス。
「貴様ら!何故この部屋に!!」
「何故も何も・・・。普通に魔法解除して、普通に入っただけだが?さて、ゲルグムよ、悪いことは言わん、そいつを解放してくれぬか?」
「な、馬鹿な!?何故俺のことを知っている!!一体何者だ!」
「こんな姿だが、お前が仕えていた魔王よ。とりあえずこれを見れば少しは信じるか?出ろ!ロストエナジー!」
召喚された大剣を片手で掴み、切っ先をゲルグムと呼ばれたジグラッドに突きつける。
「そ、その剣は・・・!?まさか本当にバルギス様・・・?いや、バルギス様はジグラッドの奴に・・・。」
「うむ、殺されたな。だが生き返った、それだけのことよ。」
簡単に言い放つネィル、だがゲルグムの受けた衝撃はいかほどのものか。
「今一度いう。その娘を・・・。」
「黙れ!主のいなくなったその剣を奪い、果てはバルギス様の名を騙るなど許せぬぞ!!」
「いい加減にしなさい!バルギスが娘、エルミスの名において、この方は本物のバルギスであると証明します!」
「な、ん・・・!え、エルミス様!!」
ネィルの方にばかり目がいき、その横にいたエルミスの顔にはまったく気に留めてなかったゲルグムだが、名乗られ、改めてエルミスの姿を見てさらに驚愕する。
「おぉ、エルミス様・・・。よくぞご回復を・・・!ならば本当にその小娘がバルギス様と・・・?」
「まぁ、今は訳あってネィルを名乗っているが本物だ。そして私の復活とエルミスを回復させた者こそが、今お前が襲おうとしている、そこのクーネよ。」
「理解しましたか?クーネさんに何かあっては私たちが許しませんよ・・・?」
ネィルの殺意とエルミスの冷めた瞳に睨まれ、ゆっくりとクーネから離れるゲルグム。剣を消し、クーネのそばによると静かに寝息を立てていた。
「ふむ、少々戯れが過ぎたな。遅れてすまなかった。まさかこんな簡単に『魅了の瞳』に落ちるとは思わなかったものでな。」
「まったくです!もし事が起きたあとでしたら許さないどころじゃ済みませんよ!」
お怒りのエルミスに苦笑を浮かべ謝るネィル。その様子をゲルグムは戸惑いつつもネィルにどういうことかと尋ねた。
「そうだな。クーネを部屋で寝かしたらゆっくり説明してやろう。どうせ朝まで目覚めぬのであろう?」
エルミスが扉を開け、クーネを持ち上げたネィルに道を譲り、ゲルグムにはジグラッドへの贈り物をちゃんと持ってくるよう言いつけ部屋へと戻るのだった。