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14話目

 日も落ち始め、ネィルが部屋に明かりをともそうとした時、ふと気になったことがありクーネに魔法はどの程度使えるのか質問したところ、


「え、使えるわけ無いでしょ?使えるなら使ってみたいわよ・・・。」

「何?この世界を生きるものにとって最低でも『着火』と『治癒』は使えると思うのだが、そこまで適正がないのか?」


 ネィルに言われ、クーネはハッとなる。物語の中では村人でも最低限の生活として火をつけるための『着火』の魔法と擦り傷などの軽い怪我を治すための『治癒』は生きていく上で自然と覚えているように設定していた。

 記憶を掘り起こしてみると、確かにクーネは村での生活の中でこの二つを使っている。クーネはネィルから燭台を受け取り、記憶の中にある通りに『着火』の魔法を唱えてみると、いとも簡単に明かりが点った。


「すごい!魔法!私、魔法使えたよ!」


 ネィル達からすれば、何でこんなに大騒ぎするのかわからなかったが、クーネからすれば、この世界で初めてファンタジーらしい事を自分で出来たことに感動していた。

 そもそも、元の世界では魔法なんて物は無いのだから、使ってみようと言った考えすら持たなかった、いや、持てなかったのだ。

 魔法が使えたという事実は、クーネにこの世界に来たばかりの頃の好奇心を思い出させてきた。

 今までの疲れは吹っ飛び、ネィルに少し魔法の練習をさせて欲しいとお願いし、エルミスも付き合う形で宿の外へと出た。

 薄暗くなり始めている時間に外へ出るという行為を宿の主人に注意されたが、クーネの好奇心は止められない。「大丈夫です。」と言うとそそくさと外に出て行ってしまった。少し遅れてきたネィルに


「確認のために聞きたいんだけど、この世界の魔法って自分の魔力を消費するものと、他者と契約して力を借りる形で使うもの、で合ってるよね?」

「うむ、自分の魔力を使うものは知識と実力が伴っていれば魔法の名前を唱えるだけでよい。

 契約する魔法はわずかに自分の魔力を使い、その魔力を言葉に乗せ詠唱として語りかけるか、あるいは陣を描き合図を送り、契約者から力を借り受けて実行する。」


 クーネは大きく頷いた。魔法の発動設定は物語の中と同じと言うことを確認すると、クーネは意識を集中させる。そして


速度上昇アクセル!」


 身体速度上昇の魔法を唱えると、体全体が軽くなり、宿をまわる様に一周してみる。昼前の運動の時にも同じように走ったが、今回はその時の半分の時間で周ることができた。


「あははは!すごい、魔法使えるんだ!ネィル、エルミス!見て、私、魔法使える!」


 跳躍力上昇の魔法と身体強化の魔法も重ねがけして大きくジャンプしながら声をかけるクーネ。戻ってきたクーネにネィルは再びどの程度の魔法が使えるのかと質問をしたところ、返ってきた答えは


「多分だけど、知識はあるから魔力次第でほぼ全ての魔法が使えると思う。さすがに契約しなきゃいけない魔法は無理だけどね。」

「なんだと?」

「知っての通り、この世界は元の世界で私が物語として書いていたでしょ?全ての人々の生活には目を向けるようなことは出来なかったから、設定に無かった語られていない世界の歴史はわからなかったけど、魔法は設定を作ってから物語に登場させていたから、私がここにいる以上新しい魔法と言うのはそんな簡単は生まれないと思う。ただゼロとも言えないから『ほぼ』をつけたんだけどね。」


 確認の為にと魔法に関するネィルが知っている限りのことを尋ねると、ことごとく答えを返してくるクーネ。中には魔王であったころに、オリジナルとして編み出した魔法すらも言い当てたことに驚かされたりもした。

 だが、それと同時に思いついたことがあり、それを提案してみた。


「ならばクーネよ、無敵モードの時には魔法で戦ってはどうだ?とはいえ、普段からそのまま、と言うのは避けるべきと言うのは変わらぬがな。」

「そうか、魔法が使えるならその手もありね。」


 この世界の魔法には同じ魔法でもレベルが存在し、どんなに魔力が強くても制限がかかってしまう。術者の魔力によって威力の強弱はもちろんあるが、一定以上の魔力を持っているならば魔法の最大効果値は頭打ちとなり同じ効果になる。

 それ以上の効果を求めたいのならば。魔法のレベルを上げて最大効果値の上限を引き上げるか、あるいは同系統の上位魔法しかないのだが、逆に言えば使う魔法のレベルを抑えれば威力を抑えることができる、と言うことなのである。


「いくつか例外はあるけど、それは気を付ければいいワケだし・・・、うん、何とかなりそう!」

「ならばまず試してみるとしよう。クーネよ、私に『マジックアロー』を切り替えて打ち込んでみろ。」


 自らに身体強化と魔法防御強化の魔法を掛けクーネの魔法に備える。

『マジックアロー』は攻撃魔法の中でもっとも基本で、それだけに威力もそれほどではないが、使う者が使えば人一人を無力化できるだけの威力はある。

 クーネはまず通常の状態でネィルへと魔法の矢を放ってみるが、その矢はネィルの魔法防御の高さのためか、当たる手前で消滅してしまった。

 続いて無敵モードに切り替え、同じように矢を放とうとするが、出現した矢がすでに先ほどとは違い、矢と言うよりも投擲槍ほどの大きさがあった。

 放たれた槍は一直線に向かっていき、ネィルは少し驚いた表情をしつつ、その槍を防ぐように手を前に突き出す。その手と槍はしばらく力比べのように押し合っていたが、ネィルが手首を返し押し合う力を受け流すと、槍は空へと消えていった。


「今ので全力だったのだな?」

「うん。手加減無し。でもなんか本来の最大威力よりも上のような・・・?」

「ふむ、マジックアローであの威力とはな。どうやらそのモードでは魔法の方も少々例外らしい。とはいえ、全力であの程度ならば十分抑えられていると見るべきか。」


 その後もいろいろ試してみたが、どれも少しだけ最大効果を上回っていた。しかし、もう日が落ち辺りも見渡せなくなるほどに暗くなっていることに気付き、そこはもう妥協するしかないと言う結論になったのだった。


「でもよかった、これで何とかなりそうね。設定の方は様子を見ながら直してみる。」

「そうだな。また暴走でもされたら困るからな。しかし、その知識量はさすがに神と言うところか。いや、神はもう名乗らないのだったな。ならば・・・、ふむ、セイジなのだから『知識深き賢人』、賢者様といったところか?さすがセイジ様だ。」

「待って、それは本当に偶然!お願いだからそういう意味で呼ぶのはやめて。本気で恥ずかしい・・・。」


 恥ずかしさで顔を伏せるクーネを、笑いあうネィルとエルミス。

 振り返ればいろいろあった1日だったが、三人は穏やかな気分で眠りに付くことができた。

 そして、みんなが寝付き数時間ほど経ったころ、クーネは起き上がり部屋の窓を開け、空を見上げる。そこには雲ひとつ無く、月が綺麗に輝いていた。

 クーネは両手を胸の前で組み、目を閉じ月へ祈りをささげる。


「私は一人じゃない。みんなとまだ一緒にいられる。これからも楽しい日々が続きますように・・・。」


 その光景を、ネィルが薄目を開け見ていたのだが、クーネが気付くことはなかった。


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