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13話目

 しばらくすると遠くに建物が見え始め、ネィルが速度を落とすとそれに合わせて二人もゆっくりになる。


「さぁ、もうすぐだ。クーネは元の状態に戻ってくれ。ここからは普通に歩くぞ。」


 宿場に着くと、4人部屋を借りることができた。

 この時期はあまり人の出入りが無いらしく、暇で稼ぎが無いので一人一部屋でどうです?と言われたが、それは丁重にお断りした。


「では一つ修正をしよう。クーネの修行はまず精神を重点的に鍛えることにする。」

「精神を鍛えるって・・・、どんなことするの?」

「そうだな、簡単なところからいこう。この炎は約1時間ほど灯り続ける。それを消えるまでずっと見続けて集中力を養う。さて、エルミスは表だ、行くぞ。」


 部屋に置いてあった燭台に青白い炎をともし、そうクーネに指示するとエルミスを伴い部屋の外へと出る。

 食堂へと向かい、そこで飲み物を2つ頼み、適当なテーブルへエルミスと向かい合わせに座ると


「クーネの欠点は精神が弱すぎることだな。本来のクーネの記憶に引っ張られ、トラウマに敏感になりすぎてるところがある。」

「それは・・・、仕方の無いことなのではないのでしょうか?トラウマとはそういうものかと思うのですが?」

「そうなのだが、今のクーネ、つまりセイジにとって所詮は他人の思い出。あそこまで反応するものなのかと思ってな。」


 会話中に主人が持ってきてくれた飲み物に口をつけ、喉を潤し、ため息を一つ、


「まったく、クーネとして生きろ、とは言ったがあそこまでなりきるとは思わなかった。あれではクーネそのものではないか。」

「それは別によろしいのでは?クーネさんが無事に生き返った時、知ってる方々が違和感を感じないようにしたい、との事。完璧にクーネさんを演じているのなら問題ないと思うのですが・・・。」

「お前はそう考えるか。クーネと言う娘のことを考えればそれもいいだろうが、それではセイジと言う存在を少々軽視しすぎてる。」

「いえ、そのようなことは・・・。申し訳ありません・・・。」


 落ち込むエルミスに、気にするなの意味を込め手を振りつつ、再びため息を漏らす。


「しかし、1つの体に2つの記憶があるというのがこれほど面倒だとは。まったく余計なことに巻き込まれたものだ。」

「二重人格、みたいなものでしょうか?」

「少し違うな。二重人格ならば、それぞれの人格に対応すればよいが、これはクーネと言う体にセイジと言う人格がクーネの記憶を元に、えぇい、ややこしい・・・。

 いや、まて、クーネの体にクーネの記憶を持ったセイジ・・・?それは・・・、いや、まさかな・・・。」


 急に考え込んでしまったネィルを心配そうに見つめるエルミス。


「なにかお気付きのことでも・・・?」

「あ、あぁ。い、いや、まだ不確定要素が多すぎてな。確証が持てん。この件は後で話そう。さて、クーネの様子を見に戻るか。」


 残った飲み物を飲み干し、ネィルは席を立つ。エルミスも慌てて飲み干し後を追った。二人が部屋に戻ると、そこにはオレンジ色に灯った炎の横で倒れているクーネの姿。

 ネィルがオレンジ色の炎を手で掴み消すとその手がほんのりと光を持ち、クーネの額へと近づける。手の光はクーネの額、そして頭へと移り吸い込まれるように消えていく。


「ん、うぅん・・・。あ、あれ。何で私寝て・・・?」

「真面目にこなしていた様だな。あの炎は『メンタル・ドレインフレイム』。瞳にあの炎を映し続けている間はその者の魔力、すなわち精神力を吸い取り続け蓄積させていく。強く見つめればそれだけ吸収も激しくなる。」

「あぁ、なるほど、思い出した。なんか急に眩暈がして、しばらくは耐えていたんだけど・・・。そこからの記憶がないわ・・・。」


 頭を振り意識をハッキリさせつつ立ち上がるものの、まだ少しふらついている。


「どれくらい倒れちゃってた?」

「20分と言ったところか。これをさっき言った1時間見続けても倒れないくらいを目標にしてもらおう。さて、精神の次は軽く体を動かすぞ。エルミス、お前が相手してやれ。」

「え、私ですか!?ネィルさんもご存知のように私はあまり体術の方は・・・。」

「わかっている。だからお前なのだ。一緒に鍛えてやる。」


 ネィルにとっての『軽い』運動をし、昼を少し回ったころには食堂のテーブルに突っ伏しているクーネと、それを心配そうに見つめるエルミス、そしてネィルは運ばれた料理をクーネに差し出し、


「とりあえず何でもいいから腹に入れておけ。このあとはお勉強の時間だ。」

「お、鬼教官・・・。」

「鬼ごときと一緒にするな。忘れたのか、我は魔王ぞ?望むのであればさらに厳しく鍛えてやってもよいぞ?くっくっく。」


 もはや文句を言う気力も無いクーネは目の前においてあるパンを取り、一口サイズに千切り、スープに少し浸して口に運ぶ。数分かけてパン1個を平らげ、再びテーブルに突っ伏したが1分と経たずに、


「ほれ、休憩は終わりだ。それとも引きずられていくのがお望みか?」

「あーもう!わかったわよ!行きますよ!」


 勢いよく立ち上がり、二人を置いてさっさと部屋に戻ってしまうクーネ。ネィルは苦笑を浮かべ、自分の分の食事を平らげ部屋へ入ると拗ね気味のクーネ。ちょっと遅れてエルミスも戻り、勉強が始まる。

 勉強と言っても、これはどちらかと言うとエルミスの為のようなものであり、この世界を作った知識のあるクーネには知っているものばかりだったのだが、不思議なことにいくつか知らないことがあった。

 ネィルに尋ねてみて、少しびっくりされたもののちゃんと答えてくれて、そして納得した。


「そうかぁ、あくまで私が知っているのは物語として語られてる部分だけであって、そこで語られていない部分でもいろいろあった、と言うことなのね。

 薄々思っていたことだけど、『この世界を作ったから全て知っている』というのはこの世界に来るまでのことであって、ここに来た私は『すごい物知りな人』と言ったところなのかな?

 参ったな・・・。そう考えると実は私って、神様とか偉そうなこと言える存在じゃないってことじゃない?なんか神とか名乗ってた自分が恥ずかしい。もう言わない・・・。」

「自分で自分を神と言うやつにろくな奴はおらん。そこに気付けるだけお前は救いがあるというものだ。とはいえ、神のごとき力をもっているのも事実。そこは気をつけねばな。」


 先の無敵モードのめちゃくちゃ設定をここでも指摘され、少し後悔するクーネ。しかし今は変えられない以上なんとか制御するしかないと気合を入れた。

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