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11話目

 クーネが眠ってから数時間後・・・


「う、ん・・・、ここは・・・?あれ、この天井!!」


 起き上がり見回すと見慣れた部屋。元の世界で暮らしていた場所である。


「え!?戻ってこれた!?あ、でも私は私のままだ・・・。」


 胸に手を当て、柔らかな感触をその手に感じ、少し落ち込む。

 ベッドから降り、寝室を出るとソファーにもたれかかりあいながら仲良く寝ているネィルとエルミス。テーブルには『アースランド・ファンタジー』のコミックが13巻まで置かれていた。


 二人を起こさないように忍び足で通り過ぎ、そっと扉を開け外に出る。そこは夜のおかげで薄暗いが、先ほどまでいたソーグ森林の洞窟の場所であった。振り返ると自分が出現させた小屋、そして小屋の扉を抜ければ元の世界で自分が住んでいた場所。


「そういうことね。なんか無意識に内装を一番自分が落ち着く場所に設定しちゃったみたい・・・。」


 自分のしでかしたことに苦笑いする。穏やかな夜の風がクーネを撫で、その少し冷えた感触が気持ちいい。なんとなく中に戻る気分になれず、小屋に寄りかかるように地面へ座る。お尻に伝わる土の冷たさも心地よかった。


「もう大丈夫なのか?」


 突然投げかけられた言葉に驚き、声の主の方を見ると、いつの間にか隣にネィルが立っていた。


「脅かさないでよ・・・。うん、もう大丈夫。」

「そうか。しかし、これはすごい物だな。これがセイジがいた元の世界なのか?」

「あはは、まぁそういうこと。でも忘れてくれると助かるかな?本来この世界にはあるはずの無いものだからね。」

「ふむ、それは残念だ。いろいろ便利そうだったのだがな。」


 口ではそう言いつつも特に残念そうでは無い表情でつぶやく。そしてお互い無言のまましばらく時が過ぎ、


「クーネよ、少しセイジと話したいことがあるのだが入れ替わってくれるか?」

「え?別にいいけど・・・。このままでも変わらないんじゃないの?私はセイジでもあるんだし。」

「頼む。」

「わ、わかったわよ・・・。」


 何か腑に落ちない、と言った感じで返事をしつつ、そっと目を閉じ、スイッチを切り替え


「で、何でわざわざこんな真似させたんだ?」

「セイジに聞きたい、お前にとって『クーネ』とはどんな存在なんだ?」

「は?」


 意味がわからない、と言った表情。


「何故そんなことを聞く?そんな質問なら別のそのままでも問題はなかったと思うんだが・・・」

「答えてくれ、セイジ。何故お前はあそこまでクーネに執着する?それほど思い入れずにいれば暴走するようなこともなかっただろう。

 しかし結果は暴走した。それはお前がクーネに対して行われた行為への怒りが、クーネの記憶の中にある恐怖すら飲み込むほどだったと言うことだ。

 それほど怒らずにいれば、恐怖の記憶に負けてエルミスのように竦んでしまうか、ほどほどならば恐怖と怒りという負の感情同士でバランスが取れてもう少し冷静になれていたはずだ。」


 言葉を遮ったネィルは一気にまくし立て、答え以外の言葉は要らないと圧力をかけてきた。


「・・・、以前にも言っただろう。これは俺の贖罪だって。ネィルに言われたことで少しは気が楽になったが、それでもあっさりと気持ちを切り替えられるほど俺は人間が出来ていない。

 どう言い繕っても俺のせい・・・、いや、俺がクーネと言う娘を殺したことには変わらない。それを償おうと必死になっているだけのことさ。」


 いまひとつ納得のいかない表情のネィル。その表情に不満をを持ち


「なんだ、納得いかないようだな。そうだな、あと強いて言うなら・・・もう死にたくない、というくらいか。今でこそ俺がこの体を借りて生きてはいるが、クーネは一度死んだ身だ。

 ならば、この体をクーネに返すまで死ぬわけにはいかないだろう?」

「そうか、『もう死にたくない』か。確かにそれは必死にならざるをえないな。」

「だろ?ネィルが満足したかどうかはわからないが、これが今の俺の答えだ。」

「うむ、感謝するセイジ。お礼と言っては何だが一つ助言をしよう。あまりクーネの記憶にとらわれすぎて、自分を見失うなよ?」

「ん、当たり前だろう?クーネの記憶があるとはいえ、俺は俺だ。大丈夫だよ。」

「そうか。ならばいいんだ。」


 ネィルは夜空を見上げ、そっと目を閉じ少し考える。


(『もう死にたくない』か、納得は出来る、出来るのだが、何だ、この違和感は・・・?)


「さ、ネィル、中に戻ろうか」


 いつの間にかクーネに戻り、小屋の中へと戻っていく。ネィルはそんなクーネの後姿を見ながら、表情にこそ出してはいないものの、一抹の不安を心に残していた。


 戻ってきた二人はテーブルを挟んで座ると、その振動のせいかネィルの横で寝ていたエルミスが目を覚ます。


「あ、おふぁようございまふぁぁぁ・・・ふぅ。」

「こら、だらしないぞ?ちゃんとしろ。」

「うぅー、いいじゃないですかぁ。まだ眠いんですぅー!!でりゃー。」

「おいこら、エルミス!しっかり目を覚ませ!エルミス!!」」


 挨拶をしながらのあくび、そこからのネィルへの抱きつき攻撃。そしてそのまま押し倒し・・・


「おい!!クーネが見てるぞ!目を覚まさんか!」

「ふぇぇ・・・、くーね、さ、ん・・・?」

「おはよう、元気そうだね。」

「・・・。」


 寝ぼけ眼のエルミスとクーネの目が合い、数秒・・・。一瞬にして顔を真っ赤にし、抱いていたネィルを前に差し出し自分はその後へと顔を隠す。


「く、くくく、クーネさん!大変お見苦しいところをお見せしましてあのその・・・!」

「すまんな、クーネ。いつも、と言うわけではないのだが、たまに寝起きの悪いときがあってな。そんなときは完全に目が覚めるまで妙に甘えてくるから、この先こんなことがあったらうまく対処してくれ。」

「お父様!?なんてこと言うんですか!そんなこと他人に言わないでください!」


 ネィルの背中に顔を押し付け、ぐりぐりと首を動かしながら「きゃー!!」と叫んでいる。そんな様子をクーネはほほえましく眺め、それに気付いたエルミスは余計に恥ずかしくなり、結果、完全に落ち着くまで数分を要することになった。


「さてクーネよ、どこかいきたい場所はあるのか?」

「それなんだけど、クーネの目的であったジグラッドに会いに行こうと思うの。でもそれだとネィルは・・・、」

「ん、別にかまわないぞ?いいじゃないか。私を倒したあとの奴を見に行ってみるとしよう。」


 自分を殺した人物に会いに行くというのに、予想以上にあっさりと答えるネィル。


「不思議そうだな。そんなに意外か?そんなに大したことではなかろう。私は奴と全力で勝負し、そして負けた。それだけの話だ。そこに恨みも何もない。」

「はぁー、すごいなネィルは。私だったらとてもじゃないけどそんな風に考えられないよ。」

「もっとも、向こうはどう思っているかは知らないがな。ただ、幸いなことに誰かのせいで少女姿にされてるから向こうが気付くことはまず無いだろうよ。」


 そんな皮肉っぽくいうネィルにクーネが苦笑していると手を叩く音が響き、


「まぁ、つまりそれまでずっとその姿でいてくれると言うことですね?」

「む?いや、そんなつもりで言ったわけでは・・・。」

「そうかー、そのままでいることがお望みならそれは是非とも叶えてあげないとな。うん、本人が望んでいるのならしょうがないね。」

「ちょっとまて、本当にそういうつもりでは・・・おい、人の話を聞けぇ!」


 まさかのエルミスからの援護により、ちょっととはいえネィルを困らせることが出来たとクーネはご満悦だった。

ちなみに番外でネィルの言っていた物はプラスチック製のお皿と冷蔵庫のことです。

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