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1話目

「終わったぁ!これで完結だぁぁ!!」

「先生!お疲れ様でした!!」


原稿を抱えたスーツ姿の男性が、先生と呼ばれる人物、原稿を書き上げた作者である、「倉田くらた 政示せいじ」に深くお辞儀をする。


「本当にお疲れ様でした、先生!締め切りを4回も延ばされてさすがに殺意が沸きましたが・・・。いや、無事書きあがって良かったですよ。」

「いや、沖田君、殺意ってあのね・・・。まぁ、でも確かに苦労をかけたね。いや本当に迷惑をかけた、申し訳ない!」


倉田の担当編集である「沖田おきた たかし」に頭を下げる。沖田は慌てて手を振り、


「頭を上げてくださいよ先生、半分冗談ですってば。」


そんなやり取りをしつつ、テーブルに置いてあったお互いのコーヒーカップに口をつける。





「アースランド・ファンタジー」 作者・倉田政示


いわゆる剣と魔法のファンタジー世界。異世界より現れた魔王を倒すべく、立ち上がった勇者と仲間たちの物語小説。

設定はありがちながらも王道を行く物語で、今回の完結で15巻、過去に2回ほどアニメにもなり、コミックは13巻まで出ている作品である。





「しかし、これで15年続いたこの作品も終わるんですね。先生は次の作品とかはもう?」

「いや、さすがに少し休みたいな。まぁもし書くとしたらこの話の外伝か、あるいはその後の話を短編で、といったところか。」

「と言うことは、魔王倒した後の世界も少しは考えていると?」

「そこはいろいろとね。やはり魔王倒したとはいえ、それまでの出来事の後処理で一悶着とかいろいろ考え付きはするね。書くかどうかは別にしてね!」


倉田は笑いながら沖田に言う。


「当然書ききれなかったこともあるし、その辺の膿を出す意味でも、もう少しこの世界には関わりたい気分だ。締め切りに追われてるときは、もう関わりたくないと思うこともあるのに終わってみるとそんなことを思うんだから不思議なものだな。」


その言葉に沖田も笑いながら、


「私も締め切り破られるたびに絶対担当を替えてもらうんだ!と思ったりもしましたが、いざ完成して作品を読ませてもらうと、もうちょと頑張ってみるかな、となったものです。まぁ今だからこそそう思える笑い話ですけどね。」

「君は俺を褒めているのか、貶しているのかどっちなんだね。まったく・・・。」


ぶつぶつ言いながらも笑みは消えていない倉田。なんだかんだでずっと付き合ってきたからこその会話である。


「では先生、原稿いただいていきます。お疲れ様でした!とりあえずしばらくはゆっくり休んでください。また連絡いたします。」

「あぁ、気をつけてな。大事な原稿に何かあったらそれこそただじゃ済まさんからな?」

「はい!それはもう!!」


沖田は原稿を鞄に入れて大事そうに抱えもつ。そして何回か頭を下げつつ街の中へと消えていった。


「ふぅ・・・。」


倉田は先ほどまで使われていたコ−ヒーカップを手早く片付け、寝室へと向かう。

ベッドの前まで行くと子供のようにベッドへとダイブし、しばらく左右に転がり続けた後仰向けになり天井を見つめた。


(15年か、我ながらよく続いたものだ。こんなに長く付き合ってるとやはりすぐに次の作品を思いつかないな。)


枕を胸の位置に持ってきて抱える。


(とりあえずは感覚鈍らないように外伝とかの構想だけは練っておくか。出す出さないはまた沖田くんと相談だな。)


最近はラストスパートとばかりに執筆作業に没頭していた倉田は、考え始めたとたんに眠気が襲ってくる。


(徹夜作業とまでは行かなかったが睡眠時間はだいぶ削ったからなぁ。考えるのは少し寝てからでいいか・・・?)


そしてこういう時ほどいろいろ思いついたりするのが作家の悲しい性でもある。


(あぁ・・・、そうか。今度は勇者が救った世界をただの村民視点で平和な日常ってのもほのぼのしてていいなぁ・・・。)


徐々にまぶたが重くなり思考も鈍くなってくる。


(そして平和な日常の中に襲ってくる非日常、実は村民の中には・・・。中には・・・何がいるんだろう?)


倉田はそのまま深い眠りへと落ちていった・・・。











そよぐ風に肌をなでられ、少し寝返りを打つ。

草が鼻を刺激し、むずむずしてくるのを寝ぼけながら払う。そして仰向けになり薄目を開けると、青空が広がり、耳には風の音、鼻には草の香りが入ってくる。


(あぁ、今日もいい天気だなぁ。こんな日は運動不足解消も兼ねてネタ探しに散歩でも・・・?)


まだ少し覚醒してない思考回路で、何かがおかしいと思い始める。


(あ、れ・・・?確か俺はベッドで寝てた、よな・・・?)


ボーとしたまま少し考えた後、目を見開き跳ね起きる


「え、ちょ・・・!?どこだここ!?」


ベッドにいたはずが見渡す限りの草原、遥か遠くに聳え立つ、頂上が雲に隠れている山。周りの風景に驚き、慌てて立ち上がるもののバランスを崩し四つんばいの体勢なったとき、さらに驚く事実に気付く。


「は・・・?これ何の冗談だ・・・?それにこの声ってまさか・・・。」


四つんばいの体勢から喉に手を当てつつ地面に腰を下ろし胡坐をかく。そして視線を自分の胸元へ向けるとたわわに実る二つの大きな実。

倉田は恐る恐る触ってみると、手だけではなくその触れた部分にもしっかりと感覚がある。


「おいおいおい、まさかこれって・・・。」


躊躇も何もせず、胸に触れていた手を股間へと移す。


「・・・、だよな。座ったときに違和感はあったんだ・・・。」


長年付き添った大事な相棒がいなくなっている。


「オーケー、落ち着け。ここで叫ぶのは簡単だ。しかしこの手のネタはいろんな作品で散々見てきたじゃないか。」


深呼吸を一つ、今度はゆっくりと立ち上がり、首の稼動域限界まで動かしながら、自分の姿を見る。

まず一番に気付くのがお尻よりも下まで伸びる、長い銀の髪。

先ほど触ってみた胸も、改めてみるとわりと大きい方ではないだろうか?

そして、立ち上がった限りの視点の高さは、以前とそれほど変わらないところを見ると元の身長と同じ175cmくらいといったところか。

服装はシャツにズボンと目新しさは無い。


「ん、この姿って寝る直前に思い浮かべていた村民のイメージのひとつか・・・?」


倉田はまどろみながら考えていた作品のネタで村民視点の生活を思い描いていた。

その中の村娘のイメージとして思い描いていた姿に酷似している事に気付く。


「そうか、つまりこれは『ネタ』を考えながら『寝た』せいで見てる夢か・・・、いや洒落とかじゃなく。」


そう思い至ったらやってみることは一つだ、といわんばかりに両手を広げ思い切り両頬をひっぱたく。

パッチーン!!と乾いた音が草原に広がり、そしてすぐに、


「いってぇぇぇぇ!?」


倉田の叫び声。


「なんだ!すっげぇ痛いぞ!?夢とはいえこれは痛すぎるだろ!?まさか夢、じゃないのか・・・?」


ふと違う意味で叫びたい衝動に駆られるが、深呼吸をして落ち着かせる。


「待て待て、まずは周りの情報をしっかり手に入れよう。」


そう思いながら、再びゆっくりと辺りを見回すが、先ほどとなんら変わらない風景。しかし、ここであることに気付く。


「いや、この景色は見覚えがあるぞ・・・?どこだ、どこで見たんだ。思い出せ・・!」


記憶の倉庫を開け放ち、片っ端から思い出していく。そして行き着く一つの場面。


「そうだ!ここはアニメの「アスファン(アースランド。ファンタジー)」の中で見たソーグ草原だ!」


自分の作品のアニメで見た風景、そして書くとしたら作品終了後の世界を書こうと思いながらイメージした、村娘と同じ格好の今の自分の姿。

その二つの接点は・・・


「もしかして、ここはアースランドなのか?」


自分の描いた作品の世界。自分が描き出した世界。


「つまりあれか、目が覚めたら自分の描いた世界の村娘になってました、てことか?」


自分で言葉にして、乾いた笑いが出ていた。

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