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硝子のなかのドール

作者: 木月
掲載日:2008/07/28

 わたしは莉奈のことが好きなのだと思う。

「ねぇ、香織」

「な、何?」

 声を聞くと背中が震える。

「今日、元気ない?」

 目が合うとどきどきする。

「そんなこと、ないよ」

 まさか、あなたのことを考えてました、なんて言えない。

 莉奈は、透明な硝子で覆われている。誰も触れない。誰にも渡らない。当然わたし自身も、また然り。

「やっぱり男の子っていうのは、彼女の手作り弁当が食べたいものかな?」

 ね、香織。莉奈がわたしを追い越して、恥ずかしそうに振り返る。彼女の長い髪が揺れる。

「それはもう。食べたいでしょ」

 そうだよね。呟いて何か考えている莉奈は、とてもかわいい。

「莉奈と樋口君って、本当に美男美女のカップルだよね」

 高校の誰もが思っている、一般論を口にする。

「そうかなぁ」

 そうなのだ。莉奈には、樋口君というかっこいい彼氏がいる。

「莉奈、樋口君にお弁当、作ってあげなよ」

 莉奈は首がガクンとなるくらい、思いきり頷いた。

「香織にお願いがあるの」

「え、どうしようかな」

「お願いします」

 焦らしているけど、本当は莉奈の願いならなんでも聞く。

「しょうがないなぁ。いいよ。なんでも言いなさい。香織は優しいからね」

「あのね、料理を教えて欲しいの」

 かわいい。ただ思ってしまった。危うく、莉奈に抱き着いてしまうところだった。

 でも、それは無理。莉奈は硝子ケースの中だから。わたしの腕は冷たい硝子を打つだけ。

「いいよ。そんなの楽勝だよ」

 ありがとうと輝いた瞳で言い、莉奈は笑った。わたしも笑った。樋口君が知らない莉奈を、わたしは知ってる。

 太陽が傾く。あと一時間すれば、辺りは真っ暗になるだろう。沈みかけの太陽の光は、昼のそれ以上に力強い。わたしの莉奈への想いと、樋口君のそれ。天秤に載せたら、傾くのはどちらだろう。

「眩しいね」

 莉奈が言った。

 隣を歩く莉奈を見たら、わたしは動けなくなってしまった。あまりに、眩しくて。

 美しい。

 美しいだなんて、恥ずかしい言葉だけれど。でも、美しい。

 ぼーっと眺めていたら、莉奈を包む硝子の向こうに一羽、色とりどりの揚羽蝶が忍び込んだ。そして、髪飾りのように頭に止まり、莉奈を彩った。

 わたしの手が血に染まったっていい。硝子をぶち破り、自らのものにしてしまいたいくらい、莉奈は美しい。

 また、揚羽蝶もひどく美しく、ひどく憎らしかった。


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