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雲ひとつない晴れ晴れとする空。
これ以上ないほどに快晴な本日は、実に結婚式に最適な日であると言えよう。
「──みんな、おはよう」
「ああ、おはよう」
「おはようございます」
「おはようございますわ」
到着後、四人は、教会の中の待合室であいさつを交わした。
今日は、アッシュとオーレリアの式の当日。しかし、まだ本番まで少しばかり時間がある。
おもむろにウィルが訊いた。
「み、皆。落ち着いてるな……?」
「も、もちろんだよ」
「え、ええ」
「は、はい」
言葉とは裏腹に四人は、ガチガチに緊張していた。
何が起きても咄嗟に対応できるよう、何度も予行練習をしてきたが、やはり当日は予行とは違う。
特有の空気に呑まれ皆、冷や汗を浮かべているのだった。
それを見た子供が眠そうに目をこすりながら無邪気な声を上げる。
「ねえママー、あの人たち新郎新婦さんでもないのに、どうしてあんなに怖い顔して緊張しているのー?」
「……さあ? ママは知りませんよ」
「あっ、あのお兄さんとお姉さん、もしかしてこの前の──」
「止めなさい」
そんな会話が近くから聞こえてきても、四人の耳には届かない。そもそも今は、周りを気にする余裕など彼らにはなかった。
「……今日は、一丸となって乗り越えよう」
「はい、頑張りましょう」
「わたくしたちなら出来ますわ」
「ああ、絶対に」
四人は、同時に頷く。
是が非でも、この式で自分たちは、もうすでに大人になったのだと周りに知らしめなければならない。
自分たちが、周囲から求められているのは、大人の責任。大人の対応。
招待を受けた参列者として、相応しい行い。私情を一切持ち込まない。それが、今回の肝だ。
「──『自分たちは変わった。もうあの頃の自分のままじゃない』。そうだね?」
「ああ、そうだ」
「ええ、そうですわ」
「はい、もちろんです」
それを、四人は幾度も心に刻む。
カインが、懐中時計で時間を確認すれば、もう少しで本番が始まる。刻一刻とその時が迫っていた。
「最後に、ひとつだけ。絶対に、冷静を貫くこと。何があっても動揺してはいけないよ」
その言葉に、他の者は当然であると、強く頷く。
誰に何を言われようと動じてはならない。常に心を強く保つのだ。
これで各々、心の準備は済んだ。あとは、時が満ちるのを待つばかりである。
そして、数分後。会場のスタッフたちが、参列者たちを誘導するため待合室に現れた。
会場内での席はすでに決まっている。両夫婦は、一言だけ言葉を交わして、別れるのだった。
「お互い健闘を祈る」
「ああ、お互い無事にまた会おう」
「お元気で」
「ご武運を」
いつの間にか彼らは、戦友となっていた。