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 ──それは、予想より早く訪れた。


 否、訪れてしまった。


「ああ、来てしまったよ、イルザさん……」

「来てしまいましたね、カインさん……」


 ウィルとエリーゼの二人と会ったその二週間後。何の前触れもなく彼らの屋敷には、二通の招待状が届いた。


 イルザの分。カインの分。その二通だ。

 テーブルに置かれた招待状の送り主は、アッシュとオーレリア。内容は、すでに察している。


 未だ中身を見ずに、カインがおずおずと提案するのだった。


「……これ、見なかったことにしたら駄目かな?」

「駄目でしょう……たぶん」


 ふたりは、小さく息を飲む。どちらの顔も青ざめていた。


「うう、胃が……」

「私もです……」


 生唾を飲み込み、ふたりは、それぞれ招待状を手に取る。


「いいかい? 『せーの』だ。その掛け声で封蝋を開けよう。裏切りはなしだ。いいね?」

「はい、もちろんです」


 両者、深呼吸を繰り返した後、そろえて掛け声を言う。


「「せーの」」


 そして同時に中身を見て、さらに顔を青ざめさせる。


「そ、その日かあ……」

「その日ですね……」


 ふたりは悲痛な声を漏らした。


 招待状に記載されている予定日当日は、憎たらしいほどに何も用事が無い日であった。

 まるで狙い撃ちしたかのようなふたりが丁度、暇な日。カインの仕事も二人での挨拶回りもない。完全に、休日として設定したそんな日では、どう足掻いても出席を断れない。

 何も無いのに断れば、噓を吐いたことになる。ウィルたちと話した結果として、もしもの場合を考えるとその選択肢は避けたいものだった。

 もし招待状が来て、都合が合ってしまえば出席。そう決めてしまったのだから、とにかく頑張るしかないのだ。


 救いはないのかとふたりは思わず、天を仰ぐ。


「イルザさん……覚悟を決めようか」

「ええ……そうですね、カインさん」


 心を落ち着けた後、両者、腹をくくる決意をする。


「よし。至急、ウィルのところへ手紙を出さないと」

「そうですね、出来る限り相談し合いましょう」


 幸い、アッシュとオーレリアの式までは、あと一カ月ほどある。それまでに、ふたりはウィル、エリーゼと協力して準備を進めていくつもりであった。


 ♢


 同じく、極めて暗い雰囲気のふたりがいた。


「あの、その、ウィルさん……頑張りましょう。イルザとカイン様もきっと力を貸してくれるはずですわ」

「ああ、エリーゼさん。心配ありがとう。でも一応、僕も覚悟していたことだ……」


 やや項垂れるウィルを気遣うエリーゼ。こちらも、送られてきた招待状を見て胃をきりきりと痛めていた。


「なあ、この情報を持ってきてくれた商人がいただろう? 今度から、あの人とめちゃくちゃ親しくなろうと思う……良いかな?」

「わ、私も賛成ですわ」


 並ならぬ迫力のウィルに対し、エリーゼも重々しく頷いた。


 そして後日、彼らは、商人とその家族を自分の屋敷に招いて盛大なパーティーを行うのだった。


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