7
挨拶回りがひと段落し、ようやく一息吐けるようになった頃。
「進捗はどうだ?」
「半分以上は終わったと思う」
「僕らの方もそれくらいだな」
カフェテラスで四人は集まっていた。
落ち着いた雰囲気の中くつろいではいるが、一同の顔には濃い疲労の色が見える。
ウィルは、言い辛そうに聞いた。
「その……どうだった?」
「そうですね。皆さん、昔のことを根掘り葉掘り聞いてこようとするのが、何というか……」
「確かに。それが一番辛いよなあ……」
ウィルが頷けば、エリーゼも苦い顔をする。
「そうですわよね。あまり蒸し返されると、良い気分ではありませんわ」
「彼らに悪気は無いと思うけれど……やっぱりね」
カインも渋面を作る。
考えることは同じらしく、両夫婦共に自分たちの黒歴史について触れられないよう全力を尽くしていたのだった。
どこへ行っても、過去の自分たちの行いについて聞かれる。並大抵の努力では払拭出来ないレッテルであった。
今後を思うと次第に、憂鬱な空気が四人を包みこむ。
店員が、こちらをチラチラと見つめていた。穏やか時間を過ごす場所であるはずが、なぜか席の一角だけ、どんよりとしたムードをしていたからだろう。
重い空気だった。
もはやそれは、店の雰囲気が悪くなるので、お願いだから帰ってくれと必死に店員が訴えるほどのものである。
しばらくしてからウィルは、「そう言えば」とふと言葉を漏らす。
「なあ、君たち聞いたか? そう遠くないうちに、どうやらアッシュ君とオーレリア嬢が結婚するらしい」
「えっ、本当かいそれ?」
「ああ、彼らに直接聞いたわけじゃ無いが、彼らとかかわりがあるさる知り合いから聞いたものだ」
「そ、そうなのですか……おめでたいですね」
「ああ、そうだね。素晴らしいことだ……」
イルザとカインは、笑みを浮かべようとして顔を引き攣らせる。
「わたくしたちも、そんな顔になりましたわ……」
「ああ、確かになった。客観的に見ると酷い顔だな……ははは」
ウィルは、苦笑すると言葉を続ける。
「で、だ。もしかしたら、僕らや君たちのところへ招待状が届くかもしれない」
「「えっ」」
イルザとカインは、驚きの声を上げる。
「それって、本当ですか……?」
「ウィル、冗談ではないよな?」
俯きがちに、ウィルは首を横に振って否定した。
「僕も耳を疑ったさ。それで、その知り合いに何度も確認した。でも、ふたりがそう言っていたらしい。――『イルザとエリーゼに僕らが幸せになったところを見て欲しい』、『ねえ、カインとウィルも是非呼びたいわ』って、そんな感じ。それについては聞き間違いは無いって」
それを聞いてふたりは呆然とする。
カインは、手元にあるスプーンを取り落とした。
イルザは、無心になって自分の紅茶の中に角砂糖を投入し続ける。
ふたりは、ウィルの言葉が信じられなかった。信じたくなかったとも言える。
ふたりの結婚式には、アッシュとオーレリアは招待されていない。それは、これ以上面倒事を増やしたくなかった両家の配慮によるものだ。
ウィルとエリーゼの式でも同様。
ゆえに、仮にアッシュとオーレリアの二人が結婚することになったとしても、式には呼ばれないだろうというある種の安心感があった。
そのため、完全に不意打ちである。
「……その、急用で断っても?」
「別に良いと思うが、今後のことを考えると体面的にあまりよろしくないんじゃないか? 周りにまだ引きずってると思われる」
「そうですけど……でも、万が一何かあれば……」
言いたいことは理解出来ると、ウィルは強く頷く。
「ごもっともだ。だけど、『僕たちは変わった』。周りにそう見せないと、身内が安心してくれないのも事実なんだよなあ……」
ジレンマであった。
そこから、四人で力を合わせてあれこれと相談し合う。
次第に熱が入り、議論が加速した。
店員の苛つきも比例して加速する。
そして、ようやく導き出した結論は――
「――招待状が届いたら、その……お互い、頑張りましょう」
「……ええ、お互い」
「……ああ」
「……うん」
頑張る。それしかなかった。