4
結婚式が終わり、次はパーティーが控えている。
少しの休憩時間が終われば、カインとイルザは、このあと屋敷へ戻らなければならなかった。
しかし、そこへ思わぬ来客が訪れる。
「よ、よう、カイン」
「お、お久しぶりですわね、イルザ」
ふたりの前に現れたのは、ウィルとエリーゼであった。
「あ、ああ、ウィル。しばらくぶりだね」
「ええ、エリーゼさん、お久しぶりですね……」
お互いに挨拶を交わす。
「どうして、ここに……?」
「いや、このあと自分の屋敷でパーティーを行うんだが、まだ時間に余裕があって……それで」
「は、はい。そうですわ」
ウィルとエリーゼはお互いに目配せをして、やや俯きがちに言うのだった。
「な、なるほど。そういえば今日は、ふたりも式を挙げたんだっけ。えっと、ふたりともおめでとうございます」
「ありがとうございます、カイン様」
「ありがとう、カイン。そちらこそ結婚おめでとう」
ウィルの言葉に、カインとイルザは、「ありがとうございます」と同時に感謝の言葉を述べた。
「えっと、それで今日はどうしたのでしょうか?」
イルザが訊けば、ウィルとエリーゼは「その……」と口ごもる。
ふたりは積極的に話を切り出せずにいた。
それに対し、カインとイルザも気の利いた言葉を言えないでいる。
重い沈黙が続くのだった。
それもそうだろう。
彼ら彼女らは、つい先日まで恋のライバル同士で常に競い合ってきた者同士だ。
もし、自分ではなく相手が選ばれていたなら、潔く負けを認めて、そのライバルを応援出来ていただろう。
そう、本来なら、後腐れなく終わっていたはずなのだ。
しかし、結果は、まさかの不完全燃焼である。
ゆえに、相手にどう接していいか分からず、戸惑っているのだった。
「よ、よし――」
ようやく意を決したのか、一度深呼吸をすると場の淀んだ空気を振り払うように、ウィルは話を切り出す。
「ま、まあ、すでに済んだことをいつまでも引きずっていても仕方ないな。それでだ、カイン。お前とは今までライバル同士だった。僕は、そう思っている」
「ああ、俺もそう思っているよ」
「だが、もう僕たちは結婚して一端の大人だ。これからは、馬鹿なことはしてられない。これからは、争わず仲良ししていきたいんだ」
徐にウィルは、手を差し出す。
「これからはお前をひとりの友人として扱ってもいいだろうか?」
「ああ喜んで、ウィル」
そこに躊躇いなどなかった。ふたりは握手を交わす。
そして、男性ふたりの傍らで話す女性ふたりはというと、
「え、ええと、イルザ。わたくしは、もう目を覚ましたつもりですわ」
「わ、私もです、エリーゼさん」
「今までのことは忘れたいくらい、そうよね?」
「ええ、もちろんです」
「では、すべて水に流しましょう」
「そうですね、そうしましょう」
女性ふたりは、おかしそうに小さく笑った。
ひとまずわだかまりが解けたところで、ウィルとエリーゼは丁度、馬車へ戻る時間になった。
そして、今後もよろしくおねがいします、と言い合ってこの場を閉める。
短い一時であったが、こうして各々、小さいながらも確かな友情を築き上げることとなったのだった。