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3

 その後、ふたりの結婚式は滞りなく行われた。


「健やかなる時も病める時も、あなたたちは夫婦であることを誓いますか?」


 教会にて神父が訊けば、イルザとカインは同時に言葉を返す。


「「誓います」」


 周囲にいる者たちは思うのだった。

 本当かよ、と。

 この場では、手放しにふたりを祝福すべきなのだろうが、その当人たちが全然、幸せそうになかったのだ。


 一度も目を合わさない。

 一緒になって妙にそわそわしている。

 とにかく全然、落ち着きがない。


 それを見て初々しいふたりだと勘違い出来れば、どんなに良かっただろうか。けれども、式会場に参加している皆は、これまでの彼らの行いを知っている者ばかり。


 ゆえに、事情は大方理解していた。

 余所余所しいふたりを見て、彼らの中で不安が渦巻く。


 結婚する当人たちの心中は、かなり複雑であるに違いない。同情はしよう。

 しかし、また新たな問題を起こされてはたまったものではない。そのような思いを抱いて、参加者は気が気ではなかった。

 頼むから、もう尻拭いはしたくない。彼らは、そう切に願っていたのだった。


「私は妻のイルザを愛します」

「私は夫のカインを愛します」


 今、ふたりはどのような表情を浮かべているのだろう。現在、参加者側の席に背を見せているため分からないが、言葉を読み上げる神父が苦い顔をしていることから、大体は察することが出来た。


 最後は、二人の抱擁で締めくくる。


「い、イルザさん、あ、アイシテルヨー」

「か、カインさん、わ、ワタシモデスヨー」


 そして、なぜか、片言で抱き合うのであった。


 参加者は胃痛に悩まされる。

 これほど、ギクシャクした結婚が他にあっただろうか。あるのではあれば、是非とも見てみたいものだ。そう思いながら、拍手を送る。


 ♢


 同日、カインとイルザの結婚式以外にも近くの教会で式を挙げている一組の男女がいた。


 新郎の名は、ウィル。

 新婦の名は、エリーゼ。


 彼らは、カインとイルザの元恋のライバルである。


 同じく二人は結婚することになっていた。

 理由はもちろん、カインとイルザに似た事情からだ。


 そして、当然のごとく彼らを取り巻く空気は、とてもではないが祝福できるようなものではなかった。


 それを感じ取った子どもが無邪気に声を上げる。


「ママー、あの人たち真っ白なお洋服を着てお葬式してるよー?」

「しっ、滅多なことを言うもんじゃありません!」


 子連れの参加者が、気まずい顔をしていた。


「でも、ママ、この前、『結婚は人生の墓場よ、肝に命じておきなさい』って……」

「しっ、不謹慎なことを言うもんじゃありません!」


 新郎新婦は泣き笑いのような表情になっていた。この場にいる誰もが、「帰りたい」と何度心の中で唱えたことだろう。

 もはや、事故であった。


ハッピーエンドになります。

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